第5話「それぞれの流儀」
第4部
「なんだと……!」
シャルルは、即座に動いた。
「デルタ・シグマ、
精鋭小隊を、直ちに現場へ。
私も、同行する」
「殿下、危険です!
ご自身が、出向かれずとも——」
「人質の命が、懸かっている。
この一手は、
私自身が見届けねばならない」
シャルルは、
自ら、小型艇に乗り込み、
精鋭たちと共に、
人質が拘束されている、
拠点内部へと、突入した。
狭い通路を、迅速に、
しかし、慎重に進んでいく。
「殿下、前方に、人質と、
武装した見張りが!」
見張り達は、
怯えた民間人を
取り囲んでいた。
「動くな!
一歩でも近づけば、
こいつらを——!」
見張りの一人が、そう叫んだ。
シャルルは、
ゆっくりと両手を掲げながら、
前に進み出た。
「落ち着きなさい。
私は、
争いに来たのではない」
「口先だけの、戯言を……!」
「戯言ではない。
あなた方の首領は、既に、
交渉のテーブルに、着いている。
あなた方がここで、
人質を傷つければ——
首領らの努力は、
すべて水泡に帰すことになる」
その言葉に、
見張りたちの間に、
動揺が走った。
「首領が……交渉を……?」
「そうだ。
確認は、容易だ。
艦内の通信を、繋いで見せよう」
デルタ・シグマを通じて、
首領との直接の通信が、繋がれた。
「お前たち! 武器を、下ろせ。
これ以上の、
無益な抵抗は無用だ」
首領の疲れた声が、響いた。
その言葉に見張りたちは、
ゆっくりと武器を、
下ろしていった。
人質たちは、無事に解放された。
この迅速な解決は、
瞬く間に、三群すべてに、
伝えられることとなった。
「皇太子殿下。
お見事な、ご判断でした」
副官の言葉に、シャルルは、
静かに息を吐いた。
「褒められるようなことでは、
ない。
人質の命を、
危険に晒した時点で、
私の初動の判断には、
甘さがあったのかもしれない」
「殿下は、
ご自身に厳しすぎます」
その後、シャルルは、
約束通り、残る二群との、
境界線の見直しに、
取り掛かった。
「ガルム群にも、
最低限の生存圏は、必要です。
いたずらに追い詰めれば、
また、同じことの、
繰り返しになるでしょう」
シャルルの、この公平な姿勢に、
他の二群の代表たちも、徐々に、
信頼を寄せ始めていった。
拠点を去る前、シャルルは、
ガルム群の首領と、直接、
顔を合わせることとなった。
「皇太子殿下。一つ、伺いたい」
首領が、
ふてぶてしい表情ながらも、
どこか神妙な声で、切り出した。
「なぜ我らを、徹底的に、
叩き潰さなかった。
あなたほどの艦隊を、
擁していながら。……」
シャルルは、静かに答えた。
「叩き潰すのは、容易いことです。
ですが、それでは、
何も、解決しません。
あなた方を、
根絶やしにしたところで、
この宙域の、資源不足という、
根本の問題は、残り続けます。
そしてまた、別の群が、
同じ飢えに、
苦しむことになるでしょう」
「……青臭い、理想だな」
「理想かもしれません。
ですが、
力で押さえつけるだけの統治に、
未来はないと、私は、
父や祖父の代からの歴史に、
学びました」
首領は、しばし、
シャルルの顔を、
じっと見つめた後、
小さく笑った。
「貴様、見た目に似合わず、
肝が据わっているな」
鳳凰 δ(デルタ)への帰艦後、
シャルルは、
デルタ・シグマに
改めて今回の調査記録の、
精査を命じた。
「デルタ・シグマ、
ガルム群が、
交易路を占拠するに至った、
根本の原因は?」
「分析いたしました。
この銀河では、
恒星の分布の偏りにより、
ガルム群の領域は、
他の二群と比較し、
資源採掘に著しく
不利な状況にあります。
過去十年で、同群の民の、
平均生活水準は、継続的に、
低下しておりました」
「やはり、そうか。……」
シャルルは、
境界線の見直しだけでなく、
ガルム群への、長期的な、
資源供給の支援についても、
帝国として、検討すべきだと、
判断した。
「殿下。それは、
本国の財政当局との、
調整が必要になります」
「分かっている。だが、
根本の原因を、
放置したままでは、いずれ、
同じ火種が再燃するだけだ」
二日目の終わり、
三群の合意文書が取り交わされた。
「殿下のご提案、
確かに、受け入れよう」
ある代表が、そう、応じた。
ガルム群の首領が、
静かに、頭を下げた。
「此度の、寛大なるご判断、
感謝する。
我が群の民に代わり、
礼を、申し上げる」
「お気になさらず。
これは、あなた方の、
首領としての、
決断があってこそ、
成し得たことです」
本日 20:10 に投稿します。




