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第9話「王宮の作戦会議」

第5部

エイベル1689銀河団。


四人の王が集う

王宮の大広間には、

重苦しい空気が漂っていた。


中央の巨大スクリーンには、

北方宙域の戦闘記録が

映し出されている。


帝国軍の防衛線に突入した

ベイロン軍。


連携を欠いたまま

攻勢に加わったリュージュ軍。


そして、

戦場に姿を現した

皇太子シャルルの旗艦、

鳳凰δ。


数万隻の駆逐艦群が

宙域を埋め尽くした瞬間、

両軍の艦隊は

恐慌に陥り、

我先にと

戦場から離脱していった。


映像が停止する。


「だらしのない奴ばかりだ。……」


ヴァルビィが、

呆れたように吐き捨てた。


「何だと!」


リュージュが睨みつける。


「そんなことを言うなら、

 お前がやってみろ!」


ベイロンも声を荒らげた。


ヴァルビィは、

二人を交互に見た。


「やってやる。

 お前らは、そこで

 縮こまって見ていろ!」


「ふん!」


「ふん!」


二人は、

そろって顔を背けた。


「内輪揉めを

 している場合か!!」


覇王ガルドの怒声が、

大広間を揺るがした。


三人は一斉に口を閉じた。


口を開いたのは、

覇王ガルドだった。


「……これが、

 北方宙域の戦闘結果か?」


低い声が、大広間に響いた。


ベイロンは

不機嫌そうに腕を組み、

リュージュは

黙って戦況報告書を

読んでいる。


ヴァルビィだけが、

三人の表情を

注意深く観察していた。


「我が軍は

 甚大な損害を

 受ける前に撤退した。」


ベイロンが言った。


「戦力は温存されている。

 今回の結果だけで、

 帝国軍に敗れたと

 判断するのは早計だ。」


「戦力を温存した、か。……」


ガルドが視線を向けた。


「では、なぜ撤退した?」


「鳳凰δが出現したからだ」


ベイロンは即座に答えた。


「敵の増援規模は、

 事前の予測を

 大幅に超えていた。

 数万隻の駆逐艦が

 一斉に展開したのだ。

 あのまま戦闘を続ければ、

 損害が拡大

 していた可能性がある。」


「その前に、

 お前の艦隊は

 帝国軍に押されていた」


リュージュが

静かに口を挟んだ。


ベイロンの眉が動く。


「何だと?」


「こちらの艦隊と連携せず、

 独断で先陣を切ったのは、

 お前の軍だ。

 その結果、

 帝国軍に攻撃の機会を与えた。」


「貴様の軍も、

 同じように

 押されていたではないか!」


「否定はしない」


リュージュは

表情を変えなかった。


「だが、

 こちらは

 戦力を維持しながら、

 敵の防衛能力を探っていた。

 お前の

 抜け駆けがなければ、

 戦闘の開始時期も、

 戦場の状況も

 違っていたはずだ。」


「結果論だ!」


「結果を分析しなければ、

 次の戦いも同じことになる。」


二人の視線がぶつかった。


そのとき、

王宮の大広間に、

重い声が響いた。


「やめろ」


ガルドだった。


「責任の押し付け合いを

 するために、

 ここへ

 集まったのではない。」


ベイロンもリュージュも、

口を閉じた。


「問題は、鳳凰δだ」


ガルドは

スクリーンに視線を戻した。


「帝国軍の皇太子が、

 あの規模の艦隊を率いて

 戦場に現れた。

 しかも、

 敵の撤退を確認した後も、

 無秩序な追撃に

 走ることなく、戦場を確保した。」


ガルドは一度言葉を切った。


「単なる大軍ではない。

 指揮統制も、

 艦隊運用も、

 こちらの想定を超えている。」


ヴァルビィが頷いた。


「映像から判断する限り、

 鳳凰δの艦隊は、

 戦場に到着する前から

 整然とした隊形を

 維持しています。

 敵の状況に応じて、

 全体が一つの意思で

 動いているように見えます。」


「つまり、

 あの艦隊を相手にするには、

 数を揃えるだけでは

 足りないということか。……」


ガルドの問いに、

ヴァルビィは答えた。


「少なくとも、

 現在の我々の指揮体制では、

 同規模の艦隊を集めても、

 同じように運用できる

 保証はありません。」


ベイロンが舌打ちした。


「ならば、

 もっと大軍を

 送り込めばいい。

 帝国軍とて、

 無限に艦隊を

 出せるわけではない。」


「その考えで、

 今回の戦いはどうなった?」


リュージュが尋ねた。


ベイロンは睨み返したが、

答えなかった。


ガルドは

椅子の背に身を預けた。


「戦力を増やすこと自体は

 必要だ。だが、

