第1部(2) 第8話【 絶望の包囲網 】
「あ……あああ……助けてくれ
……俺たちが間違っていた……!」
「お願いだ、皇帝シリウス様!
命だけは……命だけは助けてくれぇぇッ!」
地表は、自らの内に秘めていた
醜悪な罪悪感と猛毒のような後悔に苛まれ、
這い回る数億の民衆の悲鳴で満ちていた。
『因果の天秤』がもたらした
精神の激痛は、
かつて英雄ジャスティス・オリジンへ
投げつけた悪意そのもの。
己が犯した無慈悲な罪の重さに耐えかね、
人々は地面に額を何度も叩きつけ、
血を流しながら許しを乞うていた。
しかし、空に鎮座する
大サザンクロス星導国の艦隊は、微動だにしない。
それどころか、
旗艦『アストライア』を中心とした
数十万隻の超大型艦が、
首都星を取り囲むように規則正しく円陣を組み、
天を覆い尽くすほどの
超巨大な空間陣形を完成させていた。
「艦隊、最終展開完了。……
『星系封鎖陣』、正常に機能しております」
ブリッジに響く親衛隊長の報告。
玉座に腰かける皇帝シリウスは、
組み重ねた脚の上に肘をつき、
冷徹な瞳で眼下の地獄絵図を見下ろしていた。
「シリウス様……残存する周辺の植民星系や、
他国の商船から救難信号
および仲裁の打電が入っております。
『我が国は
オリジン星群の罪とは無関係である。
市民の虐殺を中止し、
人道的な対話に応じられたい』と」
「人道、か」
シリウスの口元から、
吐き捨てるような嗤いが漏れた。
「ジャスティスが虚偽の罪で暗殺された時、
その『人道』とやらはどこに存在していた?
隣国が
裏切りと殺戮によって栄華を極めていた時、
何食わぬ顔で貿易を行い、
共に甘い汁を吸っていたのはどこの誰だ?
今さら善人面をして
首を突っ込んでくるなど、笑止千万」
シリウスが静かに立ち上がり、
右腕を斜め前へと差し出す。
その手指から放たれたのは、
12星座の「水瓶座・ウラノス」が持つ
空間歪曲の神威と、
「魚座・ポセイドン」の
無限の包容力を模した漆黒の精霊光であった。
『12星座がひとつ、
水瓶座ウラノスと魚座ポセイドンが理──
【全階層次元遮断】』
ズズズズズズズズ…………ッ!!
宇宙空間が、文字通り「ひび割れた」。
首都星およびオリジン星群が属する
星系全体の外周に、
青黒い境界線が急速に形成されていく。
それは、あらゆる物質、電波、光、
空間跳躍すらも一切遮断する
絶対不透過の結界。
外部からの救助も、内部からの脱出も、
100%不可能にする宇宙の「隔離壁」であった。
「な……なんだあれは!?
宇宙が……空が黒く塗りつぶされていく!?」
「宇宙船が出発できない!
空間跳躍装置が
……次元ごと凍りついている!!」
地表の脱出ポートで、
我先にと小型船に乗り込もうとしていた
富裕層や逃亡将兵たちが、次々と絶叫を上げた。
外宙へ逃げ出そうとした船は、
境界線に触れた瞬間、
空間の歪みに巻き込まれて
ぺしゃんこに押し潰され、
火の玉となって宇宙の塵へと変わっていく。
通信端末を開いても、
返ってくるのは不気味な砂嵐の音のみ。
他星系との連絡は完全に途絶し、
オリジン星群はこの広い大宇宙の中で、
完璧に「孤立した箱庭」へと変貌したのだ。
『恐怖するか、愚民ども』
星系の全空に、
再びシリウスの冷酷な声が響き渡る。
『外部からの救援は二度と来ない。
この星系から逃げ出す術も、
もはや存在しない。
貴様らが閉じ込められたのは、
ただの宙域ではない。……
英雄ジャスティス・オリジンが味わった、
あの冷たく暗い「死の恐怖」そのものの内部だ』
「ひ……ひぃぃぃっ!
閉じ込められた! 俺たちは殺されるんだ!」
「嫌だ! 死にたくない!
誰か助けてくれぇぇぇっ!」
完全なる狂乱。
もはや法も、政府も、
警察すら存在しない密室と化した星で、
人々はただ頭上の絶対者が見下ろす前で、
恐怖に震え上がることしかできない。
だが、シリウスの目的は、この星を単に
爆破して終わらせることではなかった。
『勘違いするな。
一瞬で吹き飛ばすような慈悲は与えん。
過ちを侵した国家が、
誇りを失い、秩序を失い、
自らの罪の重さによって
内側から崩壊していく様を……
私はじっくりと観賞させてもらう』
シリウスの瞳の中で、
祖父オリオンの覇気、
父ケフェウスの威厳、そして
英雄ジャスティスの執念が
黄金の炎となって燃え上がる。
『さあ、絶望の宴の最終幕だ。
……生き残るために、
互いの肉を食む準備はできたか?』
自らが蒔いた種によって、自らを滅ぼす時間。
完結に向けた
最悪で最高の「ザマァ」の舞台整った。
オリジン星群の真の終焉が幕を開けるのだった。
明朝、7:30 に、投稿します。




