第4話「増援は、まだか?」
第5部
帝国領北方宙域。
リュージュ軍3,000隻の艦隊は、
帝国軍の監視線を越え、
前進を続けていた。
その陣形は、
中央、
左翼、
右翼
の3つに分かれている。
中央の300隻は、
敵情を探りながら
先制攻撃を加える部隊。
左右の翼にも、
それぞれ300隻が配置され、
中央から距離を取って
大きく迂回していた。
3方向からの偵察と攻撃。
残る艦隊は、
中央部隊の後方に控え、
戦況に応じて動けるよう
待機している。
リュージュは
旗艦の指揮区画で、
総参謀本部から届いた報告に
目を通していた。
「中央部隊から通信です」
通信士が告げる。
「敵の防衛配置を確認。
第一艦隊を中心に、
複数の艦隊が所定の宙域を
維持しています」
「敵の動きは?」
総参謀長が尋ねた。
「現時点では、
大きな変化はありません。
こちらの接近を把握
しているものと思われます」
リュージュは
報告書から顔を上げた。
「気づいているのに、
動かないか?……」
「敵は、こちらの
規模と目的を
見極めているのでしょう」
総参謀長は戦略画面を示した。
「中央部隊が
敵の反応を引き出します。
その間に左右の部隊が
外側から接近し、敵の
配置と防衛能力を調べます」
「攻撃は?」
「偵察の範囲内で実施します。
敵の反応が
予想以上に強ければ、
深入りせずに離脱させます」
リュージュは短く頷いた。
「よし。
3方向とも、無理はするな。
敵の戦力を測るのが先だ」
「承知しました」
総参謀長は、
その命令を作戦部へ伝えた。
作戦部は
各部隊の位置と任務を確認し、
通信部を通じて
中央、
左翼、
右翼
の各艦隊司令部へ命令を送る。
命令を受けた各司令官は、
配下の艦艇へ
具体的な行動を指示した。
リュージュが
300隻ずつの部隊を
直接操るわけではない。
王が決めた作戦を
総参謀本部が命令に変え、
各艦隊司令官が
現場で実行する。
その仕組みが、
3,000隻の艦隊を
動かしていた。
「中央部隊、
攻撃開始まで3分」
通信士の報告が響いた。
リュージュは
戦略画面を見つめた。
「始めろ」
中央部隊の
先頭を進む巡洋艦が、
進路をわずかに変更した。
敵艦隊との距離が、
砲撃可能な範囲へ
近づいている。
「敵の防御配置を確認。
前方に
複数の艦艇群を確認しました」
「敵の反応は?」
「こちらを捕捉しています。
ただし、
攻撃の兆候はありません」
中央部隊の司令官は、
戦術画面を見つめた。
敵は待っている。
こちらが何をするのか、
見定めようとしているのだ。
「予定どおり、
先制攻撃を行う。
敵の反応を
確認したら、
直ちに報告しろ」
「了解!」
中央部隊の艦艇から、
砲撃が放たれた。
光の筋が宇宙空間を走り、
帝国軍の前方へ突き進む。
直撃はしなかった。
帝国側の艦艇が、
攻撃を察知して
回避したためだった。
だが、それで十分だった。
「敵艦隊、回避運動を開始!」
「防御火器の作動を確認!」
「敵の反撃は?」
「まだありません!」
中央部隊の司令官は、
すぐに報告を送った。
その情報は
通信部を経由して
総参謀本部へ届き、
作戦部が解析を始める。
帝国軍の防衛能力は高い。
しかし、
どの艦隊が
どの範囲を担当しているのか、
まだ全容はつかめない。
その頃、
左翼部隊は
敵の側面へ回り込んでいた。
中央部隊とは
異なる方向から接近し、
帝国軍の配置を探る。
「敵の側面に艦艇群を確認!」
「距離を保て。
こちらの存在を
隠す必要はない。
攻撃を
受けた場合の反応を調べる」
司令官の命令に従い、
部隊は進路を維持した。
やがて、
帝国軍の一部が向きを変えた。
「敵艦艇、こちらへ転進!」
「数は?」
「確認できた範囲では、
こちらを上回ります!」
「敵の射程を測れ。
無理に接近するな」
左翼部隊が攻撃を開始する。
帝国軍も応射した。
双方の砲火が交差するなか、
左翼部隊は
敵の反撃速度と
射撃精度を記録していく。
右翼部隊も、
ほぼ同じ頃に
行動を開始していた。
こちらは
さらに遠くを迂回し、
