第1部(1) 第5話【 父・ケフェウスの乗る小艦が閃光の中に 】
「陛下、傷が……」
侍医の声は震えていた。
薄暗い寝室に、消毒液の匂いが漂っている。
窓の外では、
遠征先の荒れた星空が音もなく瞬いていた。
オリオンは
寝台に横たわったまま、薄く笑った。
「今さら取り繕うな。儂の命運くらい、
儂自身が一番よく分かっておる」
枕元には、
鎧姿のままの息子たちが並んでいた。
誰も口を開かない。
オリオンはゆっくりと拳を持ち上げた。
星屑の欠片が、弱々しく光を放つ。
「風は、誰が継ぐ」
問いかけに、答える者はいなかった。
長男が膝をつく。
「父上、それは我らが……
座して話し合うべきことでは」
「違う。今、この場で決めねばならぬのだ。
儂が死ねば、加護は皆に等しく分かたれる。
それがどれほど恐ろしいことか、
お前たちにはまだ分かっておらぬ」
「では、どうしろと……」
次男が声を絞り出す。
だが答えが返る前に、
オリオンは天井を仰ぎ、大きく息を吐いた。
そのまま、静かに事切れる。
誰も動けぬまま、
長い沈黙だけが室内に満ちていった。
星屑の欠片から放たれていた光も、
いつしか消えていた。
——数年後、艦橋の一角。
争乱はすでに幾世代にもわたって続いていた。
「兄上、これはあまりに理不尽です!」
ケフェウスは、
居並ぶ兄弟たちに詰め寄っていた。
「南方との融和など、
風の血脈に対する裏切りだ。
父上の遺志を汚す気か」
「違う! 争い続ければ、いずれ皆が滅びる。
それが分からぬのか!
このままでは、
大宇宙は骨まで喰い尽くされるぞ」
剣呑な空気が張り詰める中、
末席の一人が砲手に目配せする。
次の瞬間、
砲門がケフェウスへと向けられた。
「父上……」
物陰から一部始終を見ていた
幼いシリウスの喉から、掠れた声が漏れる。
轟音と共に、
父の乗る小艦が閃光の中に消えていった。
「ケフェウス様!」
従者の悲鳴が響き渡る。
駆け出そうとした足が、
恐怖ですくんで動かない。
「父上……父上っ!」
声にならない叫びだけが、
暗く長い通路に虚しく反響していた。
焦げた金属の匂いが、
静けさの中にいつまでも漂い続けていた。
二度と戻らない父の姿を、
幼いシリウスはただ、
震える瞳に焼き付けることしかできなかった。
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本日、18:30 に、第6話を投稿します。




