第9話「参謀本部長、 アンドレイ・セルゲーヴ」
第4部
「よろしいのですか?」
「追えば、相手の思う壺だ」
レオニードは
戦術スクリーンを見つめた。
「今日の目的は、
敵を倒すことではない」
「敵の情報を得ることだ」
その後、
敵艦隊は帝国領外縁部から
一定の距離を保ったまま
停止した。
両軍とも、
攻撃には移らなかった。
だが、その夜。
帝国軍の観測網が、
異常を捉えた。
「副官殿!」
通信士が叫ぶ。
「敵艦隊の一部が、
消えました!」
レオニードが振り返る。
「消えた?」
「正確には、
観測範囲から外れています。
第七宙域から
離脱したようです」
「どこへ向かった?」
「現在、追跡中です」
レオニードは考え込んだ。
正面に九百から千隻。
そのうちの一部が、
突然別方向へ動いた。
「……陽動か?」
「副官殿。……」
「敵は、
こちらに
正面戦闘を
させたいわけではない?……」
レオニードは、
星系図を拡大した。
「帝国領のどこかに、
別の目的がある」
その直後。
別の通信士が叫んだ。
「副官殿!
辺境惑星グラニスより
緊急通信!」
「内容は?」
「正体不明の艦艇が、
惑星周辺に
出現したとのことです!」
司令部内に緊張が走った。
レオニードは、
しばらく無言だった。
やがて、静かに命じる。
「第二艦隊を
グラニスへ向かわせろ」
「はっ!」
「第一艦隊は現在位置を維持」
「了解!」
「第三艦隊は、敵主力を監視」
レオニードは最後に、
空になったスクリーンを見た。
敵の先鋒は、
まだ何も仕掛けていない。
ただ、
帝国軍の防衛線を調べている。
そして帝国軍もまた、
敵の意図を探っている。
まだ、
一発の砲弾も交わしていない。
しかし、
両軍の知略は、
すでに動き始めていた。
帝国軍総司令部は、
皇宮から離れた
軍事衛星ヴァルハラに
置かれている。
帝国全軍を統括する
巨大な司令施設であり、
そこには
陸軍、海軍、空軍、
宇宙艦隊の各部門から
選抜された将校たちが
集められていた。
その最上階。
帝国軍総司令室。
中央に、
巨大な戦略表示装置が
浮かんでいる。
その前に立つのは、
帝国軍元帥にして宰相、
ディクティオン。
そのすぐ右側には、
直属副官の
レオニード・ヴァルガスが
控えている。
ヴァルガスの背後には、
さらに軍務を分担する者たちが
並んでいた。
参謀本部長、
アンドレイ・セルゲーヴ。
宇宙艦隊第一艦隊長官、
グレゴール・ハインツ。
第二艦隊長官、
ラウル・ベルナール。
第三艦隊長官、
エドガー・ヴァレン。
第四艦隊長官、
ミハイル・ローデン。
陸軍総監、
オルフェウス・ガラン。
空軍総監、
セドリック・ファーン。
それぞれが、
担当する軍の状況を把握し、
ディクティオンの命令を
待っている。
「ヴァルガス」
「はい、閣下」
「現在の状況を」
ヴァルガスが一歩前へ出る。
「エイベル1689銀河団から
侵入したと思われる艦隊は、
帝国領外縁部に約千隻。
現在、第一艦隊と
対峙しております」
「敵に動きは?」
「大規模な進軍は
ありません。
第一艦隊の配置を
確認するような動きを
見せています」
ディクティオンは頷いた。
「グラニスは?」
「第二艦隊が接近中です。
到着予定まで、およそ十八分」
「現地からの報告は?」
「所属不明艦十二隻が、
グラニスの軌道上に
滞留しています。
現在まで
攻撃行動は
確認されていません」
参謀本部長セルゲーヴが
口を開いた。
「千隻弱と十二隻。
部隊を二つに分けている理由が
気になります」
「同感です」
ヴァルガスが答える。
「ただし、
まだ敵の目的は不明です」
ディクティオンは
戦略表示装置を見る。
「第一艦隊長官」
「はい」
グレゴール・ハインツが答えた。
「敵主力艦隊に対し、
現在の防衛配置を維持させろ。
こちらから
先に攻撃する必要はない」
「承知しました」
「第二艦隊長官」
「はい」
ラウル・ベルナールが
姿勢を正す。
「グラニスへの接近を継続。
ただし、
敵艦への攻撃は禁止する」
「了解しました」
「第三艦隊は?」
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