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第2話「展開、完了まで、九十秒」

第4部

マリアは、静かに、続けた。


「このまま争いを続ければ、

 あなた方の民は、

 さらに、

 命を落とし続けるでしょう。

 それは、あなた方自身が、

 最も、望まぬことのはずです」


その言葉に、

若き指導者は、沈黙した。


協議の場は、鳳凰 ε の艦内、

中立の会議区画に、

設けられることとなった。


三群の代表が、慎重に、

しかし、確かに、その艦へと、

乗り込んでいく。


「イプシロン・シグマ、

 会議区画の警備は?」


「万全です。

 いかなる武器も、

 持ち込ませておりません。

 また、全対話は、

 三群すべてに、同時に、

 公開されております」


「良い判断です」


協議は、初日から、難航した。


「資源宙域の、北半分は、

 我らフェンリル群の、

 祖先が、最初に発見した地だ」


「馬鹿を言うな。

 あの宙域の恒星図は、

 我らラクシャ群の記録に、

 遥か昔から、記されている」


怒声が、幾度も、飛び交った。


マリアは、その応酬を、

辛抱強く、見守り続けた。


「皇后殿、

 口を挟まれないのですか?」


傍らに控える、副官が、

そう、尋ねた。


「今は、まだ、良い。

 彼らが、互いの言い分を、

 すべて、吐き出し切るまで、

 待ちます。

 中途半端に、仲裁すれば、

 禍根(かこん)を、残すだけです」


その初日の夜、事態は、

予期せぬ方向へと、転がった。


「皇后殿、緊急です!

 ノヴァ群の一部艦隊が、

 独断で、資源宙域の、

 フェンリル側の拠点へ、

 接近しているとの報告が!……」


副官の切迫した声に、マリアは、

即座に、立ち上がった。


「ノヴァ群の首魁は、

 この艦に、いるはずでは?」


「はい。ですが、……。

 艦隊の一部が、

 首魁の指示を待たず、独自に、

 動き出したようです。

 恐らくは、協議の長期化に、

 業を煮やした

 過激派の仕業かと、……」


マリアは、

瞬時に、判断を下した。


「イプシロン・シグマ、

 接近する艦隊の、進路上に、

 護衛艦を、展開なさい。

 ただし、

 砲門は、開かせないように」


「承知いたしました。

 展開、完了まで、九十秒」


護衛艦が、静かに、

しかし、確実に、

進路を塞ぐように、

展開していく。


暴走するノヴァ群の艦隊が、

その壁に、行く手を阻まれた。


「何事だ! 道を開けろ!」


焦った声が、通信に響いた。


「開けません」


マリアが、自ら通信に出た。


「ノヴァ群の皆様、あなた方の首魁は、

 今、この艦で、誠実に協議を、

 続けておられます。

 その努力を、

 無にするおつもりですか?」


「皇后殿……!」


「今、引き返せば、誰も、

 罪には問いません。

 ですが、もし、

 一発でも砲撃すれば——

 その責任は、ノヴァ群全体に、

 及ぶことになります」


長い、緊迫した沈黙の後、

暴走した艦隊は、ゆっくりと、

その進路を、変えていった。


「……退(ひ)く」


「賢明なご判断です」


この一件は、翌朝、

協議の場で、

ノヴァ群の

若き指導者自身によって、

集った三群の代表に、

謝罪と共に、

報告されることとなった。


「恥ずべき我が群の不始末だ。

 皇后殿の寛大なご措置(そち)に、

 感謝する」


その誠実な態度に、

ラクシャ群の首魁も、

フェンリル群の女首領も、

僅(わず)かに、態度を和(やわ)らげた。


二日目。


議論は、なおも

平行線を辿(たど)っていた。


だが、疲労の色と共に、

前夜の一件を経た、

奇妙な連帯感のようなものが、

三人の代表の間に、

芽生え始めていた。


「もう、良い加減、疲れた」


ノヴァ群の若き指導者が、

そう言って、

机に突っ伏した。


「皇后殿、あなたは、

 どうお考えなのですか」


マリアは、静かに立ち上がった。


「私の考えを、述べる前に——

 一つ、尋ねたいことがあります。

 あなた方は、

 本当にあの資源宙域が、

 欲しいのですか?」


「当然だろう」


「ならば、問います。

 その資源を得て、あなた方は、

 何を、なしたいのですか?」


その問いに、三人は、

しばし、言葉を失った。


「……民を、飢えさせぬためだ」


フェンリル群の女首領が、

ようやく、そう答えた。


「我らも、同じだ。

 あの宙域の、恒星資源なくしては、

 この先、我が群の、

 艦隊維持は覚束(おぼつか)ぬ」


ラクシャ群の首魁も、そう続けた。


「ならば、答えは単純です」

明朝 8:10 に投稿します。

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