2部 第2話【 忍耐強い皇帝 】(上)
星団ヴェスタとの同盟成立から数ヶ月、
第八帝国の艦隊は、
次なる標的——西方の辺境に割拠する、
武闘派の星系連合「鉄血同盟」へと
矛先を向けていた。
「此度の相手は、
これまでとは毛色が違います」
セレスが、
静沈とした声で戦況を報告する。
「鉄血同盟は、外交による解決を、
一切拒む姿勢を貫いております。
過去に接触した交易船も、
悉く撃退されているとの記録が」
「ならば、話は早い」
ヴァルデマール・フォン・
エーデルシュタインが、
真紅のマントを翻しながら、
不敵に笑った。
「今度こそ、我が艦隊の本領を、
存分に発揮させていただこう」
謁見の間で、
この報告を受けたアンタレスは、
しばらく沈黙していた。
「陛下、鉄血同盟への遠征、
許可をいただけますか」
ヴァルデマールの問いに、
アンタレスは、静かに目を伏せた。
「……先の星団のように、
話し合いの余地は、本当にないのか」
「これまでの記録が、
それを物語っております。
奴らは、力にしか屈しません」
「そうか」
アンタレスは、深く息を吐いた。
「ならば、やむを得まい。
だが、無用な殺戮は許さぬ。
降伏する者には、寛大な措置を」
「御意」
大艦隊が、
鉄血同盟の中枢星系へと進軍を開始した。
先陣を切るのは、
超無敵指揮要塞艦
アストライア・ヴェーダ。
その量子計算機は、
敵の艦隊配置を瞬時に解析し、
最適な攻略手順を弾き出していく。
「敵艦隊、総数およそ三千。
対する我が方は、
その十分の一にも満たぬ、と」
オーギュスト・ド・グラモンが、
冷静に戦況を読み上げた。
「数の差など、関係あるまい」
レオンハルト・クラウザーが、
獰猛な笑みを浮かべながら、
機甲戦艦群への出撃命令を発した。
「我らの装甲と火力の前には、
烏合の衆など、ものの数ではない」
戦闘は、苛烈を極めた。
「前方、敵艦隊の突撃陣形、確認!
数に任せた、力押しの戦法です!」
「ならば、真正面から迎え撃つまでよ!」
レオンハルトの機甲戦艦群が、
敵陣の中央へと切り込んでいく。
数で劣りながらも、その圧倒的な装甲と、
精密な連携によって、
敵艦隊は次々と撃破されていった。
「見事なものだ……」
アストライア・ヴェーダの艦橋で、
オーギュストが感嘆の声を漏らす。
「これが、第八帝国の武力か」
だが、
戦いの最中、思わぬ事態が起こった。
「敵旗艦より、通信が入っています!
……子供の声です」
副官の報告に、
艦橋が、一瞬静まり返った。
「繋げ」
オーギュストの指示で
開かれた通信に映し出されたのは、
幼い少女の姿だった。
「お願いです
……戦うのを、やめてください。
父も、兄も、皆、
艦に乗って、もう戻ってきません」
その声に、
艦橋の誰もが、しばし言葉を失った。
「……この星系の、詳しい情報を」
オーギュストが、静かに問うた。
「鉄血同盟は、元々、
外部からの侵略に苦しめられてきた
星系連合です。
何度も略奪を受けた過去から、
あらゆる交渉を拒む、
頑なな姿勢を貫くようになったと
記録にあります」
「つまり、奴らの敵意は、
根拠のないものではない、ということか」
オーギュストは、しばらく黙考した後、
アンタレスへと直接、
緊急の通信を送った。
「陛下、戦況をお伝えいたします。
鉄血同盟の頑なさには、
深い理由があるようです」
報告を受けたアンタレスは、
即座に決断を下した。
「戦闘を、直ちに中止せよ。
これ以上の戦闘行為は、俺が許さぬ」
「陛下、しかし、既に戦端は……」
「構わぬ。奴らが、外部からの
侵略に苦しんできたというのなら、
我らが同じ轍を踏むわけにはいかぬ」
本日 18:30 に投稿します。




