第3部 第3話【 境州の新興勢力 】
サルーン領の西方、帝国の版図の中でも、
最も辺境とされていた
「ガーズィー辺境州」——そこは、
荒れた小惑星帯と、
資源に乏しい恒星系が点在するばかりの、
痩せた土地であった。
この地を根城としていたのは、
ラスティーンと名乗る、
若き部族長であった。
「我らの祖先は、遥か昔、
サルーン領の統治から逃れ、
この辺境に流れ着いた者たちだと聞く」
ラスティーンは、
集った戦士たちを前に、そう語った。
「豊かな土地は、既に、
サルーン領の貴族どもに、
すべて奪われている。
ならば、我らは、この痩せた辺境で、
独自の力を、蓄えるほかない」
ガーズィー辺境州の民は、
決して恵まれた生活を
送っていたわけではなかった。
だが、その厳しい環境こそが、彼らを、
屈強な戦士集団へと
鍛え上げていったのである。
「隣接する小勢力との小競り合いに、
また勝利したとの報告が」
副官の言葉に、
オスマーンは、静かに頷いた。
「良い。だが、慢心するな。
我らは、まだ、辺境の一部族に過ぎぬ」
ラスティーンの統率のもと、この一団は、
周辺の小さな勢力を、一つ、また一つと、
着実に併呑していった。
その戦略は、単なる
武力による征服だけではなかった。
「降した者たちを、奴隷としてではなく、
我らの同胞として、迎え入れよ」
ラスティーンは、そう命じていた。
「我らもまた、かつては、
追われた者たちだ。
同じ境遇にある者を、
蔑ろにする理由はない」
この方針は、驚くべき効果を発揮した。
周辺の小勢力の多くは、
征服されるというよりも、自ら進んで、
ラスティーンの旗の下へと、
馳せ参じるようになっていったのである。
「ラスティーン殿の下ならば、
少なくとも、飢えることはないと聞く」
「サルーン領の貴族どもに
搾取されるより、よほどマシだ」
そうした声が、辺境の各地に、
静かに広まっていった。
サルーン領の当代領主は、この動きを、
当初、さほど気にかけてはいなかった。
「辺境の部族が、多少纏まったところで、
我らの版図を脅かすほどのことにはなるまい」
だが、この楽観が、後に
大きな誤りであったことが、
明らかになるまでには、
そう長い時間はかからなかった。
「領主様、ガーズィー辺境州の勢力が、
既に、
我が領の三分の一に匹敵する規模にまで、
膨れ上がっているとの報告が、……」
補佐官の緊迫した声に、
領主は、初めて眉をひそめた。
「三分の一……。
あの痩せた辺境の部族が、
そこまでの規模に?」
「はい。しかも、
ラスティーンなる部族長は、
単なる武力だけでなく、
降した民の心を掴む術に、
非常に長けているようです」
サルーン領は、慌てて、
この新興勢力への対応を検討し始めた。
だが、この頃には既に、
ガーズィー辺境州の勢力は、
単なる
小競り合いで抑え込めるような規模を、
大きく超えつつあったのである。
帝都では、この動きを、
目付からの報告を通じて、
皇帝もまた、注視し始めていた。
「サルーン領の内部で、新たな勢力が、
急速に台頭している、か。……」
「はい。陛下、いかがなさいますか?」
皇帝は、
しばし考え込んだ後、静かに答えた。
「まだ、動かぬ。
サルーン領は、あくまで自治領だ。
その内部の勢力争いに、
帝国が、直接、口を出す道理はない」
「ですが、……。
もしこの新興勢力が、
サルーン領そのものを、
脅かすようになれば」
「その時は……いよいよ、俺が、
判断を下す時が来るということだろう」
こうして、
ガーズィー辺境州の新興勢力は、
誰にも本格的に抑え込まれることなく、
着実に、その版図と影響力を、
拡大し続けていった。
かつて、
痩せた辺境の一部族に過ぎなかった
この一団は、今や、サルーン領という、
かつての支配者そのものの立場を、
静かに、しかし確実に、
脅かし始めていたのである。
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