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第7話「このままでは押し切られる」

第5部

帝国領北方宙域。


戦闘開始から

数時間が経過していた。


無数の艦艇が放つ砲火が、

暗黒の宇宙を

埋め尽くしている。


ベイロン軍の先陣は、

帝国軍の防衛線へ

突入したものの、

後続部隊との連携を

欠いていた。


さらに、

その動きに

引きずられるように

リュージュ軍も

攻勢に転じたため、

両軍の配置は

次第に乱れ始めていた。


「右舷側の艦隊が

 突出しています!」


ベイロン軍の旗艦で、

参謀が叫んだ。


「後続部隊との距離が

 開きすぎています。

 このままでは、

 敵に分断されます!」


「ならば、

 後続を急がせろ!」


「しかし、

 中央の艦隊が

 まだ

 戦闘宙域に

 入っておりません!」


「何をしている! 

 全艦、前進させろ!」


ベイロン軍の指揮官は、

苛(いら)立ちを隠さなかった。


先陣が戦果を挙げれば、

後続も続く。


そう考えていたのだろう。


だが、

帝国軍は

その隙を見逃さなかった。


「敵右翼が突出。

 中央との間に

 間隙が生じています」


北方方面司令部に報告が届く。


司令官は戦況図を見つめた。


「第一艦隊、

 敵の突出部を

 押さえろ。

 第二艦隊は

 間隙の外側から

 圧力をかける。

 第三艦隊は

 現在の位置を

 維持し、突破を許すな」


「了解!」


帝国軍の各艦隊が、

一斉に動いた。


第一艦隊が

敵の先頭を受け止め、

第二艦隊が

側面へ回り込む。


突出したベイロン軍は、

前方からの砲撃に

対処しながら、

側面からの攻撃にも

応じなければ

ならなくなった。


「左舷側、被弾多数!」


「後退しろ! 

 いったん後退して、

 隊形を立て直せ!」


だが、

後退命令は

艦隊全体に

行き渡らなかった。


前進を命じられた艦隊と、

後退を命じられた艦隊が、

同じ宙域で進路を交錯させる。


隊形はさらに乱れ、

互いの射線を

遮る艦艇まで現れた。


帝国軍の攻撃は、

そこへ集中した。


ベイロン軍の先陣は、

徐々に押し戻されていった。


その頃、

リュージュ軍の旗艦でも、

厳しい報告が相次いでいた。


「陛下、

 ベイロン軍の右翼が

 後退を始めました!」


「こちらの左翼との連携は?」


「取れておりません。

 ベイロン軍は

 独自に後退しており、

 こちらへの連絡もありません」


リュージュは、

戦況図から目を離さなかった。


「勝手に突っ込み、

 勝手に退くか……」


ベイロン軍が

先陣を切ったことで、

リュージュは

予定を変更せざるを

得なかった。


だが、

いざ戦闘が始まると、

両軍は

互いの動きを

把握しないまま戦っていた。


「陛下、

 我が軍も

 中央部で押されています!」


「原因は?」


「敵の艦隊運用が

 統一されています。

 こちらが

 攻撃を集中させようとすると、

 帝国軍は

 別の艦隊を動かして

 側面を支えます。

 こちらが追撃に移れば、

 別方向から反撃を受けます」


リュージュは唇を結んだ。


帝国軍は、

個々の艦隊が

独立して戦っているように

見えて、その実、

全体の戦況に

合わせて動いていた。


対して、

ベイロン軍は

自らの戦果を優先し、

リュージュ軍は

自軍の計画を

守ろうとしている。


同じ敵を相手にしていながら、

両軍の動きは

一つになっていなかった。


「各艦隊に命令しろ。

 突出を避け、

 隣接する部隊との

 連携を優先させる」


「承知しました」


「ベイロン軍にも

 連絡を入れろ。

 独断での

 前進と後退を

 やめさせろ」


「すでに何度か

 通信を試みていますが、

 返答はありません」


リュージュは、

深く息を吐いた。


「これでは、

 3,000隻を集めた

 意味がない」


それでも、

戦いを

止めることはできなかった。


帝国軍は、

両軍の乱れを利用して、

着実に

防衛線を押し広げていた。


ベイロン軍の

一部が後退すると、

その空いた宙域へ

帝国軍が進出する。


リュージュ軍が

反撃を試みると、

帝国軍は

複数の艦隊で攻撃を受け止め、

別の部隊を側面へ回した。


一度に大きく崩すのではない。


敵の連携が

乱れた場所を見つけ、

そこへ圧力をかける。


その繰り返しによって、

帝国軍は

戦場の主導権を

握りつつあった。


「第二艦隊、

 前進を続けています!」


「敵中央部、後退!」


「第三艦隊より報告。

 敵の追撃部隊を

 阻止しました!」


北方方面司令部に、

次々と報告が入る。


司令官は、

敵軍の配置が

崩れていく様子を

確認していた。


「追いすぎるな。

 敵が後退したからといって、

 陣形を崩して

 追撃する必要はない。

 こちらの連携を保ち、

 押し込める場所から押し込め」


帝国軍は、

戦果に浮かれることなく

前進を続けた。


その整然とした動きが、

敵軍との差を

さらに広げていった。


やがて、

ベイロン軍の旗艦に

新たな報告が届いた。


「閣下! 

 前線の複数部隊が

 後退しております。

 損傷艦も増加。

 現在の隊形では、

 これ以上の

 攻勢は困難です!」


「リュージュ軍は

 何をしている!」


「リュージュ軍も

 後退を始めています。

 ただし、こちらとは

 別の方向へ

 移動しているため、

 共同での再編は困難です!」


ベイロン軍の指揮官は、

拳を握り締めた。


「帝国軍め……!」


怒りをぶつけても、

戦況は変わらない。


前線では、

帝国軍がさらに進出し、

ベイロン軍の突出部を

押し戻していた。


リュージュ軍もまた、

孤立した部隊を救援するために

戦力を割かれ、

攻勢に使える艦艇が

減っていった。


両軍は、

まだ壊滅してはいない。


しかし、

戦いの流れは

明らかに変わっていた。


統制の取れない

二つの軍に対し、

帝国軍は

全体の連携を保ったまま

圧力をかけ続けている。


そして、

その差は

時間が経つほど

大きくなっていった。


北方宙域。


帝国軍の防衛線は、

崩れるどころか、

少しずつ前へ進んでいた。


リュージュは、

後退を続ける自軍の艦隊を

見つめた。


「……このままでは、

 押し切られるな」


参謀総長は答えなかった。


ベイロン軍との連携を

立て直せなければ、

戦況を好転させるのは難しい。


だが、

今もベイロン軍からは、

統一した作戦を進めるための

返答が届いていなかった。


戦場では、

帝国軍の砲火が再び閃いた。


リュージュ軍とベイロン軍は、

少しずつ、しかし確実に

押し込まれていた。

明朝 8:10 に投稿します。

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