第13話「そして、 その膠着(こうちゃく)を破ったのは――」
第4部
ベイロンは笑った。
「どちらが本当なのか、
向こうに考えさせればいい」
五十隻の偵察艦が、
二つに分かれた。
二十五隻が本隊へ戻る。
残り二十五隻は、
そのままグラニス外縁を進む。
帝国軍の監視網が、
その動きを追った。
「敵艦隊、分離しました」
参謀本部に報告が入る。
セルゲーヴは
戦術表示を見つめた。
「……何を考えている?」
その答えは、まだ出ない。
だが、帝国軍は
一つの事実を掴み始めていた。
敵は、
正面から攻めてくるだけの
相手ではない。
こちらがどう反応するかを
見ながら、
戦場そのものを
組み替えようとしている。
王宮の奥で、
ベイロンは
その報告を待っていた。
「まだ動かないか?」
「はい」
「そうか」
ベイロンは
椅子から立ち上がった。
「なら、次を考える」
それだけ言うと、
再び戦略図へ目を向けた。
帝国軍との距離は、
まだ遠い。
本格的な戦闘は
始まっていない。
しかし、
双方の司令部では、
すでに相手の思考を
読むための駆け引きが
始まっていた。
グラニス外縁。
帝国軍と
ベイロン王国軍の艦隊は、
一定の距離を保ったまま、
長い膠着状態に入っていた。
ベイロン側は、
幾度となく偵察艦を動かし、
帝国軍の防衛線に
揺さぶりをかける。
帝国軍は、
そのたびに
参謀本部が情報を集約し、
各艦隊へ
必要な対応を伝達する。
追わない。
焦らない。
防衛線を崩さない。
それが、
ディクティオン率いる
帝国総軍の基本方針だった。
「第一艦隊、配置に変化なし」
「第二艦隊、
グラニス方面を維持」
「第三艦隊、
後方宙域を監視中」
参謀本部では、
各方面から送られてくる
情報が次々と
整理されていた。
セルゲーヴは、
戦略画面を見つめていた。
「敵の動きが止まりました」
「本隊ですか?」
「おそらく」
表示された
七百隻強の敵艦隊が、
グラニス外縁で停止する。
その瞬間だった。
「敵艦隊、進出!」
戦術士官の声が響く。
七百隻強が、
一斉に前へ出た。
帝国第一艦隊の前面に、
敵艦隊が迫る。
「砲撃準備!」
第一艦隊の各艦が
迎撃態勢へ移行する。
だが、敵は
正面から一斉攻撃を
仕掛けるのではなかった。
左右へ広がる。
中央を薄くし、
両翼を大きく張る。
「敵、分散!」
「左右から
回り込む構えです!」
参謀本部に報告が入る。
セルゲーヴは、
表示を見つめた。
「第一艦隊は中央を維持。
第二艦隊、左翼へ。
第三艦隊は後方を警戒」
各艦隊へ
命令が伝達される。
帝国艦隊が動いた。
敵の両翼が、
帝国軍の側面へ迫る。
そして――
光が走った。
艦砲射撃。
無数の光弾が
宙域を横切り、
帝国艦隊の前面で
迎撃網に捕捉される。
続いて、帝国軍も反撃した。
両軍の間で、
激しい砲火が交差する。
しかし、
帝国艦隊は
無理に前へ出なかった。
敵の攻撃を受け止め、
必要な箇所だけを
正確に撃ち返す。
「第一艦隊、
左翼の敵艦を撃破!」
「第二艦隊、
敵右翼を押し返しています!」
「敵中央、前進!」
戦況が激しく動く。
それでも
帝国軍の陣形は崩れない。
敵が左へ動けば、
帝国軍も左へ。
敵が右へ回れば、
帝国軍も右へ。
ベイロン側は、
次々と戦術を変えてくる。
一つの作戦に固執しない。
不利になれば引き、
別の場所へ圧力をかける。
それでも、
帝国軍の防衛線は
崩れなかった。
そして、
その膠着を破ったのは――
帝国軍後方から接近する、
巨大な艦隊群だった。
「未確認艦隊、接近!」
参謀本部に報告が入る。
「数は?」
「多数!」
戦術表示が切り替わる。
そこに現れたのは、
数千隻の戦艦群だった。
先頭に立つ旗艦。
鳳凰 ε(イプシロン) 。
そして、そのさらに後方。
別の巨大な艦隊群が、
静かに姿を現した。
鳳凰 δ(デルタ) 。
「皇后陛下の艦隊です!」
「皇太子殿下の艦隊も確認!」
参謀本部に、
一瞬、緊張が走った。
セルゲーヴはすぐに
両艦隊との通信を開いた。
「皇后陛下、皇太子殿下。
グラニス方面、
現在交戦中です」
マリアから応答が返る。
「状況を確認しました。
こちらも戦列へ加わります」
続いて、
シャルルからも通信が入った。
「母上と同じく、
こちらも参加します」
二つの艦隊が、
帝国軍の左右へ展開する。
その動きは、まるで
最初から一つの作戦として
組み込まれていたかのように
正確だった。
帝国軍全体の
戦術情報が共有される。
マリアの艦隊が敵右翼へ。
シャルルの艦隊が敵左翼へ。
中央を、
ディクティオンの総軍艦群が
支える。
戦況が変わった。
ベイロン側は、
左右から押し込まれ始めた。
「敵右翼、後退!」
本日 20:10 に投稿します。




