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2部 第5話【 『アンタレス憲法』を発布 】(上)

星団を巡る摩擦から半年後、

皇帝アンタレスは、

再び光華万華宮に主だった者たちを

召集した。


「今日、俺は、この帝国に、

新たな礎を築こうと思う」


アンタレスの声は、これまでになく、

静かな重みを帯びていた。


「これより、

『アンタレス憲法』を発布する。


この帝国に生きるすべての者が、

依るべき、共通の法だ」


謁見の間に、緊張が走った。


「憲法、ですか」


フェリクスが、静かに問うた。


「そうだ。

穏健派の理念も、強硬派の理念も、

いずれもこの帝国にとって、必要な柱だ。

だが、柱と柱がぶつかり合った時、

それを裁く場が、

これまでこの帝国には存在しなかった」


アンタレスは、静かに続けた。


「同時に、諸問題を三審制で裁く

『アンタレス裁判所』を、

この帝国に設ける」


「三審制、とは」


ヴァルデマールが、慎重に問うた。


「第一審、第二審、そして最終審。

よほどの重大事でない限り、

多くの問題は、第一審で決着させる。


当事者同士の言い分を、

公正な裁定者が、法に基づいて裁く。

俺の恣意ではなく、法による統治だ」


「陛下自らが、裁定を下されるのですか」


「いや」


アンタレスは、静かに首を振った。


「俺は、

最終審にのみ、必要に応じて関わる。


日々の裁定は、

俺から独立した、裁判官たちに委ねる」


その言葉に、フェリクスは、

深く感じ入った様子で頭を垂れた。


「陛下は、ご自身の権威すら、

法の下に置かれるおつもりなのですね」


「そうだ。

俺一人の判断に、この帝国のすべてを

委ねることの危うさは、

既に、俺自身が痛感している」


数ヶ月後、

アンタレス裁判所は、正式に開設された。


初代首席裁判官には、

フェリクスでもヴァルデマールでもない、

これまで中立を保ち続けてきた

老練な法学者、

ミラベル・ソーンウッドが任命された。


「私は、いずれの陣営にも与しません。

ただ、アンタレス憲法の理念に、

忠実であるのみです」


就任の辞で、彼女はそう宣言した。


そして、この裁判所が初めて扱った

重大事案こそ、

あの星団を巡る摩擦の、

蒸し返しであった。


「共同開発の取り決め以来、

実務における齟齬が、

絶えず生じております」


穏健派の代理人が、そう訴えた。


「軍部側が、

住民の意向を軽視した開発を、

独断で進めているとの証言が複数」


一方、強硬派の代理人も、反論した。


「共同開発の条件が曖昧であったため、

我らは、

これまでの慣例に従っただけです」


法廷での審理は、

数週間にわたって続けられた。


ミラベル首席裁判官は、

双方の証言と、憲法の条文を、

丹念に照らし合わせていった。


「両者の主張、確かに承った」


最終的な裁定の日、

法廷に集った者たちの前で、

ミラベルは、静かに口を開いた。


「アンタレス憲法第七条、

『版図における開発は、

現地住民の明示的な同意を要する』

——この条文に照らし、

軍部側の一部の開発行為は、

手続きに瑕疵(かし)があったと認める」

本日 18:30 に投稿します。

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