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2部 第6話【 静かな不満の芽生え 】(上)

アンタレス裁判所の設立から数年、

帝国の各地では、

第一審での裁定に納得できぬ者たちが、

上級の裁きを求める事例も、

少しずつ現れ始めていた。


「宰相閣下、高等裁判所への控訴が、

 初めて申し立てられました」


補佐官の報告に、フェリクスは、

静かに眉を上げた。


「ほう。どのような案件だ?」


「エーデルシュタイン管区の

 新規開拓地で、

 資源採掘権を巡る争いです。

 現地住民の共同体と、

 管区から派遣された開発局との間で、

 第一審の裁定に、

 双方が納得しておりません」


高等裁判所は、

アンタレス裁判所の設立から二年後、

より複雑な案件を扱う第二審の場として、

新たに設置されていた。


首席裁判官には、ミラベルの推薦により、

かつて

辺境の紛争調停に長く携わってきた、

初老の裁判官オズワルド・キーンが

任命されていた。


「双方の主張、

 しかと聞かせていただこう」


法廷に集った両者を前に、

オズワルドは、静かに切り出した。


「開発局の主張は」


「我らは、アンタレス憲法に則(のっと)り、

 住民の同意を得た上で、

 採掘を開始しました。

 しかし、その後、共同体側が、

 条件の再交渉を、

 一方的に求めてきたのです」


「共同体側は」


「当初の同意は、

 採掘量が限定的であるという

 前提でのものでした。

 しかし実際の採掘は、

 その規模を大きく超えています。

 約束が違うのです」


第一審では、この食い違いを、

「解釈の相違」として、

双方に譲歩を求める裁定が下されていた。


だが、いずれの側も、その裁定に、

完全には納得していなかったのである。


オズワルドは、数ヶ月にわたり、

現地調査を含む、

丹念な審理を重ねていった。


「開発局側の当初の説明資料には、

 確かに、採掘規模に関する記載が、

 曖昧(あいまい)であったことが確認できる」


審理の中で、彼はそう指摘した。


「一方で、共同体側も、契約の細部を、

 十分に確認せぬまま、

 同意書に署名したという、

 落ち度がある」


数ヶ月後、高等裁判所は、

最終的な裁定を下した。


「本件、開発局側の説明義務違反を認め、

 今後の契約においては、

 採掘規模の上限を、

 明文化することを義務付ける。

 同時に、既に進行中の採掘については、

 共同体側の追加の同意を、

 改めて得ることを条件とする」


この裁定は、第一審よりも、

はるかに具体的

かつ実効性のあるものであった。


「これは……妥当な判断だ」


開発局の代理人が、

意外にも、素直に頷いた。


「共同体側も、

 これなら受け入れられます」


その報告を受けたヴァルデマールは、

しばらく黙り込んだ後、静かに呟いた。


「第一審だけでは、

 拾いきれぬ細部がある、というわけか」


「不服ですか、総司令官」


レオンハルトの問いに、

ヴァルデマールは、意外にも首を振った。


「いや……悪くない仕組みだ。

 俺たちの拡張が、

 こうした丁寧な手続きを経ることで、

 かえって長続きするのなら、

 それも一つの強さだろう」

本日 18:30 に投稿します。


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