第1話「リュージュ王の旗を掲げ」
第5部
エイベル1689銀河団。
帝国領北方宙域。
ベイロン軍との
前哨戦が終わってから、
幾日も経っていなかった。
帝国軍は、
グラニス方面の警戒を
続けている。
戦場に残された損傷艦の
修復も進み、
参謀本部では
次の動きに備えた情報収集が
続いていた。
その北方。
三千隻の艦隊が、
帝国領へ向かっていた。
内訳は明確だった。
リュージュ軍、一千隻。
ベイロン軍の残兵、一千隻。
そして、
ベイロン王国から
新たに派遣された一千隻。
三つの艦隊を合わせた、
三千隻。
先頭を進む艦隊には、
リュージュ王の旗が
掲げられている。
その後方には、
ベイロン軍の艦隊が続いていた。
「艦隊間の距離、予定どおりです」
リュージュ軍の旗艦。
艦橋で参謀が報告する。
リュージュ王の全権大使付き
司令官は、
戦略画面を静かに見つめていた。
「ベイロン軍との連携は?」
「問題ありません」
「通信系統は分けておけ」
「はい」
「指揮系統も、それぞれ維持する」
参謀が頷く。
「三つの艦隊を一つに
まとめないのですか?」
「必要ない」
司令官は即答した。
「我々は
同じ目的で動いている。
それだけでいい」
三千隻すべてを、
一つの指揮系統に
組み込む必要はない。
それぞれの艦隊が
独自に動ける方が、
状況の変化にも対応しやすい。
「ベイロン王から、追加の通信です」
「内容は?」
「帝国軍との接触後は、
共同して
行動するようにとのことです」
司令官は少し考えた。
「分かった」
それ以上は言わなかった。
帝国領。
参謀本部の監視網が、
北方から接近する艦隊を捕捉した。
「北方宙域に艦隊反応!」
監視担当が報告する。
セルゲーヴが
戦略画面へ目を向けた。
「規模は?」
「現在確認できているのは、
約三千隻です」
「所属は?」
「三つの艦隊に分かれています」
表示を拡大する。
「先頭は
リュージュ王の艦隊と推定」
「後方の二群は?」
「ベイロン王の軍です」
セルゲーヴは、表示を確認した。
「残兵だけではないな。……」
「はい。
新たな艦隊が加わっています」
「ベイロン王国からの増援か?」
「その可能性が高いです」
セルゲーヴは
しばらく戦略画面を見つめた。
三千隻。
前哨戦で撤退した
ベイロン軍とは、
明らかに状況が違う。
「各艦隊へ警戒を通達」
「艦隊を動かしますか?」
「まだだ」
セルゲーヴは答えた。
「敵は
帝国領へ向かっている。
まず目的を確認する」
「了解しました」
参謀本部からの報告は、
帝国軍総司令部へ送られた。
元帥付きの副官
ヴァルガスが報告書を受け取る。
「北方宙域から、
三千隻の艦隊が接近しています」
「三千隻?」
「はい」
ヴァルガスは
戦略画面を確認する。
「構成は?」
「リュージュ軍が一千隻。
ベイロン軍の残兵が一千隻。
そして、
ベイロン王国から
新たに派遣された一千隻です」
ヴァルガスは、
報告内容を整理した。
「参謀本部の判断は?」
「現在の配置を維持し、
敵の進路を
監視するとのことです」
「うむ。……」
ヴァルガスは、その報告を
元帥・ディクティオンへ伝えた。
「元帥閣下」
「報告を。……」
「北方宙域から
三千隻の艦隊が
接近しています。
リュージュ軍一千隻、
ベイロン軍の残兵一千隻、
ベイロン王国からの
新規増援一千隻です」
ディクティオンは戦略画面を見る。
「参謀本部の判断は?」
「現在の配置を維持し、
監視を継続するとのことです」
「それでいい」
「承知しました」
北方宙域。
リュージュの艦隊は、
帝国領へ向けて進んでいた。
その後方には、ベイロン軍。
三千隻の艦隊は、
一定の距離を保ちながら
進んでいる。
やがて、
リュージュの旗艦へ
通信が入った。
「帝国軍からの通信です」
司令官が顔を上げる。
「繋げ」
通信画面が開く。
帝国軍側から、
正式な確認が入った。
「所属と目的を確認します」
司令官は落ち着いて答えた。
「リュージュ王国軍です」
一瞬、間を置く。
「帝国領へ向かっています」
「目的は?」
司令官は答えなかった。
代わりに、
戦略画面へ目を向ける。
帝国軍の配置が表示されている。
「まずは、話をしよう」
司令官は通信を切った。
参謀が尋ねる。
「帝国軍と
交渉するおつもりですか?」
「まだ決めていない」
司令官は答えた。
「相手が何を守り、
何を恐れているのか。
それを見てからだ」
三千隻の艦隊は、
さらに帝国領へ近づいていく。
その先には、
帝国軍の防衛線がある。
ベイロンとの前哨戦は終わった。
だが、
次の戦いはまだ始まっていない。
司令官は、
帝国軍の動きを
静かに見つめていた。
その目には、
焦りも怒りもなかった。
ただ、
相手を見極めようとする
冷静な光だけがあった。
明朝 8:10 に投稿します。




