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第3部 第9話【 初代が示した分割統治の理念】

だが、この平和的な共存の裏で、

輝晶派の内部には、なおも、

大司教セラフィナの寛容な姿勢に、

不満を抱く一派が、静かに存在していた。


「大司教猊下は、我らを、

 対等な存在として、

 扱ってくださっているように見える。

 だが、それは、我らの教えが、

 いずれ星光教団に、

 静かに取り込まれるための、

 巧妙な策なのではないか?」


過激派の一人が、そう囁(ささや)いた。


「馬鹿を言うな。

 猊下(げいか)の対話は、本物だ。

 私は、そう信じている」


若き指導者は、そう答えたが、

その声には、僅(わず)かな迷いも、滲(にじ)んでいた。


この不穏な空気を、目付は、丹念に、

帝都へと報告し続けていた。


帝都では、この頃、皇帝の代替わりが、

既に幾度か重ねられていた。


歴代の皇帝たちは、

それぞれの治世において、

この広大な帝国の、

各宙域の「その後」を、

丹念に見守り続けてきた。


かつてのサルーン領——今は、

ラスティーユ公国と呼ばれるこの地は、

あの逆転劇から、

既に数世代を経ていた。


「陛下、ラスティーユ公国は、この頃、

 実に安定した繁栄を、

 続けているとの報告です」


目付からの報告に、

当代の皇帝は、静かに頷いた。


「かつての征服者バイラムの血統が、

 慢心の末に滅んだ轍を、

 ラスティーユの大公家は、確かに、

 避け続けているようだな」


「はい。歴代の大公は、常に、

 自らの統治を、謙虚に

 省み続けているとのことです」


一方、かつての鉄拳領——今は

帝国の直轄領として再編されたこの地は、

静かながらも、

着実な再建の道を歩んでいた。


「陛下、旧鉄拳領の民の暮らし向きは、

 大きく改善しております。

 かつての恐怖政治の記憶を持つ世代も、

 今や、少なくなりつつあります」


「良いことだ。だが、あの悲劇を、

 二度と繰り返させてはならぬ。

 この地の統治記録は、この帝国の、

 生きた教訓として、

 永く保管しておくように」


ヴェルスコニア連合州もまた、

あの困難な合併から、幾世代を経て、

今や、この帝国有数の、

豊かな文化的中心地へと、

発展を遂げていた。


「議長エリアーヌ様の血統は、今なお、

 この連合州の、調停者としての伝統を、

 受け継いでいるとのことです」


「境界に生きた者の想いが、確かに、

 後世にまで、受け継がれているのだな」


オーレイン星域の金環商会もまた、

その富による統治を、着実に、

この帝国の中で、確立し続けていた。


「陛下、金環商会は、この頃、

 他の宙域にも、

 その医療・教育支援の仕組みを、

 輸出し始めているとのことです」


「富の力が、単なる支配の道具ではなく、

 この帝国全体を豊かにする、

 公共の善へと、姿を変えつつある、

 というわけか。……」


そして、ルミエル星域では、

星光教団と輝晶派の共存が、既に、

この帝国における、多様な信仰の共存の、

一つの模範として、

広く知られるようになっていた。


「大司教セラフィナ様の教えは、既に、

 この星域を超え、他の複数の宙域にも、

 静かに広まりつつあるとのことです」


「信仰の力もまた、静かに、

 この帝国全体へと、

 根を張り始めているというわけか。……」


皇帝は、これらの報告の数々を、

深い感慨とともに、聞き終えた。


「武、法、富、信仰——実に様々な力が、

 この帝国の内に、それぞれの形で、

 根を張り、そして、それぞれの物語を、

 紡ぎ続けている」


「陛下、この帝国は、これから、

 どのような姿へと、

 なっていくのでしょうか?」


側近の問いに、皇帝は、

しばし星々の海を見つめた後、

静かに答えた。


「分からぬ。だが、一つだけ、

 確かなことがある。

 この帝国が、

 これほどまでに多様な物語を、

 その懐に抱き続けられているのは、

 初代アルスラーン陛下が示された、

 あの分割統治の理念があってこそだ」


その夜、皇帝は、一人、展望室に立ち、

遥か彼方に広がる星々の海を、

静かに見つめていた。


かつて、この帝国が、まだ、

一つの理念すら定まっていなかった、

あの創成の時代から、既に、

幾世代もの歳月が、流れていた。


それでも、この帝国は、多様性という、

一つの大きな理念のもと、確かに、

そして着実に、その歴史を、

紡ぎ続けているのだった。


だが、この繁栄と安定の裏側で、

皇帝の胸には、一つの、

拭いきれない懸念が、

静かに育ち始めていた。


「陛下、何を、お考えでしょうか?」


夜更けに現れた側近の問いに、皇帝は、

しばし黙り込んだ後、静かに口を開いた。


「この帝国は、あまりに、……

明日 12:20 に投稿します。

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