第1部(2) 第10話【 蒼天(そうてん)に咲くサザンクロス 】
「全艦隊、主砲エネルギーを完全鎮圧。
これより
『大サザンクロス星導国』直轄領としての
管理フェーズへ移行する」
全宇宙を震撼させた
「オリジン星群侵攻作戦」の
終結を告げるアナウンスが、
旗艦『アストライア』の
重厚なブリッジに響き渡った。
宇宙を覆い尽くしていた
絶対不透過の結界【全階層次元遮断】が
静かに霧散し、
漆黒の宇宙空間に再び
無数の星々の輝きが戻ってくる。
しかし、そこに広がる景色は、
かつてのそれとは一変していた。
「オリジン」という国家は、
全宇宙の歴史から完全に抹消された。
かつて
豪華絢爛な高層ビル群が立ち並んでいた
首都星の地表は、
すべて精霊術によって更地となっていた。
最新鋭のテクノロジーも、
贅沢を極めた都市インフラも、
すべて分子レベルで解体され、
残されたのは
見渡す限りの赤土と原始の荒野のみ。
そこに立つのは、
かつて英雄の犠牲の上に胡座をかき、
贅沢と惰眠を貪っていた
数十億の旧市民たちだ。
彼らの身に纏う豪華な服は奪われ、
与えられたのは泥にまみれた作業着と、
一耕の鍬のみ。
彼らはもはや
「オリジン星群の市民」ではない。
大サザンクロス星導国の最下層として、
荒れ果てた土地を開墾し、
生涯をかけて
英雄ジャスティス・オリジンへの贖罪と
奉仕を捧げる
「開拓奴隷」へと落とされたのだ。
「はぁ……はぁ……つらい……苦しい……」
「どうして……
どうして俺たちがこんな目に……」
汗と泥に塗れ、
土を掘り返しながら、人々は涙を流す。
だが、どれほど苦しくとも、
死ぬことすら許されない。
彼らの首元に刻まれた12星座の刻印が、
己の犯した「裏切りと傲慢」の記憶を
絶えず思い出させ、
怠惰や自死の念を拒絶するからだ。
「かつてジャスティス様は、お一人で
この星群のために血を流されていたんだ……。
それに比べれば、この苦しみなど……」
誰からともなく漏れたその言葉に、
地表の誰もが声を詰まらせ、
ただ黙々と土を耕し続けた。
英雄を裏切り、その死をあざ笑った代償。
それは一瞬の死という救いではなく、
己の犯した罪の重さを噛み締めながら
泥を啜る、
終わりのない永劫の後悔であった。
──宙の彼方、旗艦の玉座にて。
皇帝シリウスは、眼下に広がる
開墾の光景を静かに見下ろしていた。
その瞳には、かつて彼を苛んでいた
禍々(まがまが)しい復讐の炎はもはや存在しない。
青く澄み渡る蒼天の如き光が、
その瞳の奥で力強く揺らめいていた。
《……満足か、ジャスティス》
深層心理から、
重厚な声が語りかけてくる。
しかし、その声は
以前のような怨念の残滓ではない。
全宇宙の安寧を心から願う、
誇り高き英雄ジャスティス・オリジンの
穏やかな精神そのものであった。
「ああ。祖父オリオンが築き、
父ケフェウスが繋ぎ、
そしてあなたが
命を賭して護ろうとした『理』は、
今ここに完全な形で結実した」
シリウスは胸に手を当て、
己の中に息づく英雄の魂へと語りかける。
「あなたの無念は晴らされた。
もう、この宇宙に
あなたを裏切る者はいない。……
安らかに眠るがいい、ジャスティス」
《……ありがとう、我が誇り高き孫よ。
これからの全宇宙を……頼んだぞ》
温かな光とともに、
ジャスティスの残留思念が
シリウスの精神からゆっくりと解かれ、
美しく輝く12の星座の光へと
溶け込んでいく。
英雄の魂はついに真の成仏を果たし、
シリウスという
新たなる覇王の「血肉」として、
永遠の力となったのだ。
「皇帝陛下、
大宇宙全域の主要星系より打電。
すべての銀河国家が、
我が『大サザンクロス星導国』への
完全服従を誓約いたしました」
親衛隊長が
深々と頭を下げ、朗報を伝える。
シリウスは
ゆっくりと玉座から立ち上がり、
眼前に広がる
とてつもなく壮大な大宇宙を見つめた。
12星座の加護。
千年の龍脈。そして、英雄の意思。
すべてを継承し、神を超越した
真の覇王となったシリウスの手には、
もはや何者も脅かすことのできない
絶対的な正義と力量が握られている。
「全艦隊、全宙域へ向けて発進せよ」
シリウスの威厳に満ちた声が、
銀河の果てまで響き渡る。
「裏切りと絶望の時代は終わった。
これより、
我らが『大サザンクロス星導国』による、
永劫なる光輝の絶対秩序を始める!」
遥かなる宙を埋め尽くす風と龍の艦隊が、
一斉に超光速跳躍を開始する。
その光の軌跡は、
暗黒の宇宙空間に
眩いまでの「南十字星」の紋章を描き出し、
新たなる伝説の幕開けを告げるのであった。
よもや、自分のことが、
そんな伝説になっていることなど、
知る由もないシリウスであった。
読んでくださりました方々に篤くお礼申し上げます。
ありがとうございました。
9/11(金)7:30 に、
第2部、第1話(上)を投稿します。




