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第2部 第8話【 最終審への上訴 】(下)

最終審——

アンタレス裁判所制度において、

これまで一度も開かれたことのない、

最高位の法廷が、

いよいよ開廷されることとなった。


「陛下、最終審の裁定には、

 陛下ご自身も、

 関与なさるおつもりですか?」


ミラベルの問いに、アンタレスは、

しばらく黙り込んだ後、静かに頷いた。


「関与する。だが、俺の恣意で、

 事を決めるつもりはない。

 あくまで、この帝国の理念に照らして、

 最も正しい道を、皆と共に見出したい」


光華万華宮の最奥、

これまで一度も使われたことのなかった

「最終審法廷」の扉が、静かに、

しかし重々しく開かれた。


フェリクス、ヴァルデマール、

そしてルーメンの民の代表——

それぞれの想いを胸に、

この場に集った者たちの視線が、

静かに、

皇帝アンタレスへと注がれていた。


均衡の時代の、最大の試練が、今、

始まろうとしていた。


最終審法廷の開廷を控えたその夜、

フェリクスは、一人、

ルーメンの民の長を、密(ひそ)かに訪ねていた。


「宰相様が、

 わざわざ、このような場所まで」


「あなた方の声を、

 直接聞いておきたかった。

 この裁きが、あなた方にとって、

 最良の結果となるように」


長は、

しばらくフェリクスを見つめた後、

静かに口を開いた。


「正直、もう、疲れました。

 私たちの声は、大きな利権の前では、

 いつも小さく響くばかりです」


「……申し訳なく思う。

 だが、諦めないでほしい。

 この最終審こそが、あなた方の声を、

 正しく届ける最後の、

 そして最良の機会だ」


一方、ヴァルデマールもまた、同じ夜、

レオンハルトと共に、

静かに酒を酌み交わしていた。


「総司令官、最終審の結果次第では、

 我々の拡張路線そのものが、

 大きく制限されるかもしれません」


「分かっている」


「不安は、ないのですか?」


ヴァルデマールは、

しばらく杯を見つめた後、静かに答えた。


「不安がないと言えば、嘘になる。

 だが……この十年、法という場で、

 俺たちなりに、多くを学んできた。

 その学びが、

 この最終審でも、生きると信じたい」


翌朝、最終審法廷に、両陣営の代表、

そしてルーメンの民の代表が、

それぞれの席に着いた。


皇帝アンタレスは、法廷の中央、

これまでの謁見の間とは異なる、

簡素な席に腰を下ろした。


「これより、最終審を開廷する」


アンタレスの声が、静かに、

しかし確かに、法廷全体に響き渡った。


「双方の主張、そして

 ルーメンの民の訴え、すべてを、

 公平に聞かせてもらう」


審理は、

これまでのいかなる裁判よりも、慎重に、

そして丹念に進められることとなった。


ミラベル、オズワルド、両首席裁判官も、

この最終審には、

陪席として名を連ねていた。


「この裁定は、

 単なる一つの星域の問題ではない」


審理の冒頭、

アンタレスは、静かにそう告げた。


「この帝国が、これから先も、力と法、

 拡張と対話、その両方を、

 いかに調和させていくか——

 その根幹が、問われている」


法廷に集った誰もが、その言葉の重みを、

深く噛み締めていた。


これから始まる審理が、

単なる資源開発の是非を超え、

この帝国そのものの未来を、

大きく左右することを、皆が、

静かに悟り始めていたのである。


静まり返った法廷に、

これから紡(つむ)がれる審理の重さだけが、

静かに満ちていた。

明朝 7:30 に投稿します。

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