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第3部 第4話【 不断の自省こそが 】(下)

ついに、サルーン領の首府は陥落し、


最後の領主は、静かに、その座を、

ラスティーユ公国の大公へと

明け渡すこととなった。


「私の一族が、この地を治めてから、

 既に幾世代——その歴史に、

 終わりを告げることになろうとは」


最後の領主は、そう言い残し、

静かに、この地を去っていった。


ラスティーユ公国の大公は、

この勝利の後、驚くべき決断を下した。


「敗れた領主の一族を、

 罰する必要はない。

 彼らもまた、我らと同じく、

 この地を愛した者たちだ」


そう告げると、大公は、

旧領主の一族に、名誉ある地位を与え、

この地に留まることを許した。


「陛下、ラスティーユ公国の大公は、

 かつてのバイラムの血統と、同じ道を

 ——すなわち、征服した地への、

 深い融和を、選んでいるようです」


目付からの、最後の報告に、

皇帝は、静かに、複雑な笑みを浮かべた。


「歴史は、韻(いん)を踏む、ということか。

 かつての征服者が、融和によって、

 その地に根を張り、そして、

 新たな征服者もまた、同じ道を、

 辿(たど)ろうとしている」


「陛下、この帝国は、これから、

 どうなっていくのでしょうか?」


若い側近の問いに、皇帝は、

しばし

星々の海を見つめた後、静かに答えた。


「分からぬ。

 だが、一つだけ、確かなことがある。

 この帝国という大きな枠組みの中で、

 興(おこ)り、

 そして衰えていく、無数の勢力の物語

 ——それこそが、この帝国そのものの、

 真の歴史なのだろう」


こうして、かつてのサルーン領は、

ラスティーユ公国という新たな名の下、

この地に、

新たな時代を、迎えることとなった。


だが、それは、決して、

この帝国の歴史の、終わりではなかった。


むしろ、それは、まだ見ぬ、

幾つもの興亡の物語への、

序章に過ぎなかったのである。


新たな大公の治世は、驚くほどの速さで、

この地に安定をもたらしていった。


「大公様、旧サルーン領の民の間にも、

 我らへの信頼が、

 着実に広がっているとの報告が」


補佐官の言葉に、大公は、静かに頷いた。


「当然のことだ。

 我らは、彼らを、

 力だけで押さえつけようとは思わぬ。

 かつて、この地を治めた

 バイラム殿の統治から、

 我らも、多くを学んでいる」


「バイラム殿の統治から、ですか?」


「そうだ。

 彼らが、この地に、

 いかにして深く根を張ったか——

 その知恵を、我らは、

 決して無駄にはしない。

 ただし、彼らが陥(おちい)った、

 あの慢心だけは、

 繰り返さぬようにとな」


こうして、ラスティーユ公国は、

征服者でありながら、融和という、

かつての支配者と同じ道を、

より慎重に、

洗練させながら歩み始めていった。


旧サルーン領の官吏(かんり)の多くは、

そのまま、新体制の中に組み込まれ、

混乱は、最小限に抑えられた。


帝都では、この一連の顛末(てんまつ)が、

帝国の統治哲学そのものに、

静かな一石を投じることとなった。


「陛下、この教訓を、

 他の宙域の統治にも、

 活かすべきではないでしょうか?」


若い官僚の一人が、そう進言した。


「例えば、どのように?」


「融和策を採(と)る宙域には、

 常に、変化への備えを怠(おこた)らぬよう、

 促(うなが)す仕組みが必要かと、……」


皇帝は、静かに頷いた。


「良い提言だ。だが、忘れてはならぬ。

 仕組みだけでは、

 慢心を防ぐことはできぬ。

 結局のところ、

 それぞれの統治者自身の、

 不断の自省こそが、

 唯一の答えなのだろう」


こうして、旧サルーン領——今は

ラスティーユ公国と呼ばれるこの地は、

帝国の版図(はんと)の中で、

新たな安定を築きつつあった。


だが、この帝国全土に目を向ければ、

まだ、幾つもの宙域が、

それぞれの興亡の物語を、静かに、

しかし確実に紡(つむ)ぎ続けていたのである。


星々の海の彼方、

遠い辺境の「鉄拳領」もまた、この頃、

大きな転機を迎えようとしていた。


長きにわたる強権支配の歪みが、

ついに、その地に、静かな、

しかし確実な変化の兆(きざ)しを、

もたらし始めていたのである。



鉄拳領——その名の通り、

圧倒的な武力によって

統治され続けてきたこの宙域は、

初代領主の代から数えて、

既に五代を数えていた。


だが、……。

明日 12:20 に投稿します。

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