↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
67/83

第10話「第三艦隊長官、 エドガー・ヴァレン」

第4部

「第三艦隊は?」


エドガー・ヴァレンが

答える。


「現在、

 第一艦隊の

 後方支援位置にあります」


「そのまま待機」


「はっ」


「第四艦隊は

 帝国中央部へ戻すな。

 外縁部後方で待機させろ」


「承知しました」


命令が次々と

伝達されていく。


誰も声を荒らげない。


誰も慌てない。


帝国軍総司令部では、

数千隻の艦隊が動く

戦争であっても、

一つひとつの命令が

慎重に処理されていく。


そのとき。


「閣下」


ヴァルガスが声を落とした。


「グラニスから新しい報告です」


「聞こう」


「監視施設が、

 所属不明艦へ再度、

 通信を試みました」


「返答は?」


「ありません」


「敵艦は?」


「動きました」


ディクティオンが

振り返る。


「どこへ?」


「グラニスから離れています」


「撤退か?」


「まだ判断できません」


セルゲーヴが

戦略表示装置を確認する。


「妙ですね」


「何がだ?」


「敵は、

 グラニスを攻撃するために

 来たのでは

 ないのかもしれません」


ディクティオンは

答えなかった。


十二隻の艦艇。


グラニス周辺に出現。


通信には応じない。


そして、

第二艦隊が近づくと離れ始めた。


まるで、

帝国軍がどの程度の速度で

反応するのかを

確認したかのようだった。


「参謀本部長」


「はい」


「過去の侵攻記録と照合しろ」


「敵の戦術傾向を?」


「それだけではない。

 撤退の仕方も含めて調べろ」


「承知しました」


セルゲーヴが

部下へ指示を出す。


ディクティオンは

ヴァルガスを見る。


「帝国領内の各監視施設へ、

 警戒態勢を

 一段階引き上げるよう通達」


「はい」


「ただし、

 民間航路は

 通常どおり維持する」


ヴァルガスが頷く。


「承知しました」


ディクティオンは

戦略表示装置へ視線を戻した。


帝国領外縁部。


第一艦隊の前に、

敵の大艦隊がいる。


グラニスの周辺では、

正体不明の十二隻が

姿を消しつつある。


それだけだった。


まだ戦端は開かれていない。


しかし、

帝国軍総司令部にいる者たちは

理解していた。


これは

単なる艦隊の接近ではない。


敵は帝国軍の反応を見ている。


どの程度の時間で

艦隊が動くのか。


どこに防衛線を置くのか。


どの部隊が、

どの命令で動くのか。


そして――


帝国軍が、

どこまで

情報を把握しているのか。


「閣下」


ヴァルガスが静かに尋ねた。


「こちらも、

 敵を観察していることを

 悟(さと)らせますか?」


ディクティオンは、

ほんの少しだけ笑った。


「いや」


「はい」


「まだ、

 こちらが何も気づいていないと

 思わせておけ」


ヴァルガスは頷いた。


「承知しました」


総司令室の戦略表示装置には、

二つの勢力が

映し出されている。


帝国軍。


そして、

エイベル1689銀河団から来た

正体不明の艦隊。


両者はまだ、

互いに手の内を見せてはいない。


だが、

その沈黙の裏側では、

すでに戦いが始まっていた。



帝国軍総司令部。


軍事衛星ヴァルハラの

中心部に設けられた

総司令室では、

戦況の変化を示す光点が、

静かに明滅していた。


第一艦隊は、

帝国領外縁部に展開したまま

動かない。


敵艦隊もまた、動かない。


その膠着状態は、

すでに半日近く続いていた。


「第一艦隊から定時報告です」


ヴァルガスが、

ディクティオンの側で報告した。


「敵艦隊に

 大きな動きはありません。

 艦艇の一部が

 隊列を変更しておりますが、

 帝国領への接近は

 確認されていません」


「こちらの配置に対する反応は?」


「第一艦隊が

 配置を変更するたび、

 敵も一定の距離を保って

 隊列を変更しています」


参謀本部長セルゲーヴが、

戦略表示を見つめる。


「やはり、観察されています」


ディクティオンは答えなかった。


「敵艦隊の通信記録を。……」


ヴァルガスが資料を表示する。


「これまで、敵からの通信は

 最初の一度だけです」


「その後は?」


「ありません」


「妙だな」


ディクティオンが呟(つぶや)く。


「通常なら、

 こちらの反応を確認した後、

 何らかの要求を

 出してくる。……」


「あるいは、

 攻撃するか、……。」


セルゲーヴが続ける。


「しかし、……。

 どちらもしない」


ディクティオンは、

しばらく

戦略表示を眺めていた。


「敵は、……。

 急いでいない」


その言葉に、

ヴァルガスが顔を上げる。


「急いでいないですって?」

明朝 8:10 に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。