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第3話「静かな収拾の積み重ね」

第4部 

「ならば、答えは単純です」


マリアは、静かに告げた。


「資源を、奪い合うのではなく、

 共同で採掘し、分かち合えばいい。

 採掘の技術は、

 我が帝国のアストラリオン学府から、

 提供いたします。

 利益は、人口比に応じ、

 三群で分配する——

 いかがでしょうか?」


沈黙が、会議区画を満たした。


「……それで、

 本当に、丸く収まるのか?」


「収まらせましょう。

 私が、その仕組みを、

 保証します。そして——」


マリアは、静かに、続けた。


「もし、いずれかの群が、

 この合意を破った場合は、

 残る二群と、我が帝国が、

 共に、相応の対応を取ることを、

 約束いたします」


三人の首魁は、

互いに顔を見合わせた。


長い、長い沈黙の後、

ラクシャ群の首魁が、

ゆっくりと口を開いた。


「……悪くない話だ」


「我らも、異存はない」


フェンリル群の女首領が、続いた。


「……仕方あるまい」


最後に、ノヴァ群の若き指導者が、

渋々と、頷いた。


こうして、三群の合意文書に、

それぞれの印が、

押されることとなった。


「皇后殿、見事な、手腕でした」


副官の言葉に、マリアは、

静かに、微笑んだ。


「手腕というより——彼らは、

 最初から、

 争いを望んではいなかった。

 ただ、互いに歩み寄る、

 きっかけを、

 持てずにいただけです」


三日目の朝、会談は、

無事に、終了した。


資源宙域には、三群合同の、

採掘拠点が、速やかに、

築かれることとなり、

イプシロン・シグマによって、

取り決めの履行状況が、

継続的に、

監視されることとなった。


帰路の艦内、マリアは、

報告書の作成を、

イプシロン・シグマに指示した。


「此度の調停、

 宮廷への正式報告は、

 どのように、まとめますか?」


「簡潔に。

『NGC六二五銀河内の三群紛争、

 調停成立。

 資源宙域は共同管理とし、

 継続監視下に置く』——

 それで、十分です」


「三千隻の展開、及び、

 ノヴァ群艦隊の、

 牽制(けんせい)行動についても、

 記載いたしますか?」


マリアは、しばし考えた後、

静かに、首を振った。


「不要です。

 それは、

 結果に至る過程に過ぎません。

 重要なのは、三群が今後、

 共に歩んでいけるかどうか、

 それだけです」


その言葉に、傍らの副官は、

静かに、

感銘を受けた様子を見せた。


「皇后殿は、この手柄を、

 誇示なさらないのですね?」


「誇示する理由が、ありません。

 此度の調停は、

 私一人の功績ではなく——

 あの三人の首魁が、

 最後に、互いを信じる一歩を

 踏み出したからこそ、

 成立したものです」


艦(ふね)が、本国へと近づくにつれ、

マリアの脳裏には、

夫であるヴィクトールの、

穏やかな顔が浮かんだ。


「陛下には、どのように

 ご報告いたしましょうか?」


副官の問いに、

マリアは、少し微笑んだ。


「ありのままを。

 ただ、少し骨の折れる、

 出張であったとだけ、……」


息子シャルルの凛々しい姿も、

脳裏をよぎった。


彼もまた、いずれこのような重責を、

担(にな)うことになるだろう。


母としての想いと、

皇后としての矜持(きょうじ)、

その両方を胸に、

マリアは静かに、

窓の外の星々の海を、

見つめ続けていた。


「イプシロン・シグマ、

 宰相ディクティオンへの、

 先行連絡は?」


「既に、送信済みです。

『皇后、任務完了。

 負傷者、戦死者、共にゼロ』

 との、報告に、

 宰相閣下からは、

 簡潔な返信が届いております。

『流石、皇后陛下』と」


その言葉に、

マリアは、小さく笑みをこぼした。


「相変わらず、

 口数の少ない御方だこと」


鳳凰 ε は、静かに、

しかし、確実に、

本国への航路を、進み続けた。


艦内には、

戦いを終えた者特有の、

静かな弛緩が、漂っていた。


だが、マリアの目には、既に、

次なる懸念——この帝国の、

他の辺境で、同じような火種が、

くすぶってはいないかという、

絶えざる警戒の色が、

宿り続けていた。


統治とは、常に、

こうした、名もなき危機の、

静かな収拾の積み重ねの上に、

成り立つものなのだと、

マリアは、改めて胸に、

刻み込んでいた。


それは、決して、

華々しい英雄譚として、

語られることのない、

しかし、この帝国の、

確かな礎を、支え続ける、

静かな営みであった。


やがて、天の川銀河、

帝国本拠の宙域が、

視界に入り始めた。


見慣れた光華万華宮の、

遠い輝きを、マリアは、

静かに見つめた。


「帰ってきましたね」


「はい。

 出発から、正味、三日と、

 六時間でした」


イプシロン・シグマの、……。

本日 20:10 に投稿します。

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