第1部(2)第5話【 神威の継承 】
「全軍……降伏だ……!
勝ち目など、どこにもない……!」
軍部の象徴であり、
最終兵器『特異点砲』を擁していた
超大型機動要塞アレスの消滅。
そのあまりにも
一方的かつ絶対的な破壊の光景は、
オリジン星群に残されていた
最後の抗戦の意志を、影も形もなく打ち砕いた。
オリジン星群の本星を取り囲むのは、
宇宙の地平を埋め尽くす
「大サザンクロス星導国」の超光速艦隊。
その旗艦『アストライア』の重厚なブリッジにて、
漆黒の軍服を纏う若き覇王は、
静かに己の手のひらを見つめていた。
「我が名はシリウス。天の頂で最も眩く輝き、
暗黒の宇宙を統べる一番星の名……」
かつてジャスティスと名乗っていた男の瞳には、
いまや絶大な神威が宿っていた。
祖父オリオンから受け継いだ12星座の加護。
父ケフェウスが託した
「大アンドロメダ龍華星界」の猛々しき龍脈。
そして──
かつてこの星群に全てを捧げながらも、
卑劣な濡れ衣を着せられて殺された英雄、
ジャスティス・オリジンの灼熱たる復讐の魂。
それら全ての要素が、
いまや「シリウス」という
絶対的な存在の中でひとつに融合し、
神の如き威光を放っていたのだ。
「……シリウス様」
親衛隊長が深々と膝をつき、
震える声で報告を口にする。
「オリジン星群全域、
ならびに残存するすべての行政区より、
全面降伏の打電が届いております。
『いかなる条件でも受諾するゆえ、
何卒これ以上の攻撃を中止されたい』と……。
もはや、我らに牙をむく者は
この星系に一機たりとも存在しません」
「全面降伏、か」
シリウスは薄い唇を歪め、嘲笑を漏らした。
「己の立場が危うくなれば、
即座に誇りを捨てて命を拾おうとする。
……どこまでも浅はかで、身勝手な豚どもだ」
シリウスは玉座からゆっくりと立ち上がると、
全宙域・全惑星へ繋がる超空間通信回線を
自らの神威で強引に起動させた。
星群の全市民、敗残兵、逃げ惑う官僚たちの端末に、
いまや「シリウス」となった男の姿が映し出される。
その背後には、
かつて彼らが惨殺した
英雄ジャスティスの巨大な幻影が重なっていた。
『聞こえるか、オリジン星群の愚者ども。
我が名はシリウス。
全銀河を統べる大サザンクロス星導国の皇帝であり──
貴様らが踏みにじり、
歴史から消し去った英雄の魂を宿す者だ』
通信の向こう側で、
数億の市民たちが息を呑み、恐怖に歯を鳴らす。
『貴様らは「降伏」という言葉で、
これまでの罪をうやむやにし、
命だけは助かろうと考えたのだろう。
……だが、思い上がるな。
我が狙いは、
単なる領土の占領や降伏勧告などではない』
シリウスが右手をかざすと、
宇宙空間を埋め尽くす風と龍の艦隊が
一斉に主砲の光を漲らせ始めた。
『英雄の威光を恐れて背後から刺し、
その功績を貪って築き上げた偽りの平和……。
私はその「国家の歴史」そのものを、
根底から踏みつぶしに来たのだ』
「ひっ……ひいいいっ! 助けてくれ!
降伏したんだぞ!?」
「言っていることが無茶苦茶だ! 悪魔め!」
各所で巻き起こる悲鳴と絶叫。
しかし、シリウスの眼光が揺らぐことはない。
『許しは乞うな。
絶望に震えながら見届けるがいい。
貴様らが誇り、すがりついてきた
「オリジン」という醜悪な名が、
今日この瞬間をもって
全宇宙の地図から永遠に抹消される様を──』
降伏すら拒絶する絶対の牙。
英雄を裏切った過去から目を背けてきた
オリジン星群の住民たちは、
いまや完全に退路を断たれ、
遅すぎた後悔と真の絶望の淵へと
叩き落とされたのだった。
本日、18:30 に、投稿します。




