第1話「『我らの争いは、我らの問題』か?」
第4部
帝国の礎を築いた
初代皇帝アルスラーンから数えて、
既に十二代の治世が
重ねられていた。
だが、当代の皇帝
ヴィクトール・アルスラーニは、
妻であるマリア・アルスラーニ、
息子のシャルル・アルスラーニ、
そして宰相のディクティオンと共に、
安定した帝国支配を敷いていた。
妻であるマリア・アルスラーニは、
女だてらに武術に優れ、
知能・知略に秀でており、
領民から女神のように慕われていた。
息子のシャルルも、
母の覚え目出度く、
母に引けを取らないほどの
武芸の腕前である。
配下の軍隊の差配にも、
優れた将としての器をみせ、
皇帝にとって、
申し分ない跡継ぎだった。
宰相のディクティオンは、
帝国の陸・海・空軍を指揮する
元帥である。
軍のことは、彼に任せておけば、
まず心配なかった。
平時は、宰相として、
帝国経営に余念がなかった。
妻のマリアは、
量子技術の超AIに統合された
宇宙戦艦軍を指揮していた。
NGC625銀河内で、
星群同士の争いが絶えないという
報告がもたらされ、
マリアが出陣することになった。
出陣するのは、マリアひとり。
旗艦・鳳凰ε(イプシロン)に、
颯爽と搭乗するマリア。
従うのは、
互いにAI通信でコントロールされた
戦艦軍3千隻。
司令塔は、
マリアの乗る艦に搭載された
超AI・ε(イプシロン)Σ(シグマ)である。
旗艦・鳳凰 ε は、
超光速航路を駆け抜け、
わずか半日で、
NGC六二五銀河の外縁へと、
到達した。
「イプシロン・シグマ、現状を」
マリアの問いに、
艦全体に行き渡る、
落ち着いた電子音声が、応じた。
「この銀河内で、
確認されている対立勢力は、
三つ。
中央星群『ラクシャ群』、
北方星群『フェンリル群』、
そして、
両者の境界にある
資源豊富な宙域を巡り、
小競り合いを続ける、
新興の『ノヴァ群』です。
過去半年で、民間艦への誤爆、
拿捕事件、計十七件を
確認しております」
「十七件、か。……」
マリアは、静かに、
艦橋の椅子に、腰を下ろした。
「死傷者は?」
「民間人、確認されているだけで、
二百名を超えます」
その数字に、マリアの目が、
僅かに、細まった。
「帝国からの、正式な調停要請は、
既に、出ているのですね?」
「はい。
三群いずれからも、独立して、
援助の打診が、
過去に、届いております。
ですが、三群同時の、
合同調停は、
前例がございません」
「ならば、今回が、
最初の試みになる
ということですね。……」
「三千隻、展開せよ。ただし——」
「ただし?」
「いきなり、
威圧するつもりはない。
まず、
三群の首魁それぞれに、
通信を繋ぎなさい」
鳳凰 ε(イプシロン)を中心に、
三千隻の戦艦が、整然と、
しかし、静かに、
隊列を組んでいく。
その動きには、
無駄が一切なかった。
各艦は、
イプシロン・シグマによって、
ミリ秒単位で同期され、
まるで、
一つの巨大な生命体のように、
滑らかに、その陣形を、
変えていった。
「ラクシャ群首魁から、
応答がありました」
「繋いで」
通信画面に、
壮年の、武骨な男の顔が、
映し出される。
「第七帝国の者が、何用だ。
我らの争いは、我らの問題だ」
「皇后マリア・アルスラーニです。
あなた方の問題が、
民間人を
巻き込む段階に至った以上、
もはや、それは、
帝国の問題でもあります」
「皇后、だと……単艦で、
乗り込んできたと?」
男の声に、嘲りが、滲んだ。
「単艦ではありません。
背後の、三千隻を、
ご覧いただけますか?」
通信画面の端に、
鳳凰 ε を守るように展開する、
整然とした艦隊の姿が、
映し出された。
男の顔色が、僅かに、変わる。
「……脅すつもりか?」
「脅しではありません。
これは、事実の提示です。
私が、ここに来た理由を、
まず、正しく、
理解していただきたいのです」
同様の通信が、
フェンリル群、ノヴァ群にも、
順次、開かれていった。
「我らに、何を求める?」
フェンリル群の女首領が、
鋭い声で、問うた。
「停戦を求めます。
そして、三群合同での、
資源宙域の、公平な分配協議を」
「公平、とは、誰が決める?」
「私が、仲裁いたします。
ですが、最終的な線引きは、
あなた方自身で、
決めていただきます。
私は、場を整えるだけです」
三群の首魁たちは、互いに、
長年の不信を、拭いきれずにいた。
「ラクシャの連中と、
同じ席に着くなど、
到底、受け入れられん」
ノヴァ群の若き指導者が、
そう、吐き捨てた。
「受け入れがたいお気持ちは、
理解します。ですが——」
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