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第3部 第1話【 膨張の音に耳を澄ませながら 】(上)

第七帝国、その版図は、第八帝国と並び、

既知の大宇宙の半分近くを分け合うほどに、

広大なものであった。


だが、その統治の在り方は、

第八帝国とは、

まったく異なる道を歩んでいた。


皇帝アルスラーンは、

若き日より、こう考えていた。


「これほどの広さを、

中央から一つの意志で統べようとすれば、

いずれ、

その意志は、末端まで届かなくなる。


届かぬ意志は、やがて、

形だけの支配に成り下がるだろう」


即位して間もなく、アルスラーンは、

帝国の統治方針を、大きく転換させた。


「各宙域に、自治権を与える。

 ただし、無制限にではない」


謁見の間に集った重臣たちを前に、

アルスラーンは、静かに宣言した。


「それぞれの宙域の統治者に、

大幅な裁量を与える。


彼らのやり方で、

彼らの民を治めればいい。


だが、俺の目付を、

すべての宙域に配置する」


「目付、でございますか」


宰相の一人が、慎重に問うた。


「そうだ。目付は、

統治には直接、口を出さぬ。

ただ、その宙域の様子を、逐一、

俺に報告する役目を負う。


民が困窮するような大きな混乱——

この帝国の治世そのものを

脅かすほどの乱世に陥らぬ限り、

俺は、各宙域の成り行きに、口を挟まぬ」


「もし、乱世に陥った場合は」


「その時は、俺が動く。

宙域と宙域を合併させることもあれば、

自治権そのものを、

取り上げることもあるだろう」


この方針のもと、帝国内の各宙域には、

実に多様な統治のあり方が、

花開いていくこととなった。


西方のとある宙域では、

征服者と被征服者の融和を重んじる、

懐柔策が採られていた。


「我らは、この地の古き文化を、

否定はしない。むしろ、それを尊重し、

我らの統治に、その知恵を、

積極的に取り入れていく」


その宙域を治める領主は、そう宣言し、

現地の旧支配層を、

そのまま

自らの統治機構に組み込んでいった。


旧来の言語も、宗教も、慣習も、

そのまま存続を許された。


「征服者でありながら、この地に、

深く溶け込もうとしている、というわけか」


派遣された目付の一人は、

その報告書に、そう記した。


一方、別の辺境の宙域では、

まったく異なる統治が行われていた。


「甘い顔をすれば、

すぐさま反乱の芽が育つ。


この地の民には、恐怖こそが、

最も効果的な統治の道具だ」


その宙域の領主は、

圧倒的な武力を背景に、

強権的な支配を貫いていた。


抵抗する者は、容赦なく粛清され、

民は、絶対的な服従を強いられた。


「あの宙域の統治、あまりに苛烈ではないか」


目付からの報告を受けた側近の一人が、

アルスラーンに、そう進言した。


だがアルスラーンは、静かに首を振った。


「民が、なお、日々の暮らしを、

かろうじて営めている限り、

俺は、口を挟まぬ。


それぞれの宙域には、それぞれの事情がある」


「よろしいのですか、

そのような統治を、放置なさって」


「放置ではない。見守っているのだ。


いずれ、その統治の是非は、

時が、答えを出すだろう」


こうして、第七帝国の広大な版図には、

実に多様な統治の形が、

それぞれの土地に根を張り始めていった。


融和と抑圧、寛容と苛烈——

そのどちらもが、この帝国という、

一つの旗の下に、同時に

存在することを許されていたのである。


だが、この時、

誰一人として、まだ知らなかった。


この多様性こそが、やがて、

この帝国の未来を、大きく揺るがす、

幾つもの興亡の物語を生み出す、

豊かな土壌となることを。


西方の懐柔策を採る宙域は、やがて

「サルーン領」と

呼ばれるようになっていった。


その領主——若き日に

アルスラーンから直々に任命された、

忠実な将であった——は、

現地の民との融和を、丹念に、

そして辛抱強く進めていった。


「陛下、サルーン領の統治、実に順調です」


目付の報告に、アルスラーンは満足げに頷いた。


「現地の旧支配層は、我らを、

単なる征服者としてではなく、

共に歩む統治者として、

受け入れ始めているようです」


「良いことだ。

力だけで押さえつけた統治は、

いずれ、その力が陰った時、脆く崩れる。


真の安定は、信頼の上にしか築けぬ」

読んでくださってます方々に篤くお礼申し上げます。

ありがとうございました。

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