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2部 第2話【 忍耐強い皇帝 】(下)

戦闘停止の命令が下されると、

レオンハルトの艦隊は、

渋々ながらも矛を収めた。


「せっかくの好機だったのに」


不満げに漏らす部下に、レオンハルトは、

意外にも静かな声で答えた。


「陛下の判断だ。従うまでよ。

……それに、あの子供の声を聞いて、

心が動かなかった奴は、いないだろう」


その後、アンタレス自らが、

鉄血同盟との直接対話に臨むこととなった。


武力による征服ではなく、

彼らの積年の恐怖に

寄り添う道を選んだこの決断は、

後に「西方の和解」として、

第八帝国の歴史に、静かに、

しかし確かに刻まれることになる。


数日後、アンタレスは、

護衛を最小限に留めた小艦で、

鉄血同盟の中枢星系へと降り立った。


「陛下、

丸腰も同然の状態で赴かれるのは、

あまりに危険です」


ルシアンが、最後まで反対した。


「危険は承知の上だ。

だが、武装した艦隊を背負ったままでは、

あの者たちの心には、決して届かない」


出迎えたのは、

片腕を失った、老いた指揮官だった。


「よくぞ、一人で来たものだ。

皇帝陛下ともあろう御方が」


「一人ではない。

だが、信頼を示すためには、

必要なことだった」


アンタレスは、静かに続けた。


「先の戦闘で、

多くを失わせてしまったこと、詫びる。

だが、これ以上、

そなたたちから何も奪うつもりはない」


老指揮官は、

しばらくアンタレスを睨みつけていたが、

やがて、深く息を吐いた。


「……我らは、何度も、

外の者に裏切られてきた。

友好を装って近づき、

隙を見て奪う者たちに」


「その痛みは、

想像することしかできない。

だが、我らは、

そなたたちを裏切らぬと、誓う」


「誓いなど、言葉に過ぎぬ」


「ならば、行動で示そう。

俺が、この星系に留まる」


その言葉に、老指揮官は、

驚いたように目を見開いた。


「陛下自らが、か」


「そうだ。

しばらくの間、この地に留まり、

そなたたちと共に過ごす。

それで、信頼するに足るかどうか、

判断してくれればいい」


こうして、アンタレスは、異例の滞在を、

鉄血同盟の星系で始めることとなった。


日々、住民たちと直接言葉を交わし、

彼らの過去の苦しみに、

じっと耳を傾け続けた。


「陛下、本当に、

こんな地味な日々でよろしいのですか」


同行したセレスの問いに、

アンタレスは、静かに笑った。


「地味な日々こそが、

本当の信頼を築くのだと、俺は思う」


数ヶ月の滞在を経て、鉄血同盟は、

ついに第八帝国との同盟に応じた。


だがそれは、征服による従属ではなく、

対等な盟約としてであった。


「我らは、これより、第八帝国と共に歩む」


老指揮官の宣言に、集った民衆から、

静かな拍手が沸き起こった。


「陛下の忍耐強さに、感服いたしました」


ルシアンの言葉に、アンタレスは、

少し照れくさそうに笑った。


「忍耐というより……あの子供の声が、

俺の心を、動かしただけだ」


この「西方の和解」は、

瞬く間に第八帝国全土に伝わり、

皇帝アンタレスの名は、

単なる拡張の野心家としてではなく、

寛容な統治者としても、

広く知られるようになっていった。


だがその評判の陰で、

拡張のみを是とする

一部の強硬派たちの間には、

静かな不満の火種が、

燻(くすぶ)り始めていたのである。

明朝 7:30 に投稿します。

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