プロローグ【 赤く輝く星屑(ほしくず)の欠片(かけら)】
「見せよ、その手を」
老巫女は震える声でそう言うと、
産まれたばかりの赤子の小さな拳を、
恐る恐る開かせた。
中から現れたのは、
凝血のごとく赤く輝く星屑の欠片だった。
「これは……」
居合わせた者たちがどよめく。
老巫女は天を仰ぎ、声を絞り出した。
「十二星座を司る神バースの加護だ。
この子は、
選ばれし者として生まれ落ちた」
母は赤子を抱きしめ、その名を呼んだ。
「オリオン。お前の名は、オリオン」
だが祝福は、長くは続かなかった。
「族長が、毒杯を……!」
数年後、
宴の場から駆け戻ってきた従者の悲鳴が、
天幕の中に響き渡った。
父の死を知らされたオリオンは、
まだ言葉の意味さえ分からぬ幼さだった。
「母上、父上は……」
「もう、いない。
これからは、私たちだけで生きていくのよ」
母の声は静かで、
けれど確かな覚悟を帯びていた。
見限られた母子を、荒野が待ち受けていた。
「行け。お前たちにここの居場所はない」
かつて父に従っていた男の一人が、
そう吐き捨てる。
凍てついた大地に
放り出された二人の前には、艦もなく、
糧もなかった。
あるのは、オリオンの拳に握られた、
あの星屑の欠片だけだった。
ある冬、飢えたオリオンの前に、
父を裏切った一族の斥候が立ち塞がった。
「小僧、大人しく捕まれば命だけは助けてやる」
男が剣を抜いた、その瞬間だった。
オリオンの拳の欠片が眩く光り、
冷たい風が渦を巻いて吹き荒れる。
「な……ぐわああっ!」
斥候は為す術もなく吹き飛ばされ、
絶命した。
噂は瞬く間に荒野を駆け巡った。
「オリオンの拳には、神の風が宿るらしい」
「まさか、あの赤子が……」
風は、まだ何者でもなかった少年の中に、
既に牙を研ぎ始めていた。
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本日、12:40 に、第1話を投稿します。




