2部 第4話【 試練の予感 】(下)
報せは、瞬く間に、
フェリクスとヴァルデマール、
双方の耳に届くこととなった。
「宰相殿の側が、我が軍の正当な発見を、
横取りしようとしていると聞きましたが」
ヴァルデマールが、通信越しに、
皮肉を込めて言った。
「横取りではありません。ただ、
あの星団の民の意思を、
尊重したいだけです」
「意思、意思と、それだけで、
この帝国が広がると、本気でお考えか」
「力だけで広がった版図に、
真の平穏が宿るとは、私には思えません」
二人の対話は、
次第に険しさを増していった。
この応酬は、やがて
アンタレスの耳にも入ることとなる。
「陛下、両陣営の対立が、
初めて表面化いたしました」
セレスの報告に、
アンタレスは、静かに目を閉じた。
「……予感していた通りだな」
「いかがなさいますか」
「まだだ。この程度の摩擦であれば、
両者で解決の道を探らせるべきだろう。
俺が動くのは、もっと後だ」
妥協案が成立した後も、
両陣営の間には、
目に見えない緊張が漂い続けていた。
「宰相閣下、この決着、
本当によろしかったのですか」
補佐官の問いに、フェリクスは、
しばし窓の外を見つめた。
「最善ではない。だが、最悪でもない。
今は、それで十分だ」
「軍部は、
納得していないように見えます」
「ああ。ヴァルデマール殿の目には、
俺たちのやり方が、
甘さにしか映っていないのだろう」
一方、エーデルシュタイン管区でも、
似たような会話が交わされていた。
「総司令官、此度の妥協、
本当に受け入れてよろしかったのですか」
レオンハルトの問いに、
ヴァルデマールは、
苦々しい表情を浮かべた。
「陛下が、静観を選ばれた以上、
我らが独断で事を構えるわけにはいかぬ。
だが……」
「だが?」
「いずれ、こうした玉虫色の決着では、
済まされぬ局面が来る。
その時、宰相殿の理念が、
この帝国の防衛に、本当に耐えうるのか
——俺は、疑問に思っている」
その懸念は、
決して的外れなものではなかった。
実際、
フェリクス統治区の境界付近では、
この頃から、
外部勢力による小規模な侵犯が、
少しずつ増え始めていたのである。
「宰相閣下、辺境の集落が、
正体不明の艦隊による
略奪を受けたとの報告が」
「被害の規模は」
「幸い、死者は出ておりません。
ですが、住民たちの間には、
動揺が広がっています」
フェリクスは、深く息を吐いた。
「対話と共存の道は、時に、
力による防衛を、後回しにしてしまう。
それは、俺も承知している」
「軍部への協力要請は」
「……まだ、早い。俺たち自身の手で、
まずは対応してみせよう」
こうして、穏健派と強硬派、
それぞれの陣営は、
互いに異なる課題を抱えながら、
それでも独自の道を歩み続けていった。
だがその歩みの奥底では、
いつしか埋めがたい溝が、静かに、
しかし確実に、
広がり始めていたのである。
その夜、光華万華宮の展望室で、
アンタレスは、
遠くフェリクス統治区と
エーデルシュタイン管区、
双方の方角に瞬く星々を、
じっと見つめていた。
「二つの理念が、共に栄える帝国。
それが、俺の望んだ形だった」
拳の紋章に、静かに問いかける。
「だが、この均衡は、
いつまで保てるのだろうか」
星屑の光は、
変わらず静かに輝くばかりで、
何も答えてはくれなかった。
それでも、その静けさの中に、
いつかは訪れるであろう試練の予感が、
確かに滲んでいるように、
アンタレスには感じられた。
それでも今は、
その予感を胸に秘めたまま、
静かに時を待つほかなかっ
明朝 7:30 に投稿します。




