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第3部 第5話【 鉄拳領の顛末記 】(下)

皇帝は、続けて、

蜂起した集落の代表たちとの、

直接の対話に臨んだ。


「陛下、我らは、ただ、人として、

 当たり前の暮らしを、望んだだけです」


代表の一人が、涙ながらに訴えた。


「その願いは、正当なものだ。

 この地の統治が、そなたたちに、

 あまりに大きな苦しみを

 強いてきたことを、

 帝国を代表して、詫(わ)びる」


「陛下……」


「これより、この地の統治を、

 根本から見直す。

 二度と、このような悲劇を、

 繰り返させはしない」


数ヶ月にわたる混乱の収拾の後、

鉄拳領は、正式に、帝国の直轄領として、

再編されることとなった。


旧領主は、その地位を剥奪(はくだつ)され、

代わって、帝都から派遣された、

公正な統治を旨(むね)とする、新たな官吏(かんり)団が、

この地の再建にあたることとなった。


「陛下、此度の一件、

 初代アルスラーン陛下の統治理念を、

 忠実に体現なさった、と申せましょう」


側近の言葉に、皇帝は、静かに頷いた。


「分割統治は、

 多様性を育む、良き仕組みだ。

 だが、それは、無制限の放任を、

 意味するものではない。

 見守ることが、

 見放すことになってはならぬ」


「サルーン領の逆転劇、

 そして、此度の鉄拳領の顛末——

 この帝国は、実に、多様な物語を、

 その懐に、抱え続けているのですね」


「そうだ。

 そして、これから先も、

 まだ見ぬ、幾つもの興亡の物語が、

 この広大な版図の、どこかで、

 静かに紡がれ続けていくことだろう」


星々の海の彼方、

この帝国のあらゆる宙域で、

それぞれの民が、それぞれの統治者の下(もと)、

それぞれの明日を、静かに、

しかし確かに、紡ぎ続けていた。


その多様な物語こそが、

この第七帝国という、広大な叙事詩を、

これから先も、

豊かに彩り続けていくのだろう。



帝国の版図の南方、隣り合う二つの宙域——

「ヴェルダンディー州」と

「スコルニク州」は、

長きにわたり、

互いに反目し合いながらも、

それぞれに、独自の統治を続けてきた。


だが、この二つの宙域は、この頃、共に、

深刻な内部崩壊の兆(きざ)しを見せ始めていた。


「州候様、ヴェルダンディー州の財政、

 既に破綻(はたん)寸前です」


補佐官の悲痛な報告に、

州候は、頭を抱えた。


「先代、先々代の州候が、

 あまりに放漫な

 財政運営を続けてきたツケが、

 ついに回ってきたということか。……」


「加えて、後継者を巡る一族内の争いも、

 激化しております」


統治の空白は、この宙域の隅々にまで、

静かに、

しかし確実に、混乱を広げていった。


隣接するスコルニク州もまた、

同様の苦境に陥(おちい)っていた。


「州候様、

 隣国ヴェルダンディー州からの難民の、

 流入が後を絶ちません」


「我が州とて、余裕はない。

 だが、無下(めぐ)に追い返すこともできまい」


スコルニク州の州候は、深く息を吐いた。


「我が州の統治機構も、

 既に、限界に近い。

 もし、この状況が、あと数年も続けば……」


両宙域の混乱は、やがて、

帝都の目付(めつけ)たちの報告を通じて、

皇帝の耳にも届くこととなった。


「陛下、

 ヴェルダンディー州、スコルニク州、

 いずれも、統治機能が、

 著しく低下しております。

 とはいえ、いずれも、まだ、

 明確な反乱や、

 大規模な暴力沙汰には至っておりません」


情報官の報告に、

皇帝は、しばし考え込んだ。


「乱世とまでは言えぬが、

 このまま放置すれば、いずれ、

 そうなるのは、時間の問題だろうな」


「いかがなさいますか?」


「初代アルスラーン陛下が定めた、

 もう一つの選択肢——宙域の合併を、

 この機に、試してみようと思う」


皇帝の勅命により、

ヴェルダンディー州とスコルニク州は、

正式に合併され、新たに

「ヴェルスコニア連合州」として、

再編されることとなった。


統治の実務は、

両州の有力者から選ばれた、

合議制の評議会に委(ゆだ)ねられた。


「まさか、長年の宿敵と、

 一つの旗の下(もと)に

 立たされることになろうとは」


ヴェルダンディー州の元州候が、

複雑な表情で呟(つぶ)いた。


「私とて、同じ気持ちです。

 だが……このまま、それぞれが、

 独りで崩れ落ちていくよりは、

 はるかにマシでしょう」


スコルニク州の元州候も、静かに頷(うなず)いた。


合議制の評議会は、

当初、多くの困難に直面した。


互いの流儀の違い、積年の不信感——

明日 12:20 に投稿します。

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