 それだけでは解決しない。

 四つの王国が

 それぞれの判断で動き、

 戦場で互いの意図さえ

 把握できない。それでは、

 帝国軍に各個撃破される。」


「では、どうする?」


ベイロンが尋ねた。


「共同作戦本部を

 設置するべきです」


ヴァルビィが答えた。


三人の視線が集まる。


「各王国の艦隊を

 一つの指揮系統に

 組み込む必要はありません。

 しかし、

 少なくとも作戦目標、

 進攻時刻、

 撤退条件、

 通信手順は

 統一するべきです。

 各王が

 個別に命令を出す場合でも、

 他の王の艦隊に

 影響する行動については、

 事前に調整する。」


「各王の権限を

 制限するということか?」


ベイロンが不満げに言った。


「戦場での独断が、

 他の艦隊を

 危険にさらすことを

 防ぐためです。」


ヴァルビィは淡々と答えた。


「今回のように、

 一部の艦隊が

 勝手に前進し、

 その後退によって

 隣接する部隊まで崩れる

 事態を

 防がなければなりません。」


リュージュが口を開いた。


「私は賛成だ。

 共同作戦本部があれば、

 敵の防衛線を探る段階と、

 突破を試みる段階を

 分けられる。

 増援の投入時期も調整できる。」


ベイロンは

しばらく黙っていた。


自らの艦隊が

抜け駆けした事実は、

否定できない。


だが、

他の王に

指揮権を握られることも

受け入れ難かった。


「各王国の艦隊指揮権は、

 それぞれの王が保持する。

 それが条件だ。」


「当然だ」


ガルドが答えた。


「我々は

 一つの王国に

 なろうとしているのではない。

 帝国軍に対抗するため、

 必要な部分で協力するのだ。」


その言葉に、

ヴァルビィも同意した。


「共同作戦本部は、

 各王国の艦隊を

 直接指揮するのではなく、

 作戦の調整と情報の共有を

 担当する。それならば、

 各王の権限を維持しながら、

 連携を改善できます。」


ガルドは頷いた。


「よし。

 共同作戦本部を設置する。

 各王国は、

 参謀と通信担当者を派遣しろ。

 戦況情報を共有し、

 作戦計画を事前に調整する。」


「承知した」


リュージュが答えた。


ベイロンも、

不承不承ながら頷いた。


しかし、

ガルドは

会議を終わらせなかった。


「もう一つ、

 確認しておくことがある」


スクリーンに、

鳳凰δの映像が

再び表示された。


「皇太子シャルルの艦隊は、

 北方宙域に現れた。

 だが、あれが

 帝国軍の全戦力ではない。」


ヴァルビィの表情が

引き締まった。


「皇后マリアの艦隊も、

 別に存在します」


「そうだ」


ガルドは続けた。


「帝国軍には、

 皇后と皇太子、

 それぞれが率いる

 強大な艦隊がある。

 今回、我々が

 目の当たりにしたのは、

 そのうちの一つに

 すぎない可能性が高い。」


ベイロンの顔から、

先ほどまでの

強気な表情が消えた。


「……つまり、

 まだ別の大軍が

 控えているということか?」


「その可能性を前提に、

 作戦を立てる必要がある。」


ガルドは

四人の王を順に見渡した。


「次の戦いでは、

 相手の戦力を

 過小評価しない。

 各王国の艦隊を

 無駄に失うことも許さない。

 共同作戦本部を通じて

 情報を共有し、

 敵の戦力と配置を見極める。」


リュージュは静かに頷いた。


ヴァルビィも同意を示した。


ベイロンは不満を残していたが、

もはや

反対する理由を

見つけられなかった。


会議は、

共同作戦本部の設置と、

四王国間の

情報共有体制の構築を

決定して終了した。


だが、四人の王は、

それぞれ異なる考えを

胸に秘めていた。


ガルドは

帝国軍に対抗するための

統制を求め、

リュージュは

次こそ

計画的な戦いを望んでいた。


ベイロンは

失った主導権を

取り戻そうと考え、

ヴァルビィは

三人の王の動向を

冷静に見定めていた。


共同作戦本部が

設置されても、

四人の王が

一つの意思で動ける

保証はない。


そして

帝国領北方宙域では、

鳳凰δを中心とする

シャルルの艦隊が、

すでに次の展開に備えていた。


エイベル1689銀河団の

王たちは、

ようやく

帝国軍の脅威を

正面から認識し始めた。


しかし、

彼らが次に何を選ぶのか。


その判断が、

四王国の運命を

左右しようとしていた。

明日 8:10 に投稿します。

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