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第3部 第8話【 ひときわ稀有(けう)な平和の物語 】

帝国の北方、

幾つもの星雲が幻想的な光を放つ

「ルミエル星域」は、

他のいかなる宙域とも異なる、

独特の秩序によって、統べられていた。


それは、武でも、法でも、富でもなく、

「信仰」という、

目に見えぬ絆による統治であった。


この星域を、事実上、

その手中に収めていたのは、

「星光教団」と呼ばれる、

古くからこの地に根付く、

宗教組織であった。


「大司教(だいしきょう)猊下(げいか)、此度の巡礼祭、

 過去最多の参列者を、記録いたしました」


若い司祭の報告に、

星光教団を率いる大司教——名を

セラフィナといった——は、

静かに微笑んだ。


「良いことです。人々の信仰心が、

 この星域の平穏を、

 静かに支えてくれているのですから」


星光教団の統治は、

他のいかなる勢力とも、

一線を画すものであった。


教義そのものが、この星域における、

最高の規範として、機能していたのである。


「教団の教えに従う限り、争いは、

 この地には、根付きません」


セラフィナは、そう説いた。


「なぜなら、我らの教義は、

 すべての生命が、

 同じ星屑から生まれた、

 兄弟姉妹であると、説いているからです」


「陛下、ルミエル星域の統治は、

 実に特異な様相を呈しております」


目付からの報告に、

帝都の皇帝は、深い興味を示した。


「特異、とは?」


「表向きの統治機構は、

 確かに存在します。

 ですが、実質的には、

 星光教団の教義そのものが、

 この星域の法として、

 機能しております。

 しかも、驚くべきことに、

 この星域では、過去百年以上、

 大規模な争いが、一度も、

 記録されておりません」


皇帝は、

しばし考え込んだ後、静かに頷いた。


「信仰の力もまた、この帝国が抱える、

 多様な秩序の一つ、というわけか。

 武でも、法でも、富でもなく、

 心によって、人々を結びつける」


「陛下は、これを、看過なさるのですか?」


「争いがなく、

 民の暮らしも安定している以上、

 口を挟む理由はない。むしろ——」


皇帝は、続けた。


「他の宙域が、学べることも、

 多いのかもしれぬ」


だが、この平穏な信仰の統治も、

決して、試練と無縁ではなかった。


ある時、この星域に、

異なる教義を掲げる、新たな宗派が、

静かに広まり始めたのである。


「大司教(だいしきょう)猊下(げいか)、新興の宗派『輝晶(きしょう)派』が、

若者たちの間で、

急速に信者を増やしているとの報告が」


補佐官の緊迫した声に、セラフィナは、

静かに目を閉じた。


「教義の違いは、いかなるものですか?」


「輝晶派は、我らの教義とは異なり、

 個の力による救済を、

 強く説いているようです。

 集団による調和ではなく、

 個々人の力の追求を、重んじる教えだと」


この教義の対立は、次第に、

この星域の各地で、

緊張を生み始めていった。


「星光教団の教えは、もはや、

 古い時代のものだ。

 輝晶派こそが、

 これからの時代に、相応しい」


そう主張する若者たちと、

伝統を守ろうとする長老たちの間に、

静かな、しかし確かな溝が、

広がり始めていたのである。


「大司教猊下、いかがなさいますか?

 輝晶派を、異端として、排斥しますか?」


補佐官の問いに、セラフィナは、

しばし黙考した後、静かに首を振った。


「排斥は、しません。

 むしろ、彼らとの対話の場を、

 設けましょう」


「対話、ですか?」


「我らの教義の根本は、すべての生命を、

 兄弟姉妹と見なすことです。

 ならば、教義の異なる者たちとさえ、

 対話を拒(こば)む理由は、どこにもありません」


セラフィナ自らが、

輝晶派の指導者との対話に臨んだ。


「あなた方の教えは、確かに、

 我らのものとは異なります。

 ですが、その根底に、

 この星域の平穏を望む想いが

 あるのなら、我らは、共存の道を、

 探れるはずです」


輝晶派の若き指導者は、

しばらくセラフィナを見つめた後、

静かに頷いた。


「大司教猊下がそう仰るなら、

 我らも、争いではなく、

 対話の道を、選びましょう」


こうして、ルミエル星域には、

二つの教義が、

互いを否定し合うことなく、

共に存在することを許される、

新たな秩序が、

静かに築かれることとなった。


「陛下、

 ルミエル星域は、教義の対立すら、

 対話によって、乗り越えたようです」


目付からの報告に、

皇帝は、深い感慨を覚えた。


「信仰もまた、対話によって、

 その懐の深さを、示すことができる、

 というわけか。

 この帝国は、本当に、

 多様な知恵に、満ちているようだ」


星々の海の彼方、

幻想的な星雲の光に包まれた

この星域では、信仰という、

目に見えぬ絆が、今日もまた、静かに、

この地の平穏を、支え続けていた。


だが、この平和的な共存の裏で、……


本日 20:20 に投稿します。

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