第3部 第11話【 武、法、富、信仰、知 —— 五つの力 】
だが、この決断が、
この帝国の未来に、
いかなる影響を
もたらすことになるのか——
それを知る者は、
まだ、誰一人としていなかった。
技術の共有が始まると、
帝国内の様々な宙域で、
それぞれの独自の発展が、
さらに加速していくこととなった。
「ラスティーユ公国では、
恒星風動力転換機構を、
交易船の効率化に、
いち早く応用したとの報告が」
「金環商会は、これを、
交易路全体の物流網の再編に、
活用し始めているようです」
情報官からの報告に、
皇帝は、感慨深げに頷いた。
「それぞれの宙域が、
それぞれのやり方で、
この新しい知恵を、活かし始めている、
というわけか。……」
だが、この技術共有の過程で、
アストラリオン学府自身にも、
静かな変化が訪れつつあった。
「学府長、この技術共有をきっかけに、
多くの宙域から、
学府への支援と交流の申し出が、
急増しております」
補佐官の報告に、
テオドリックは、複雑な表情を浮かべた。
「これまで、我らは、いかなる勢力とも、
一定の距離を保ち続けてきた。
だが、これほどまでに、
多くの繋がりが生まれれば……
我らもまた、この帝国という、
大きな織物の、
一部となっていくのかもしれぬな。……」
「それは、良くないことでしょうか?」
「いや。
むしろ、知は、孤立の中では、
真の力を、発揮できぬのかもしれぬ。
多くの者と、分かち合ってこそ、
その真価が、輝くのだろう。……」
数十年の後、アストラリオン学府は、
単なる隔絶された研究機関から、
この帝国全体の、
知的な中枢としての役割を、
担うようになっていった。
「陛下、アストラリオン学府は、この頃、
他の宙域からの、若き研究者たちを、
積極的に受け入れているとのことです」
「良いことだ。
知は、独占されるべきものではない。
この帝国の、
あらゆる場所から集った知恵が、
また新たな知恵を、
生み出していくのだろう」
こうして、この帝国には、また一つ、
新たな形の秩序——知による、
緩やかな連帯という、
これまでにない物語が、静かに、
しかし確実に、
根を張っていくこととなった。
武、法、富、信仰、そして知——この
五つの力は、時に軋みながらも、
この広大な帝国という、
一つの織物の中に、確かに、
織り込まれ続けていたのである。
第3部(完)
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