帝国軍の
防衛線の外側へ進んでいる。
「敵の配置に変化あり!」
「どこだ?」
「中央部隊への対応に、
一部の艦艇が
移動しています」
右翼部隊の司令官は、
戦術画面を拡大した。
中央で攻撃を受けた帝国軍が、
周囲の艦隊と連携して
防御を固めている。
その動きは速かった。
単独の艦艇が
場当たり的に
対応しているのではない。
艦隊全体が、
共通の情報をもとに
動いているように見えた。
「記録しろ。
敵の連携能力は高い」
「了解!」
右翼部隊も攻撃を加えた。
帝国軍は迎撃したが、
追撃には出てこない。
3方向からの
攻撃を受けても、
防衛線を崩さず、
各部隊の位置を維持していた。
リュージュ軍の
3つの部隊から、
相次いで報告が届く。
総参謀本部では、
それぞれの情報が
突き合わせられていた。
「敵は、
3方向からの
攻撃に対応しています」
作戦部長が報告した。
「中央への集中攻撃にも、
側面からの攻撃にも、
対応が速い。
防衛線に
大きな隙は見られません」
総参謀長は、
画面に表示された
敵艦隊の動きを見つめた。
「損害は?」
「こちらは軽微です。
ただし、
敵の防御能力を
考えると、
現状の
3方向攻撃だけで
突破するのは
困難と思われます」
「各部隊には、
これ以上の深入りを
避けさせろ。
偵察結果を整理し、
次の判断に備える」
「承知しました」
命令は
各艦隊司令部へ伝わり、
3つの部隊は
それぞれ離脱を始めた。
帝国軍は、
なおも追撃してこなかった。
それが、かえって
リュージュの警戒心を強めた。
敵は、
こちらの攻撃を受けても
慌てない。
戦力を見せることも、
無理に追い払うこともしない。
ただ、
こちらの動きを見ている。
「陛下、偵察部隊が
帰還を開始しました」
総参謀長が報告した。
「結果は?」
「敵の防衛能力は、
予想を上回っています。
3,000隻で
正面から突破するのは
容易ではありません」
リュージュは、
しばらく黙っていた。
「ベイロンからの増援は、
まだ到着しないのか?」
「後続部隊は接近中ですが、
合流には時間が必要です」
「そうか。……」
リュージュは
椅子から立ち上がった。
「こちらの
攻撃を見せた以上、
敵も次の動きを
考えているだろう」
総参謀長は頷いた。
「はい。
敵が
防衛線を維持するなら、
こちらも戦力を
まとめ直す必要があります」
「全艦隊に通達しろ。
偵察部隊を収容した後、
各艦隊は再編成を行う。
敵の動きがあれば、
直ちに報告させろ」
「承知しました」
リュージュは
戦略画面へ視線を戻した。
3,000隻の艦隊は、
まだ健在だった。
しかし、
敵の防衛線を突破するには、
さらに大きな決断が必要になる。
その決断を下すまで、
彼は
戦力を温存するつもりだった。
一方、帝国領北方宙域。
帝国軍の参謀本部にも、
3方向からの攻撃について
報告が集まっていた。
「敵は偵察を兼ねた
先制攻撃を実施。
その後、各部隊とも
離脱を開始しています」
情報部の担当官が報告する。
作戦部長は、
戦略画面を見つめた。
「敵の目的は、
こちらの
防衛能力の確認か?」
「その可能性が
高いと考えられます」
「後続戦力の状況は?」
「ベイロン王国からの
増援と推定される
反応を確認しています。
規模は
まだ確定していません」
「引き続き監視しろ。
確認できた
事実と推測は、
明確に分けて
報告するように」
「承知しました」
参謀本部は、
前線から届いた情報を整理した。
各艦隊司令部には、
担当宙域の監視と
防衛態勢の維持を指示する。
全軍の運用に関わる事項は、
総軍司令部へ報告する。
そして、
帝国軍全体の
方針に関わる重大な情報は、
元帥付き副官
ヴァルガスを経由して
ディクティオン元帥へ
届けられる。
ヴァルガスのもとへ
報告書が届いた。
「リュージュ軍の
3方向からの攻撃か?」
「はい。
中央、左翼、右翼から、
それぞれ300隻が
偵察と
先制攻撃を実施しました」
「敵の後続戦力は?」
明朝 8:10 に投稿します。




