2部 第9話【 帝国最大の試練 】(下)
「陛下! 一部の強硬派が、
最終審の裁定を無視し、
境界外縁星域へ、独断で
艦隊を進めております!」
セレスの報告に、光華万華宮全体が、
緊迫した空気に包まれた。
「首謀者は?」
「エーデルシュタイン管区の若手将校団。
総司令官の制止にも、応じておりません」
アンタレスは、
しばらく、静かに目を閉じていた。
かつて、
遠い祖先の代から受け継がれてきた、
あの重い問い掛けが、今、
彼自身の胸の中で、静かに響いていた。
「陛下、いかがなさいますか?
このままでは、ルーメンの民との間に、
武力衝突が……!」
アンタレスは、静かに目を開けた。
その双眸には、これまでにない、
確かな決意が宿っていた。
「俺が、行く」
「陛下自らが、ですか?
あまりに危険です!」
「危険は承知の上だ。
だが、この均衡を、
俺の代で崩すわけにはいかぬ。……
皆、艦を用意せよ。
俺自身の艦で、あの星域へ向かう」
光華万華宮に、
慌ただしい足音が響き渡った。
均衡の時代、最大の危機が、
今、まさに、
その頂点を迎えようとしていた。
「陛下、私も同行いたします」
フェリクスが、即座に申し出た。
「私が、
対話の道を主張し続けてきた結果が、
この事態を招いたのなら、
その責任の一端は、私にもあります」
「よかろう。共に来い」
ヴァルデマールもまた、
青ざめた顔で進み出た。
「陛下、部下の暴挙、
まことに申し訳ございません。
私にも、共に行かせてください。
彼らを止められるのは、あるいは、
私だけかもしれません」
アンタレスは、静かに頷いた。
「よし。三人で行こう。
皮肉なものだな……
穏健派の宰相、強硬派の総司令官、
そして俺。
この三人が、共に
一つの艦に乗り込む日が来るとは」
艦は、境界外縁星域へと、
最大速度で向かっていった。
道中、アンタレスは、静かに、
しかし確かな声で、
フェリクスとヴァルデマールに語りかけた。
「この十年、俺たちは、法という場で、
対立を治めてきた。
だが、法だけでは、
どうしても届かぬ場所がある。
人の、切迫した想いというものは、
時に、
法の手続きを、置き去りにしてしまう」
「陛下は、あの若手将校たちを、
責めておられないのですか?」
フェリクスの問いに、
アンタレスは、静かに首を振った。
「責める気持ちが、ないわけではない。
だが、あの者たちの言葉には、
確かな切実さがあった。
宇宙の膨張という、
誰にも止められぬ流れへの、焦り。
それを、俺は、
無視することができない」
ヴァルデマールが、拳を強く握りしめた。
「陛下……あの者たちを、どうか、
生かしたまま連れ戻していただきたい。
彼らは、俺の部下です。
その未来を、ここで断つわけには」
「分かっている。俺も、
誰一人として、失うつもりはない」
境界外縁星域が、視界に入り始めた。
ルーメンの民の星系を
守るように展開する、反乱艦隊の姿が、
その先に見えていた。
すべての想いを乗せた艦は、静かに、
しかし着実に、
この帝国最大の試練の中心地へと、
近づいていった。
その先に待つものが、
破滅への引き金となるのか、
それとも新たな和解の始まりとなるのか——
それは、まだ誰にも分からなかった。
アンタレスは、
拳の紋章を静かに握りしめながら、
艦橋の窓から、その光景を、
まっすぐに見つめ続けていた。
明朝 7:30 に投稿します。
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