第1部(1) 第10話【 風は世界を穿うがち、龍は万物を統すべる 】
「征服する者ではなく、
継ぐ者として、私はここに立つ」
その言葉を聞いた将兵たちは、
誰も声を発しなかった。
かくして南方は、完全に
大サザンクロス星導国の版図に
組み込まれたのだった。
「東瀛からの返答は?」
玉座に座るシリウスが問うと、
使者はうなだれたまま答えた。
「拒絶にございます。彼の地は
独自の地脈信仰と太陽神を奉じ、
いかなる臣従の使者も受け入れぬと」
「もう十度目だな、これで」
シリウスは静かに拳を握った。
星屑の欠片が、微かに熱を帯びる。
「風は世界を穿ち、龍は万物を統べる。
この二つを併せ持つ我らに、
屈せぬ者などあろうはずがない」
「艦隊を編成せよと?」
「超光速艦隊だ。風と龍、
双方の力を纏う艦を造れ。
数万の将兵を集めよ」
玉座の間に集った将たちからは、
異論の声はほとんど上がらなかった。
すでに南方をも呑み込んだこの帝国にとって、
抗い得る敵はもはや、
彼の地しか残されていなかったのだ。
一年足らずで、
艦隊は東瀛遠征に耐えうる規模へと膨れ上がった。
造船場では、風の職人と龍脈の技師が肩を並べて働いていた。
「風の帆と、龍の水脈機関を、同じ艦体に収めるとはな」
「殿下のご命令ですから。やるしかありません」
かつては相容れなかった二つの技術が、
この艦隊で初めて一つに結ばれていった。
出撃の朝、
アルゴの息子で今は将となった男が、
シリウスの傍らに立つ。
「殿下、東の空を、随分と長く見ておいでですが」
「祖父が荒野を、父が理想を、兄が版図を、
それぞれ遺してくれた。
この一戦で、すべてを完成させる」
そう言うシリウスの声には、確信があった。
「殿下ならば、必ずや」
将が頭を垂れる中、
汽笛にも似た出航の音が、
無数の艦から鳴り響いた。
第一次遠征は、当初こそ圧勝だった。
「防衛拠点、また一つ陥落!」
「東瀛軍、後退中!」
戦況を告げる声は、
日を追うごとに勢いを増していった。
だが上陸した将兵からの報告は、
次第に様相を変えていく。
「敵影が見えません。地中に潜っているようです」
「なんだと……?」
地脈と一体化した東瀛の戦士たちは、
艦を捨て、大地に潜み、
神出鬼没の奇襲を繰り返した。
夜襲、伏兵、罠——見慣れぬ戦法に、
遠征軍は次第に消耗していく。
「隊長、被害が拡大しています。このままでは……」
「……退くぞ。慣れぬ戦場で、無理に押す理由はない」
決定打を欠いたまま、
遠征軍は撤退を余儀なくされた。
本国に戻ったシリウスの前で、
将の一人が拳を握りしめる。
「殿下、申し訳ございません。我らの力不足です」
「いや。敵の戦い方を知らなかった、
それだけのことだ。次は、知った上で挑む」
「今度こそ、彼の地を風と龍の下に置く」
雪辱に燃えるシリウスは、翌々年、
前回の数倍にあたる大艦隊を編成した。
「殿下、これほどの規模は、前代未聞です」
「それだけの覚悟がいる、ということだ」
東瀛近海に展開した艦隊の威容は、
まさに星を覆い尽くすかのようだった。
造船場に響いていた槌の音は絶えることなく、
龍脈勢力から接収した資材が、
次々と艦の骨格へと姿を変えていった。
一方、東瀛の島々では。
「巫女様、艦隊が接近しております」
「……祈るしかありません。太陽神よ、
どうかこの地をお守りください」
巫女たちは幾昼夜にもわたり、
祈りを捧げ続けていた。
「本当に、祈りで艦隊を止められるのですか」
若い巫女の問いに、
老いた巫女は答えなかった。
ただ静かに、空を見上げるだけだった。
「私たちにできることは、これしかありません。
信じて、祈り続けるのです」
その声には、恐れよりも、
静かな覚悟が滲んでいた。
海辺の民は家財をまとめ、
山間の集落へと避難を始めていた。
誰もが、迫り来る艦隊の威容を、
遠くの空に見上げていた。
「殿下、艦隊の展開が完了しました。
上陸は明朝の予定です」
副官の報告に、シリウスは頷いた。
「ようやくか。長い道のりだった」
「これで、祖父君の悲願が果たされますね」
「ああ。あとは、明日を待つだけだ」
だが彼の視線の先、東の空の色が、
いつもと違うことに、この時はまだ、
誰も気づいていなかった。
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上陸を目前に控えたその夜、
艦橋の空気は静かな高揚に満ちていた。
「殿下、明朝の上陸部隊、配置完了いたしました」
「よし。予定通りに進めよう」
シリウスがそう答えた、その時だった。
「殿下……
本日、18:30 に、第11話を投稿します。




