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第12話「目的は、現時点では不明」

第4部

エイベル1689銀河団。


その広大な領域の一角を

治めるベイロン王国では、

王都の軍事中枢に

戦況が集められていた。


王宮から離れた地下深く。


そこには、

王国軍の戦略司令所が

設けられている。


中央の巨大な戦略投影には、

帝国領外縁部から

グラニス方面に至る宙域が、

立体的に映し出されていた。


「帝国第一艦隊、動きません」


大参謀府の参謀が報告する。


「敵千隻は、

 帝国領から離れた後、

 南東方向へ進み、

 そのまま

 北寄りの航路へ移りました」


王宮にいるベイロンのもとにも、

その報告は届いていた。


「それで?」


「帝国軍は追尾しておりません」


「第二艦隊は?」


「グラニス方面で

 待機を継続しております」


ベイロンは

玉座に深く腰を下ろしたまま、

報告を聞いていた。


「帝国軍は、ずいぶん慎重だな」


「はい」


「こちらが三千隻を動かしても、

 動かない」


「帝国軍の防衛態勢は、

 かなり統制されているようです」


ベイロンは黙った。


戦況図には、

帝国軍の艦隊配置が

浮かんでいる。


第一艦隊。


第二艦隊。


第三艦隊。


それぞれが一定の距離を保ち、

互いの防衛範囲を

補う位置にいる。


「崩せないか。……」


「現状では、

 容易ではありません」


参謀の返答に、

ベイロンは少し眉をひそめた。


「容易ではない、か。……」


「はい」


「では、

 正面から崩す必要はない」


参謀が顔を上げる。


ベイロンは

戦況図を見つめていた。


「第一艦隊が動かないなら、

 第二艦隊はどうだ」


「第二艦隊も、

 現在位置を維持しております」


「なら、その周囲を見ろ」


「周囲、ですか?」


「帝国軍そのものではない」


ベイロンの指が、

グラニスから離れた宙域を示した。


「帝国軍が

 守らなければならない場所だ」


参謀たちは戦略図を拡大する。


そこには、

複数の航路と

補給拠点が表示されていた。


「ここを偵察させろ」


「何隻でしょうか」


「五十」


「五十隻ですか?」


「多すぎるか?」


「いいえ。ただ、

 帝国軍が

 本隊の動きと判断する

 可能性があります」


ベイロンは少し考えた。


「それなら、それでいい」


参謀が待つ。


「帝国軍が本隊だと思えば

 警戒する。

 偵察だと思えば無視する」


ベイロンは笑った。


「どちらに転んでも、

 こちらには情報が残る」


「承知しました」


参謀が命令をまとめ始める。


ベイロンは

再び戦況図へ目を戻した。


「ただし、まだ攻撃するな」


「はい」


「こちらから

 戦場を決める必要はない」


ベイロンの声から、

先ほどまでの苛(いら)立ちは

消えていた。


「帝国軍が動いたところを

 見てから、決めればいい」


五十隻の偵察艦が、

本隊から離れていく。


その動きは、

帝国軍の監視網によって

捕捉された。


報告は

帝国軍参謀本部へ送られた。


「五十隻が、

 グラニス外縁の航路へ

 向かっています」


参謀本部長セルゲーヴが

戦術表示を確認する。


「目的は?」


「現時点では不明です」


「第二艦隊へ警戒を通達。

 ただし、艦隊を動かす必要はない」


「了解しました」


報告は

ヴァルガスを経由して、

ディクティオンへ届けられた。


「元帥閣下。

 参謀本部から報告です」


ディクティオンは、

静かに耳を傾けた。


「ベイロン側から

 五十隻の偵察艦が、

 グラニス外縁へ進出しています。

 参謀本部では、

 第二艦隊に

 警戒を通達したうえで、

 現在の配置を

 維持するとのことです」


「そうか。……」


ディクティオンは

戦況表示を見た。


「引き続き、報告を受けよう」


「承知しました」


それ以上、

ディクティオンから

指示はなかった。


一方、

ベイロンの王宮では、

偵察艦から次々と

情報が届き始めていた。


「帝国第二艦隊、動きません」


「補給航路も?」


「変化なし」


「第一艦隊は?」


「こちらも変化ありません」


ベイロンは、しばらく黙っていた。


そして突然、笑った。


「なるほど」


参謀が尋ねる。


「何か、お気づきですか?」


「帝国軍は、

 こちらが何を狙っているかを

 探っている」


「はい」


「ならば、

 もっとわからなくして

 やればいい」


ベイロンは戦略図を見た。


「偵察艦を戻せ」


「全艦ですか?」


「いや」


ベイロンは

五十隻の表示を見つめた。


「半分だけ戻せ」


「半分……」


「残りは、そのまま進ませろ」


参謀が

意図を理解しようとする。


「帝国軍に、

 二つの情報を与えるわけですね」


「そうだ」


ベイロンは笑った。

明朝 8:10 に投稿します。

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