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2部 第1話【 対等な盟友として 】(上)

シリウスを皇帝に戴く

大サザンクロス星導国。


大サザンクロス星導国の本拠を

天の川銀河に定め、さらに7つの帝国を

創出した。


シリウスの子・アンタレスには

第八帝国の創出と統治が任された。


北方辺境、未だ主なき五つの星団——

星図の上でそう記されたその領域へ、

第八帝国の大艦隊は、静かに、

しかし圧倒的な威容をもって

進軍を開始していた。


先頭を征くは、

絶対神威級超弩級戦艦

グラン・クレアリス。


全長数十キロに及ぶその艦体は、

黄金と純白の意匠に彩られ、

暗黒の虚空にあってなお、

まるで一つの

小さな太陽のように輝いていた。


「総司令官、目標宙域まで、

あと三刻にございます」


副官の報告に、

ヴァルデマール・フォン・エーデルシュタインは、

真紅のマントを翻しながら、不敵に笑った。


「よかろう。

抵抗があれば、粉砕するのみ。

だが、できるならば——」


「できるならば?」


「無用な血は、

流させぬに越したことはない。

陛下の御心を、忘れるな」


艦橋の奥、

量子計算機の海に囲まれた指揮席に座る

ルシアン・ヴァルハイトは、

冷艶な瞳で、

次々と展開される戦況図を見つめていた。


「セレス、五つの星団の統治体制は」


「いずれも、小規模な星系連合が、

緩やかに纏(まと)まっている程度です。


中央集権的な軍事力は、

確認されておりません」


「では、抵抗は限定的、と」


「はい。ただし——」


セレスは、静かに続けた。


「一つの星団にのみ、

独自の防衛結界を張る、

謎の技術が確認されております」


「面白い」


ルシアンは、口元に微かな笑みを浮かべた。


「その星団から、優先的に攻略しよう。

未知の技術は、力ずくで奪うより、

まず、その正体を見極めるべきだ」


進軍から数刻後、

艦隊は目標の星団へと到達した。


噂に聞いた防衛結界は、

確かに存在していた。


淡い光の膜が、

星団全体を包み込むように広がっている。


「あれが、噂の結界か」


レオンハルト・クラウザーが、

艦橋の窓越しにそれを睨みつけた。


「陛下より、

まずは交渉を試みよとの仰せです」


「交渉、ね。

俺の柄じゃないが……仕方あるまい」


通信が開かれると、応答してきたのは、

若い女性の声だった。


「そちらは、何者ですか。

この星団に、何用でしょう」


「我らは、第八帝国。この宙域を、

我が帝国の版図に加えるべく参った」


ヴァルデマールの声に、通信の向こうで、

微かな緊張が走るのが伝わってきた。


「……版図に加える、とは、

支配するという意味ですか」


「その通りだ。抵抗するならば、

相応の代償を払ってもらうことになるが」


しばしの沈黙の後、応答があった。


「私たちは、争いを望みません。

ですが、この結界は、私たちの祖先が、

外敵から身を守るために築いたもの。


おいそれとは、解けません」


「ならば、力ずくで——」


「待て」


ヴァルデマールの言葉を、

静かに遮(せぎ)ったのは、

いつの間にか通信に加わっていた

アンタレス自身だった。


「陛下!」


「聞かせてくれ。

その結界を築いた、祖先とは、

どのような者たちだったのか」


通信の向こうの女性は、

少し驚いたような沈黙の後、

ゆっくりと語り始めた。


「遥か昔、私たちの祖先は、

外部から幾度も

襲撃を受けた小さな民でした。


ある時、旅の賢者が現れ、

恒星の力を借りて、

この結界の技術を授けてくれたのです。


それ以来、私たちは、

この結界に守られながら、

平和に暮らしてきました」


「旅の賢者、か」


アンタレスは、静かに呟いた。


「その賢者の名は、伝わっているか」


「……アンタレス、と」


艦橋に、静かな衝撃が走った。


ルシアンとヴァルデマールが、

思わず顔を見合わせる。


「まさか……」


アンタレスは、

しばらく言葉を失っていた。


それは、彼の高祖父——

マフェイ1銀河へ最初に辿(たど)り着いた、

あの始祖の名であった。


「陛下、いかがなさいますか」

ルシアンの問いに、アンタレスは、

静かに、しかし確かな声で答えた。


「攻略を、中止する。

あの星団は、我らの祖先が、

かつて守った民の末裔だ」


「よろしいのですか、版図の拡張は……」


「代わりに、同盟を持ちかけよう。

我らの血が、かつてあの地を守ったのだ。


ならば今度は、

対等な盟友として、共に歩むべきだ」


その決定に、艦橋の誰もが、

しばし言葉を失った。


だが、やがてルシアンが、静かに頷いた。


「……承知いたしました。

陛下らしい、ご判断です」


「らしい、とは?」


「拡張のみに囚われぬ、ということです。


始祖の理想も、まだ、

陛下の中に息づいているのでしょう」


その言葉に、アンタレスは、

少し複雑な表情を浮かべた。


飽くなき拡張を掲げながらも、

心のどこかで、

始祖アンタレスが遺した

「情による統治」への憧憬を、

拭い去れずにいる自分を、彼自身、

よく分かっていたのだった。


艦隊は、静かに進路を変え、

次なる標的へと向かっていった。


だがこの日の出来事は、

皇帝アンタレスの胸に、

小さな、しかし確かな棘として、

長く残り続けることになる。

本日 18:30 に投稿します。

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