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第1部(2) 第7話【 愚民への宣告 】

「う、嘘だろ……

政府も、軍も、一瞬で消えちまった……」


「俺たちはどうなるんだ!?

降伏も聞き入れてもらえないなんて、

そんなのあんまりだ!」


崩落した高層ビルの影で、

首都星の住民たちは身を寄せ合い、

ガタガタと震えていた。


軍事基地や政治の中心地だけが

影も形もなく蒸発し、

自分たちの頭上にポッカリと開いた空。


そこに鎮座するのは、空を埋め尽くす

大サザンクロス星導国の超巨大艦隊だ。


政治家も、軍隊も、

自分たちを護るものは何一つ存在しない。


手元の通信端末を開けば、かつて

自分たちが「頼れる指導者」と崇めていた

ヴァルガス議長や軍幹部たちが、

英雄ジャスティス・オリジンを背後から刺し、

その功績を売収して

私腹を肥やしていた汚い証拠が、

嫌というほど流れ続けている。


「知らなかったんだ……

俺たちは何も知らなかったんだよ!」


「そうだ! 悪いのは上層部だ!

俺たち市民は被害者だ!」


誰からともなく上がり始めた声。


責任転嫁と自己正当化。


自分たちは

騙されていた被害者なのだから

許されるはずだ──

そんな浅はかな淡い期待が、

群衆の間に波紋のように広がりかけた、

その時だった。


空が、黄金と漆黒の光に染まった。


『──どこまでも醜悪だな、

オリジン星群の愚民ども』


星全土の空に、皇帝シリウスの巨像が投映される。


その威圧的な神威の前に、

街中で騒いでいた数十億の民衆が

一瞬で静まり返り、息を呑んだ。


シリウスの冷徹な眼光が、

まるで一人ひとりの内面を見透かすように

地上へと注がれる。


その背後には、かつて彼らが

「裏切り者の売国奴」とさげすみ、

石を投げつけた

英雄ジャスティス・オリジンの幻影が

静かにたたずんでいた。


『「知らなかった」で

済ませるつもりか? 愚か者ども』


シリウスの声が、

直接全住民の脳内にズシリと重く響き渡る。


『記憶を巻き戻してみるがいい。

かつてジャスティス・オリジンが

濡れ衣を着せられ、

処刑広場へとかれていったあの日

……貴様らは何をした?

真実を確かめようともせず、

上層部の流した言論に躍らされ、

英雄に向かって唾を吐き、

罵詈雑言を浴びせかけたのは誰だ?』


「っ……!? あ、それは……」


『ジャスティスが命を懸けて

勝ち取った平和と富をむさぼりながら、

彼が抹殺されたニュースを見て

「これで安心だ」と嘲笑あざわらい、

肉をくらい、酒をあおったのは誰だ?

貴様らだ。

事実に目を背け、思考を放棄し、

英雄の犠牲の上に咲いた毒華を

楽しんだのは、他ならぬ貴様ら市民だ!!』


雷鳴のようなシリウスの喝破かっぱに、

民衆は言葉を失い、顔面を蒼白にした。


そう、知らなかったのではない。


「知りたくなかった」のだ。


英雄が犠牲になろうが

自分たちの生活さえ

豊かになればそれでいいと、

思考を停止して悪行に加担していたのは、

自分たち市民自身だった。


『罪なき英雄の血で濡れたパンを喰らい、

肥え太ってきた貴様らに

「無知の無罪」など存在しない。

加害者の側に立ち続けた罪、しかと味わうがいい』


シリウスが静かに右手を掲げる。


『12星座がひとつ、

天秤てんびん座アストレアのことわり──【因果の天秤】』


刹那せつな、空から降り注いだのは

攻撃の光ではなかった。


それは、

かつて民衆がジャスティスへ向けた

「悪意」「嘲笑」「無関心」という名の

精神的因果。


シリウスの神威によって増幅された

それらの感情が、

天秤の理によって

一卵性双生児のようにそのまま

民衆自身の精神へとフィードバックされたのだ。


「あ……あぁぁぁぁぁぁッ!?」


「頭が……頭が割れるように痛い!

なんだこの申し訳なさは……!

なんなんだこの絶望感はぁぁっ!」


街のあちこちで、

人々が頭を抱えて地表に倒れ伏した。


自分がかつて英雄に向けた冷酷な視線、

投げつけた暴言、

犠牲を無視した身勝手さ──

それらが何千倍もの重圧となって

自らの心臓を締め付け、

絶絶たる罪悪感となって襲いかかってくる。


血を流す傷ではない。


己の心が犯した罪によって、

心が内部から引き裂かれる激痛。


「許してくれ……!

申し訳なかった、ジャスティス様……!

俺たちが悪かったぁぁっ!」


「ごめんなさい! ごめんなさいいぃぃっ!」


涙と鼻汁を垂らし、

地面に額を擦り付けて慟哭どうこくする数億の民衆。


だが、その謝罪を聞いても、

シリウスの瞳に宿る黄金の光は

1ミリも揺らぐことはなかった。


『泣いて許されるなら、

暗黒の宇宙に捨てられた

ジャスティスの涙はどこへ行く?

絶望に濡れた彼の無念は誰がぬぐう?』


シリウスは氷のように冷たい眼差しで、

地表で這いつくばる愚民どもを見下ろす。


『謝罪など求めん。改心など期待せん。

ただおのれおかした罪の重さにつぶされ、

死ぬより辛い後悔を抱えて生き続けるがいい。

……これより、最終通告を行う』


大サザンクロス星導国の艦隊が、

ゆっくりと本星を囲むように最終陣形を展開し始める。


完結へと向かう絶望のカウントダウンが、

静かにきざまれようとしていた。

本日、18:30 に、第8話を投稿します。

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