第7話「赤い髪をした大柄な男」
第4部
「さらに問題なのは、
ガルドが銀河団を三つに分割し、
それぞれに王を置いたことです」
三つの領域が、
星系図に浮かび上がった。
「ベイロン」
「リュージュ」
「ヴァルビィ」
ヴィクトールは、
三つの名を順に見た。
「三人とも、ガルドの部下か?」
「表向きは、そうです」
「表向き?」
ディクティオンは
一瞬、言葉を選んだ。
「三人は、
互いを信用しておりません」
「……なるほど。……」
「そして、ガルド自身も、
三人を
完全には信用していない
ようです」
ヴィクトールは
椅子に深く身を預けた。
「それで、
巨大な銀河団を
統治しているのか?」
「互いに疑わせることで、
逆に統治を
安定させているのでしょう」
そのとき、扉が開いた。
「失礼いたします」
マリアだった。
その後ろには
シャルルの姿もある。
「話は聞きました」
マリアが星系図を見る。
「エイベル1689……」
「母上。……」
シャルルが、
三つの領域を見つめた。
「三人の王がいるなら、
こちらへ来るのは、
そのうちの誰かでしょうか?」
「いえ、……」
ディクティオンが答えた。
「それが問題なのです」
ディクティオンが
星系図を拡大する。
三つの領域のさらに外側。
帝国領へ向かって伸びる、
一本の航路が表示された。
「ガルドは、三人の王に、
それぞれの銀河を任せています」
「つまり……」
マリアが続ける。
「自分は後方にいる?」
「その可能性が高いでしょう」
ヴィクトールは黙っていた。
やがて、静かに口を開く。
「ガルドは、
我が帝国を狙っているのだな?」
「確度の高い情報です」
「目的は?」
「不明です」
ディクティオンの言葉に、
シャルルが眉を寄せた。
「領土でしょうか?」
「それだけではないでしょう」
マリアが答えた。
「これだけ巨大な勢力を
まとめ上げた人物です。
単純な領土欲だけで
動いているとは考えにくい」
その言葉に、
ヴィクトールは妻を見る。
「では、
何を狙っていると思う?」
マリアは、星系図を見つめた。
「帝国そのもの
ではないでしょうか。……」
部屋に沈黙が落ちた。
ヴィクトールは、
しばらく何も言わなかった。
そして――
「ディクティオン」
「はっ」
「帝国軍の総動員準備を」
「承知しました」
「ただし、まだ出撃はさせるな」
「御意」
シャルルが父を見る。
「父上、私も出ます」
「まだだ」
即答だった。
「まずは敵を知る」
ヴィクトールは立ち上がった。
「戦うことは、その後でいい」
しかし、その直後だった。
警報が、皇宮全体に響き渡った。
けたたましい警告音。
星系図が一斉に赤く染まる。
「何事だ!」
ディクティオンが叫ぶ。
通信士が
青ざめた顔で立ち上がった。
「ヴァルガス副官殿!」
元帥・ディクティオンの
後に控えていた
レオニード・ヴァルガス副官が
応答した。
「報告しろ!」
「帝国領外縁部に、
所属不明の大規模艦隊が
出現しました!」
ディクティオンが振り返る。
「数は?」
「現在、確認できているだけで……」
通信士の声が震える。
「三千隻を超えています!」
シャルルが星系図を見る。
「三千……」
ヴィクトールは、
静かに画面を見つめていた。
そして、次の報告が入る。
「艦隊中央より、通信要求!」
「映せ」
巨大な画面に、
一人の男の姿が現れた。
鋭い目。
厚い装束。
そして、何よりも――
自分が
すべてを支配することを
当然としているかのような、
不敵な表情。
「私は、ベイロン」
男は名乗った。
「エイベル1689銀河団の
王の一人だ」
ディクティオンは、
黙ってその姿を見返した。
「宰相、ディクティオン」
ベイロンが笑う。
「長い間、
帝国を楽しませてもらった」
その瞬間。
ヴィクトールの表情から、
すべての温情が消えた。
皇帝の変化を感じ取った
ディクティオンが応えた。
ただ一言だけ。
「……そうか」
帝国史上、
誰も経験したことのない戦いが
今、始まろうとしていた。
帝国領外縁部。
皇宮から緊急発進した
帝国艦隊が、
静かに宇宙空間へ展開していた。
宰相ディクティオンから
全権委任を受けた
ヴァルガス副官の
指揮のもと、
陸・海・空軍から選抜された
艦隊が、
次々と所定の配置につく。
警戒警報が鳴り響いてから、
すでに
六時間が経過していた。
帝国軍の総司令部では、
数百枚の戦術スクリーンが
一斉に展開されている。
その中央に立っていたのは、
宰相ディクティオンだった。
「現在の敵艦隊は?」
「外縁部第七宙域に
集結しております。
確認できている艦艇は、
およそ九百から千隻」
「こちらの展開は?」
「第一艦隊、
第二艦隊、
第三艦隊が、
それぞれ予定地点に到達。
第四艦隊は後方待機。
空軍部隊も、
各艦隊の上空支援位置へ
移動を完了しております」
「陸軍は?」
本日 20:10 に投稿します。




