2部 第9話【 帝国最大の試練 】(上)
数ヶ月にわたる最終審の審理は、
ついに、その結論の日を迎えた。
光華万華宮の最終審法廷には、
これまでにない緊張が満ちていた。
「本件、最終審の
裁定を、これより言い渡す」
アンタレスの声が、静かに、
しかし重々しく響いた。
「境界外縁星域における
次元結晶の開発は、
これを全面的に凍結する。
同時に、この星域を、ルーメンの民の
完全な自治領として認める。
いかなる陣営も、
彼らの明確な同意なくして、
この地に立ち入ることを禁じる」
法廷に、静かな衝撃が走った。
「全面凍結……」
ヴァルデマールが、思わず声を漏らした。
フェリクス側の代理人も、
驚きを隠せずにいた——
予想していたよりも、
はるかに、ルーメンの民の側に、
大きく振れた裁定だったからである。
「陛下、これは……」
「不服か、ヴァルデマール」
アンタレスの問いに、ヴァルデマールは、
しばらく言葉を選んだ。
「率直に申し上げれば、これでは、
次元結晶による軍の近代化計画
そのものが、頓挫いたします」
「分かっている。だが、この帝国は、
始祖の代から、力によって奪うことを、
正義とはしてこなかった。
ルーメンの民の祖先の墓所を、
彼らの意に反して掘り返すことは、
俺には、到底容認できぬ」
裁定は、確かに下された。
だが、その波紋は、法廷の外へと、
瞬く間に広がっていくこととなる。
「馬鹿げている!」
エーデルシュタイン管区の
若手将校たちの間では、
この裁定への怒りが、
急速に燃え広がっていった。
「あの資源があれば、我らの艦隊は、
宇宙の膨張速度にすら、
追いつけるようになるはずだったのだ!
それを、たかが一つの小さな民の
意向一つで、全面凍結だと?」
「宰相殿の腰巾着どもが、
陛下を、丸め込んだに違いない」
数日のうちに、この不満は、
看過できぬ規模にまで
膨れ上がっていった。
「総司令官、一部の艦隊が、
勝手に境界外縁星域への進駐準備を、
始めているとの情報が」
副官の緊迫した報告に、
ヴァルデマールは、血相を変えた。
「なんだと……! 誰の命令だ!」
「命令系統の外から、
独自に動いているようです。
首謀者は、若手将校のグループかと」
ヴァルデマールは、
即座にその艦隊へと通信を繋いだ。
「貴様ら、何のつもりだ!
陛下の裁定に、
真っ向から反する行為だぞ!」
「総司令官、申し訳ございませんが、
我らは、この帝国の未来のために、
動いております」
若い指揮官の声には、
悲壮なまでの決意が滲んでいた。
「宇宙は、膨張し続けています。
今、この好機を逃せば、我らは二度と、
あの資源を手にすることはできません!
陛下の御心は理解しております、
ですが……我らには、時間がないのです!」
「待て、暴走するな!
これは反逆と見なされるぞ!」
通信は、一方的に切られた。
艦隊は、そのまま、
境界外縁星域へと向けて、
進路を取り始めていた。
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