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第8話「レオニード・ヴァルガス副官」

第4部

「陸軍は?」


「主要惑星の

 防衛線を構築中です。

 敵が上陸を試みた場合、

 即座に迎撃可能です」


ディクティオンは、

表示された帝国領外縁部の

星系図を見つめた。


敵は、まだ

帝国領内へ侵入していない。


それにもかかわらず、

これほど大規模な

艦隊を展開している。


単なる威嚇(いかく)ではない。


明確な侵攻準備だった。


「敵の所属は?」


「エイベル1689銀河団

 所属と思われます」


その言葉に、

司令部内の空気が

わずかに変わった。


「エイベル1689……」


ディクティオンが呟(つぶや)く。


巨大な銀河団。


その内部で

長年続いていた抗争を、

近年、

一人の覇王が制した

という情報は、やはり

間違いではなさそうだ。


だが、帝国が

直接干渉したことはない。


「敵の指揮官を

 特定できているか?」


「現時点では、

 確定しておりません」


「旗艦(フラッグシップ)は?」


「確認できています。

 ただし、

 旗艦からの通信はありません」


ディクティオンは少し考えた。


「妙だな。……」


――先程の通信は、揺動だったか?


「……」


「これだけの艦隊を

 動かしておきながら、

 指揮官が姿を見せない」


参謀の一人が口を開いた。


「何かを隠している

 可能性があります」


「当然だ」


ディクティオンは、

淡々と答えた。


「戦場に出てくる者が、

 すべての情報を

 見せると思うか?」


そのとき、

通信士が振り返った。


「ヴァルガス副官殿!」


「何だ」


「敵艦隊から通信です」


「映せ」


正面スクリーンに、

一人の男が現れた。


まだ若い。


しかし、

軍人らしい鋭い目をしている。


「帝国軍司令官に告げる」


男は名乗らなかった。


「我々は、

 エイベル1689銀河団、

 東部方面軍の先鋒部隊である」


ディクティオンは

黙って聞いている。


「これより帝国領外縁部を通過する」


「許可しない」


ディクティオンは即答した。


男の眉が動く。


「通過するだけだ」


「武装艦千隻で?」


「必要な戦力だ」


「ならば、

 こちらも必要な戦力を配置する」


男が鼻で笑った。


「帝国は、

 戦争を望んでいるのか?」


「違う」


レオニードは、

まっすぐ相手を見た。


「戦争を

 望んでいないからこそ、

 ここを通すわけには

 いかない」


「では、どうする?」


「貴軍が進まなければ、

 何も起こらない」


短い沈黙。


男は

レオニードを見つめた。


「……なるほど」


「何か?」


「帝国の司令官は、

 随分と話が早い」


「お互いに

 時間を無駄にする必要はない」


「そうだな」


通信が切れた。


司令部に静寂が戻る。


「副官殿」


参謀が尋(たず)ねる。


「先ほどの男は、

 誰でしょうか?」


「わからん」


レオニードは答えた。


「だが、

 重要なのは名前ではない」


レオニードは

戦術スクリーンへ目を戻した。


「敵が、

 こちらの防衛線を

 試そうとしていることだ」


その直後だった。


「敵艦隊、移動開始!」


「方向は?」


「帝国領外縁部、第七宙域!」


「予定していた進路とは

 違います!」


レオニードの目が鋭くなる。


「……やはり来たか」


「迎撃しますか?」


「まだだ」


「しかし、

 敵は接近しています!」


「第一防衛線を維持」


レオニードは、

敵艦隊の動きを見ていた。


正面から来ると

思わせておいて、

途中で進路を変えている。


「第一艦隊、右へ」


「右へ?」


「敵の進路を塞(ふさ)ぐな。

 あえて空けろ」


参謀たちが顔を見合わせる。


「敵を通すのですか?」


「違う」


レオニードは静かに答えた。


「敵が、

 どこへ向かいたいのかを見る」


帝国第一艦隊が、

命令どおりに移動する。


敵艦隊の正面にあった

防衛線が、

一部だけ開いた。


敵は、その隙間へ入ってくる。


「敵艦隊、進路変更!」


「予定どおりです」


レオニードは、

さらに命令を出した。


「第二艦隊、移動」


「了解!」


第二艦隊が敵の側面へ回る。


「第三艦隊、待機」


「了解!」


敵艦隊は、

帝国艦隊の間を

抜けようとしていた。


だが、その瞬間。


「敵艦隊、急停止!」


「何?」


「先頭艦、後退しています!」


レオニードが眉をひそめる。


「……こちらを

 試しているのか。……」


敵は、

帝国軍の配置を確認するために、

わざと進入したのだ。


攻撃するためではない。


帝国軍が

どのように反応するかを

見るために。


「敵艦隊、離脱します!」


「追うな」


「よろしいのですか?」

明朝 8:10 に投稿します。

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