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第3部 第5話【 鉄拳領の顛末記 】(上)

鉄拳領——その名の通り、

圧倒的な武力によって

統治され続けてきたこの宙域は、

初代領主の代から数えて、

既に五代を数えていた。


だが、その内実は、当初の勢いとは、

大きくかけ離れたものになりつつあった。


「領主様、また、辺境の集落で、

 小規模な蜂起があったとの報告が、……」


補佐官の報告に、当代の領主は、

苛(いら)立(だ)たしげに舌打ちした。


「またか。徹底的に鎮圧せよ。

 次に蜂起(ほうき)した集落は、

 見せしめとして、住民ごと処分する」


「……よろしいのですか? 

 それほどまでに、……」


「甘い顔をすれば、

 すぐさま反乱の芽が育つ。

 それが、

 我が一族の統治の、根本の理念だ」


だが、この容赦のない統治は、既に、

この地の民の間に、

拭(ぬぐ)いようのない絶望と、

静かな、しかし確実な怒りを、

深く根付かせていた。


「もう、これ以上は、耐えられない」


辺境の集落の一つで、

密(ひそ)かに集まった民の代表たちが、

そう囁(ささや)き合っていた。


「だが、正面から反抗すれば、

 あの領主は、

 容赦なく我らを、滅ぼすだろう」


「ならば……」


その声は、次第に、

一つの、静かな決意へと、

まとまり始めていった。


一方、この地に派遣されていた目付(めつけ)は、

長年にわたり、この統治の実態を、

詳細に、帝都へと報告し続けていた。


「陛下、鉄拳領の統治は、もはや、

 単なる強権支配の域を超え、

 明確な圧政の様相を呈しております」


「民の暮らし向きは?」


「困窮しております。

 過酷な労役、重税、

 そして、些細な反抗にも、

 容赦のない粛清(しゅくせい)が加えられております」


皇帝は、しばし、深く考え込んだ。


「これまで、

 明確な乱世の兆候がないとして、

 静観してきた。

 だが……この報告が事実ならば、

 既に、

 その一線を、超えているのではないか?」


「陛下、いかがなさいますか?」


「今しばらく、様子を見よう。

 だが、次に、

 明確な蜂起の報が届いた時は、

 俺自身が、判断を下す」


その予感は、間もなく、

現実のものとなった。


「陛下、鉄拳領全域で、

 大規模な蜂起が発生!

 複数の集落が、

 一斉に、領主への反旗を翻(ひるがえ)しました!」


急報に、帝都の謁見の間が、大きくどよめいた。


「ついに、来たか。……」


皇帝は、静かに、

しかし確かな決意を込めて、立ち上がった。


「これは、もはや、

 一宙域内の問題ではない。

 民が困窮し、

 この帝国の治世そのものへの信頼を、

 大きく損(そこ)ないかねぬ事態だ。

 俺が、直接、事に当たる」


だが、鉄拳領の領主もまた、この蜂起を、

力ずくで鎮圧しようとしていた。


「反逆者どもを、一人残らず、殲滅せよ!

 帝国の介入など、待ってはおれぬ!」


領主の号令のもと、鉄拳領の艦隊が、

蜂起した集落へと、

容赦のない攻撃を開始した。


「なんという、愚かな……」


報告を受けた皇帝は、深く息を吐いた。


「急ぎ、帝国艦隊を派遣せよ。

 この虐殺を、これ以上、

 看過するわけにはいかぬ」


帝国艦隊が、鉄拳領へと到達した時、

既に、いくつかの集落は、

壊滅的な被害を受けていた。


だが、皇帝自らが乗り込んだ艦(ふね)の到着は、

この地の民に、そして、

暴走を続ける領主自身にも、

大きな衝撃をもたらすこととなる。


「皇帝陛下御自ら、この地に……!」


領主が、驚愕の表情を浮かべる中、

アルスラーンの子孫にあたる、

当代の皇帝は、

静かに、しかし重い声で告げた。


「そなたの統治は、

 この帝国が定めた、最後の一線を、

 明確に超えた。

 これより、

 鉄拳領の自治権を、剥奪(はくだつ)する」


「自治権の剥奪……!

 そのような、一存で!……」


領主が、激しく抗議した。


だが皇帝は、静かに首を振った。


「一存ではない。

 この帝国の統治理念

 そのものに照らした、当然の判断だ。

 民が困窮するような大混乱——

 それこそが、

 俺が、自治に任せる限界として、

 初代アルスラーン陛下より定められた、

 唯一の一線だ。

 そなたは、

 その一線を、幾重(いくえ)にも踏み越えた」


「では……

 この地は、いかになるのですか?」


「まず、これ以上の戦闘行為を、

 直ちに中止せよ。

 蜂起した民との間に、

 対話の場を設ける。

 そなたの統治機構は、

 一時的に、帝国の直轄下に置く」


皇帝は、続けて、

蜂起した集落の代表たちとの、

直接の対話に臨んだ。


「陛下、我らは、ただ、……」

本日 20:20 に投稿します。

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