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第3話「一線を越える瞬間を待つ」

第5部

帝国領北方宙域。


帝国の

参謀本部の戦略画面に、

三千隻の艦隊群が

表示されていた。


その後方には、

まだ距離のある

複数の反応がある。


「後続艦隊の解析結果です」


情報部の担当官が報告した。


「規模は?」


「現時点では、

 まだ確定できません」


「所属は?」


「ベイロン王国からの増援と

 推定されています」


参謀本部に、

短い沈黙が流れた。


前哨戦で退いたベイロンが、

再び戦力を送り込んでいる。


しかも今回は、

リュージュ軍と

行動をともにしている。


「北方防衛線の配置を確認」


作戦部から

各艦隊の位置が表示される。


第一艦隊。


第二艦隊。


第三艦隊。


それぞれが

担当宙域を維持している。


「現在の配置なら、

 敵の進路を監視できます」


「予備戦力は?」


「待機しています」


「補給状況」


「問題ありません」


報告を聞いた

参謀本部の担当官が、

記録を確認する。


「敵が三千隻を超える場合は?」


作戦部長が答えた。


「その時点で、

 予備戦力の投入を検討します」


作戦部長は戦略画面を見た。


参謀本部では、

その判断が記録された。


そして、

必要な情報だけが

総軍司令部へ送られる。


元帥付き副官ヴァルガスは

報告書を受け取った。


「敵は

 後続戦力を持っている

 可能性が高い、と?」


「はい」


「参謀本部の判断は?」


「現状の防衛配置を維持。

 敵の規模が判明するまで、

 予備戦力は動かさない方針です」


ヴァルガスは報告書を閉じた。


「妥当だ」


「では、

 そのまま参謀本部へ返す」


「お願いします」


報告は戻される。


ヴァルガスのもとには、

必要な情報だけが集まる。


艦隊の細かな運用は、

参謀本部と各艦隊司令部が

処理していた。


やがて、

通信部から

新たな報告が入った。


「北方第一艦隊からです」


「内容を」


「敵艦隊との

 距離が縮まっています」


「交戦距離は?」


「まだ十分にあります」


ヴァルガスは

戦略画面を確認した。


「攻撃準備は?」


「まだです」


「そのままで」


「承知しました」


その報告を受けた参謀本部も、

攻撃命令を出さなかった。


帝国軍は、

敵が何を狙っているのかを

見極めようとしていた。


その頃。


北方第一艦隊。


艦隊司令官が、

戦略画面を見つめていた。


「敵艦隊、さらに接近」


「こちらとの距離は?」


「指定された監視線まで、

 あとわずかです」


「全艦、現在の陣形を維持」


「了解」


「砲撃準備は?」


「完了しています」


「まだ撃つな」


「了解しました」


艦隊は動かなかった。


三千隻の敵艦隊も、

まだ攻撃してこない。


互いの距離だけが

縮まっていく。


やがて、監視線を越えた。


「敵艦隊、指定線を通過」


第一艦隊司令官は、

参謀本部へ報告した。


「こちらから

 警告通信を送りますか?」


「いや」


少し考えてから、

司令官は答えた。


「参謀本部の判断を待つ」


「了解」


帝国軍は、

勝手に動かなかった。


情報は参謀本部へ。


判断が必要な事項だけが

総軍司令部へ。


そして

重大な判断については、

ディクティオン元帥へ

報告される。


その指揮系統が、

帝国軍全体を動かしていた。


ヴァルガスのもとへ、

新たな報告が届く。


「敵艦隊、

 監視線を越えました」


「参謀本部は?」


「警告通信は

 まだ送っていません」


ヴァルガスは

一度だけ画面を見た。


「その判断でいい」


「はい」


「敵がさらに進むようなら、

 改めて報告を」


「承知しました」


報告が終わる。


帝国軍は、なおも待った。


敵艦隊の目的が、

まだ明確ではない。


だからこそ、

先に動く必要もない。


そして北方宙域では、

三千隻の艦隊が

帝国領の奥へ向かっていた。


その先に待つ帝国軍は、

まだ砲火を開いていない。


だが、

両軍の距離は、

すでに戦闘開始寸前まで

縮まっていた。


帝国軍北方第一艦隊では、

各艦の砲撃管制が

静かに整えられていた。


艦橋に緊張が走る。


しかし、

司令官は

攻撃命令を出さない。


参謀本部から届く

情報を待ち、

敵艦隊の進路と速度を

確認し続ける。


通信士が報告する。


「敵艦隊、

 速度を維持しています」


「変化は?」


「ありません」


司令官は短く答えた。


「監視を続けろ」


同じ頃、

リュージュ軍でも

各艦隊司令部が

報告を受けていた。


第一艦隊は前進を継続。


第二艦隊と第三艦隊も、

指定された位置を

維持している。


誰も

先走って動こうとはしない。


戦場に漂う緊張だけが、

時間とともに増していく。


やがて、

両軍の艦隊を隔てる距離が、

さらに縮まった。


双方の艦橋で、

同じ瞬間に警告音が鳴る。


まだ誰も砲撃を命じない。


だが、

次の命令ひとつで、

静かな宙域は

一瞬にして戦場へ変わる。


帝国側では、

各艦隊司令部が

独自に判断できるよう、

監視線を越えた敵の動きを

逐一記録していた。


総参謀本部へ

送られる報告には、

推測を混ぜない。


確認できた事実だけを

伝える。


それが帝国軍の原則だった。


一方、

リュージュ側でも同様に、

総参謀本部が情報を整理し、

必要な判断だけを

上へ送っていた。


両軍とも、

最後の一線を越える瞬間を

待っていた。

明朝 8:10 に投稿します。

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