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第3話 第10話【 恒星風動力転換機構 】

「この帝国は、あまりに、


 多くの異なる力を、その内に

 抱えすぎているのではないか、と。……」


「懸念、と仰(おっしゃ)いますと?」


「武、法、富、信仰——それぞれの力は、

 今は、互いに、

 緩やかな均衡を保っている。

 だが、もし、これらの力の、

 いずれか一つが、他のすべてを、

 凌駕しようとした時——この帝国は、

 その均衡を、

 保ち続けられるのだろうか?……」


その懸念は、決して、

根拠のないものではなかった。


実際、この頃、ある一つの宙域で、

静かに、しかし確実に、

これまでとは、

まったく異なる種類の力が、

育ち始めていたのである。


それは、武でも、法でも、富でも、

信仰でもない——「知」という、

目に見えぬ、しかし、

いずれこの帝国全体を、

大きく揺るがしかねない、

新たな力であった。


「陛下、

 辺境の『アストラリオン学府』と

 呼ばれる宙域から、

 興味深い報告が届いております」



情報官の言葉に、

皇帝は、静かに目を向けた。


「聞かせてくれ」


「かの地の学者たちが、

 この帝国の

 いかなる艦隊の技術をも凌駕する、

 画期的な新技術の開発に、

 成功したとのことです」


皇帝は、しばし沈黙した後、

静かに、しかし重い声で呟いた。


「知の力、か……。

 これは、これまでの、

 いかなる興亡の物語とも、

 異なる展開を、この帝国に

 もたらすことになるかもしれぬな」


星々の海の彼方、

まだ多くの者が知らぬこの学府において、

この帝国の未来を、

大きく左右しかねない、

新たな物語の幕が、静かに、

しかし確実に、上がろうとしていた。


皇帝は、その予感を胸に、静かに、

次なる報告を待ち続けた。


この帝国という壮大な物語が、

また新たな一章を、

静かに紡ぎ始めようとしていた。



帝国の辺境、

いかなる交易路からも隔絶された、

静かな星系に築かれた

「アストラリオン学府」——そこは、

武でも、富でも、信仰でもなく、

ただ「知」を追い求める者たちが、

幾世代にもわたって、集い続けてきた、

特異な宙域であった。


「学府長、此度の新機関、

 恒星風動力転換機構の実験、

 ついに成功いたしました」

若い研究者の興奮した報告に、

学府長——名を

テオドリック・アシュヴァイン

といった——は、静かに、

しかし深い満足を込めて頷いた。


「見事だ。これで、我らの艦(ふね)は、

 これまでの、いかなる艦をも凌(しの)ぐ、

 機動力を手にすることになる」


アストラリオン学府は、元々、

いかなる勢力への忠誠も持たぬ、

純粋な学究の徒たちが、

この帝国の各地から集い、

築き上げた場所であった。


彼らは、武力にも、政治にも、

深くは関わらず、ただ、

知を探求することにのみ、

その情熱を注ぎ続けてきたのである。


「学府長、この技術、

 いかに扱うべきでしょうか?」


補佐官の問いに、

テオドリックは、しばし黙考した。


「この技術は、あまりに強力すぎる。

 これを、いずれか一つの勢力にのみ、

 独占させることは、

 この帝国全体の均衡を、

 大きく崩しかねない」


「では、公開なさるのですか?」


「いや。まだ、その判断はできぬ。

 まずは、この技術がもたらす影響を、

 我ら自身の手で、

 慎重に見極める必要がある」


だが、この画期的な技術の噂は、

既に、学府の外へと、

静かに漏れ始めていた。


「陛下、

 アストラリオン学府の新技術に関して、

 複数の宙域の統治者たちから、

 独占的な提供を求める、

 水面下の働きかけが相次いでおります」


情報官の報告に、

帝都の皇帝は、深く息を吐いた。


「案の定、そうなったか。

 知の力もまた、他の力と同様、

 いずれ、

 争いの種になり得るということだな」


学府には、次々と、各宙域からの使者が、

密(ひそ)かに訪れるようになっていった。


「学府長、我が領に、

 この技術を提供いただければ、

 相応の見返りを、ご用意いたします」


金環商会の使者が、そう持ちかけた。


「ラスティーユ公国もまた、貴学府への、

 手厚い庇護を、お約束いたします」


別の使者も、そう申し出た。


テオドリックは、

これらの申し出のすべてに、

慎重な姿勢を、崩さなかった。


「我らは、いずれか一つの勢力に、

 肩入れするつもりはない。

 この技術は、

 この帝国全体の利益のために、

 扱われるべきものだ」


その方針を、より確かなものとするため、

テオドリックは、ついに、

皇帝への直接の謁見(えっけん)を、自ら願い出た。


「陛下、我らアストラリオン学府は、

 此度の新技術を、

 いかなる一(いち)勢力にも

 独占させることなく、帝国全体で、

 共有すべきと考えます。ただし——」

本日 20:20 に投稿します。

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