第1部(2) 第1話【 宙を埋め尽くす風と龍 】
「征服できなかった土地があったからこそ、
彼は残されたものを、
より深く治めることを学んだのだ」
——そう語られる日が来るとは、
この時のシリウスには、
まだ知る由もなかった。
一方、東瀛側の史実では、
全く異なる様相の物語が伝えられている。
それは、シリウスの中に眠る
ジャスティス・オリジンが、彼の
魂を借りて行う復讐劇であった。
――――
「繰り返す!
所属不明の超巨大艦隊が、我がオリジン星群の領空圏に突如出現!
航路の応答、一切なし!」
オリジン星群の中央防衛司令部。
警報音が鳴り響くオペレーションルームで、
通信士たちの絶叫が交錯していた。
メインモニターに映し出されたのは、
宇宙の暗闇を完璧に埋め尽くす光の群れ──いや、艦隊だ。
その数、およそ数十万。
一隻一隻が、オリジン星群の保有する最新鋭主力戦艦の数倍のサイズを誇り、
船体には青き「風」の神威と、
黄金に輝く「龍」の精霊術がオーラとなって巡っている。
「バカな……空間跳躍の予兆すら無かったぞ!?
どこから現れたんだ!」
「最高評議会へ連絡を!
いや、国家緊急事態宣言を即座に──」
司令官が青ざめた顔で指示を飛ばそうとしたその瞬間、
全モニターの映像が強制的に切り替わった。
ノイズの向こうから現れたのは、
絢爛豪華な玉座に深く腰掛ける一人の青年。
漆黒の軍服に身を包み、
眩いばかりの黄金の髪をなびかせたその男──
「大サザンクロス星導国」の覇王シリウスである。
『……聞こえるか、オリジン星群の豚ども』
低く、しかし星系全体を揺るがすような神威を帯びた声が、
通信回線を伝ってすべての防衛拠点、
さらには街頭のスクリーンや一般市民の端末にまで強制割り込みで響き渡る。
『私は大サザンクロス星導国皇帝、
シリウス。
そして──かつて貴様らが冤罪を擦り付け、
背後から無惨に謀殺した英雄「ジャスティス・オリジン」の孫であり、
その魂を継ぐ者だ』
「な……ジャスティス・オリジンだと……!?」
司令官の頭に、遠い昔の記録が雷のように奔った。
かつてこの星群を滅亡の危機から救いながらも、
その圧倒的な強さを恐れた上層部によって濡れ衣を着せられ、
闇に葬られた伝説の英雄。
その名は、歴史の暗部に封印されていたはずだった。
『我が祖父は、
12星座の加護を得て大宇宙を統括する蒼天銀河帝国を築いた。
そして父の意志と「大サザンクロス龍華星界」の龍脈を得た私は、
全銀河の覇者となった』
シリウスの瞳が、冷徹な光を放つ。
その背後に、
かつて英雄と呼ばれた男の幻影が重なって見えたのは、
司令官の気のせいではなかった。
『栄華に酔い痴れ、過去の罪を忘れた愚者どもよ。
貴様らが貪ってきた平和は、
英雄の血の上に成り立った借り物の時間だ。……
本日この時をもって、返還してもらう』
「ふ、ふざけるな! 昔の亡霊が何をいまさら!」
司令官は血走りながらマイクを掴み叫んだ。
「我がオリジン星群の防衛システム『絶対の盾』を舐めるな!
全要塞砲、迎撃用意! 敵艦隊を撃ち落と──」
『放て』
シリウスが淡々と指を一本、振り下ろす。
直後。
大サザンクロス星導国の艦隊から解き放たれたのは、
ビームでも実体弾でもなかった。
龍の咆哮を伴った「光の嵐」である。
ドオオオオオオオン……!!
音の存在しない宇宙空間で、
衝撃波の概念そのものがオリジン星群の第一防衛線を飲み込んだ。
かつてどんな巨艦の艦砲射撃も防ぐと誇られたバリアは、
まるでガラス細工のように一瞬で粉砕され、
星群を囲む要塞群は光のチリとなって消滅した。
わずか数秒。
オリジン星群が数百年かけて築き上げた自慢の防衛網は、
跡形もなく消え去ったのだ。
「あ……あ……」
オペレーションルームの天井が崩落し、
警報すら途絶えた静寂の中で、
司令官は膝から崩れ落ちた。
画面の向こうのシリウスは、
ゴミ屑でも見るような冷ややかな目でこちらを見下ろしている。
『絶望するにはまだ早いぞ。
これは挨拶代わりに、門を壊したに過ぎない』
光の艦隊が、いよいよ防空圏を突き破り、
オリジン星群の本星へと降下を始める。
『さあ、見せてみろ。
英雄を裏切って手に入れた貴様らの真価を』
絶叫と悲鳴が星全体を包み込む中、
遅すぎた復讐の幕が静かに切って落とされた。
「ありえん! ありえんぞ!
たった一撃で
第一防衛要塞群が全滅だと!?」
オリジン星群の心臓部、
首都惑星の深層に位置する地下シェルター。
巨大な円卓を囲む最高評議会の
老政客たちは、
あまりの現実離れした惨状に、
泡を吹かんばかりに狼狽していた。
本日、18:30 に、第1部(2)第2話を投稿します。




