最後の昼餐
時は等しく流れ続ける。
戦いの中でも。
戦いの末、死につつある中でも。
そして、平和な日々の中でも。
誰にとっても等しく、そして粛々と流れていく。
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「あれ、閉まってる?」
右手首に包帯を巻いたミシュレが、紹介所の前で足を止めて呟く。
確かに目の前の扉は固く閉ざされ、臨時休業の札が掛けられていた。
「せっかく前倒しで終わらせたのになあ…何でしょうね?」
「あいつの事だ。多分、王女メリゼ絡みの用事か何かだろうよ。」
「え?でも結婚式って、確か十日後だったと思うんですけど。」
「その前に色々あるのよ、多分。」
なおも同行のウナクスに疑問を投げかけるミシュレに対し、ソロンソが
肩をすくめて答えた。
「そういう人たちだからさ。」
「だな。…また明日出直そうぜ。」
「え?…あ、ちょっとウナクスさんってば。待って!」
踵を返して歩き出したウナクスを、ミシュレとソロンソが慌てて追う。
「ここまで出てきたついでだ。何か食べて帰るか。」
「いいですね。」
「ウナクスさん!…そろそろあたしの手首、治してもらえません!?」
「ダメだっつってんだろ。」
ゴン!
「あいた。」
「言うこと聞かずに負った傷くらい我慢しろ。」
「ええ―…」
「ええーじゃねえよ。そんなんじゃまたトッピナーさんに怒られる。
今後はもう少し厳しく行くからな。覚悟しとけよお前ら。」
「ええー!」
「あたしもですかー!?」
ああだこうだ言い合いつつ、3人はそのまま去っていった。
閉ざされた紹介所の扉の向こうで、何が行われているかを知らぬまま。
よく晴れた日の、昼近い頃だった。
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「お待たせしましたー。」
元気な声と共に、素朴でありながら豪勢な料理が次々に並ぶ。
今日ばかりはトッピナーではなく、アルメダが腕を振るった。
「最後くらいは、あたしにやらせてもらいます!」
決然としたその気迫に、トッピナーも黙って頷くしかなかった。
いよいよ明日、アルメダはメグランの王都ロヒリアに戻る。結婚式まで
まだ十日あるものの、事前準備などやる事は多い。何より今、王都には
アルメダの母のロネスがいる。
母娘の時間を過ごして欲しいというメリゼの願いは、アルメダにとって
大いなる贈り物だった。
今日が最後。
だからこそ、アルメダは心を込めて料理の腕を存分に振るった。
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要領が悪いと言われながら、メリゼ様の侍女を務めていた。
母の紹介である以上、恐らく失態は直ちに母に影響してしまうだろう。
気持ちを引き締めて臨んだ。得意の料理を活かせる機会がない事など、
さほど残念とも思わなかった。
しかしあのウォレミスの戦いの日を境に、何もかもが変わっていった。
その他大勢の侍女の一人でしかないはずの自分は、メリゼ様にとって
唯一の従者になってしまった。その後の旅は、まさに過酷を極めた。
素性すらもよく分からない、怪しい人たちと共にモーグ王国を目指す。
しかもその中の一人は、己の祖父母を殺した魔王ガンダルクだった。
ほとんどの人が頼りにならない状況では、自分が料理をするしかない。
しかも自分を含め、全部で12人の大所帯である。飲み食いするのは
11人。そんな人数分の料理を作るのは、とにかく大変だった。もう、
メリゼ様を特別扱いする余裕など、あるはずもなかった。
とてつもなく大変で。
底抜けに楽しい日々だった。
日に焼けた顔をほころばせながら、自分の作った料理を残さず平らげる
メグランの王女。そんな異様な状況に慣れてしまっている自分が、何か
とっても頼もしくて面白かった。
次から次へと刺客が襲ってくる日々を乗り越え、難敵を倒した。
自分に戦う力があるという現実に、今までにないほどの昂りを覚えた。
騒動が収まった後、あたしはメリゼ様の許を離れる決意をした。
もっと広い世界と、自分の可能性を見てみたい。そんな思いに駆られ、
ルクトさんたちと共に歩いていく道を選んだ。
だけど、今なら分かる。
きっとあの時のあたしには、もっとお料理をしたいって思いがあった。
はっきり言ってかなりいい加減な、この人たちのために。
そういう形で支え合える。あたしはその思いに衝き動かされたんだ。
自分の居場所は、自分で見つける。
たとえ、それが厳しい選択だったとしても。
悔いる暇があれば前に進め。
そうやって、あたしはずっと仲間と共に戦ってきた。
自分にできる事、そして自分にしかできない事を、精一杯やってきた。
その道の先で、祖父母と戦った。
2人に止めを刺した。
悔いはない、などと言い切るつもりは微塵もない。
だけど、それが間違いだったという思いも持ってはいない。
命を無意味にするな
今もその言葉は、この胸の内に深く刻み込まれている。
そしてあたしは、明日ここを去る。
メリゼ様と共に、新しい明日を築くために新しい道に挑む。
だから
今日、あたしはこう言うんだ。
「どんどん召し上がって下さい!」
「応よ!」
「んじゃ遠慮なく。それと酒!」
「豪勢ですね。しかも懐かしい!」
『いいですねえ、こういうの。』
「いただきます!」
ルクトさん。
トッピナーさん。
ラジュールさん。
アミリアスさん。
レムリちゃん。
お世話になりました。
これがあたしの精一杯です。
さあ。
あたしも食べようっと!!




