表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
最終章 魔王のいない世界で
597/703

アルメダの言葉

キンカジの街のほぼ中央には、南北を貫くように運河が流れている。

ルクトたちの紹介所があるのは運河の東側であり、少し歩けばすぐに

大きく水上に張り出す公園に出る。


基本的に、対岸の建物の方が夜遅くまで明かりが灯っている事が多い。

分かりやすく言うなら、対岸にあるのはおそらく大半が「夜の店」だ。

これほどの規模の街であれば、特に珍しくもない話だろう。

細かい現実はさておき、アルメダはこの水上公園から見る対岸の夜景が

好きだった。遅い夕食の後、ここで過ごす時間も好きだった。


「いい風ですね。」

「涼しいな。」


言葉を交わし、ルクトとアルメダは長いベンチに並んで腰を下ろした。

対岸の明かりを逆さに映し出す水面を、一艘の船がゆっくりと横切る。



昼間の喧騒が嘘のような、静かな夜のひと時だった。


================================


しばらくの間、何も言わなかった。

2人とも黙って運河を見ていた。


そして。


「…そう言えば今日、レムリと一緒に買い物に行ったんだったよな。」

「ええ。あと少しだけ足りない物があったんで。」

「無事に揃ったのか?」

「はい。」

「そうか…」


大きく息をついたルクトは、ぐっと体を反らして空を仰いだ。


「あと10日を切ったんだな。まだ先だと思ってたけど。」

「…そうですね。」

「何だ?元気ないな。」


上体を起こしたルクトがアルメダに向き直る。


「もしかして不安か?」

「いえ全然。」


食い気味に否定するアルメダの言葉に、迷いの響きは一切なかった。


「自分でも呆れるほど、何の不安も緊張もありませんね。」

「…まあ、相手が女王シャンテムとリスベルさんじゃあな。」

「ですよねえ。」


そう言い合い、2人は苦笑する。

確かに、緊張しろという方が無理な話だろう。

そう、これまでの事を思えば。


モーグの副王リスベルと結婚するにあたって、王女メリゼはアルメダを

再び侍女として連れていきたい…と願い出た。そう、今度こそ堂々と。

もちろん、断る理由などなかった。


アルメダとしても、メリゼの願いは不思議でも何でもなかった。

何しろ彼女にとっては、シャンテムもリスベルも既に古馴染みである。

身分だ何だ余計な話はすっ飛ばし、ただひたすら共に戦ってきた。

不遜と言われようが、もはや2人を相手に緊張などするはずもない。

嫁ぐメリゼにとっても、アルメダはこの上なく心強い存在だ。


全て分かっている上で、アルメダは自分の意志ではっきりと決めた。

ルクトもトッピナーもアミリアスも他の皆も、その意思を尊重した。



アルメダはもうすぐ、このキンカジの街を去る。


================================


会話は、長くは続かなかった。

ルクトもアルメダも、正面に視線を向けたままじっと座っている。

まるで、お互いの言葉を待っているかのように。


メリゼの許に戻る事を、アルメダが決めた日から今日に至るまで。

2人は毎晩のようにここに座って、様々な事を語り合ってきた。


出会いの事を。

旅の事を。

戦いの事を。

そしてガンダルクの事を。

思い出は限りなかった。

そして今。

全てを語り尽くしたのか、アルメダはじっと黙っていた。


どのくらいそうしていただろう。


「アルメダ。」


口を開いたのはルクトだった。


「俺に何か言いたい事があるんじゃないのか?」

「……………………」

「言っといた方がいいぞ。」


ひたすら黙りこくっているアルメダに、ルクトが笑みを向けて言う。


「もうこれからは、こういう時間はあんまり取れないからな。」

「……………そうですよね。」

「何でも聞くぜ。言ってみな?」

「はい。」


頷いたアルメダは、それでもじっと正面を見据えていた。


意固地になっているわけではない。

ただ、口にする勇気を出そうとしているだけだ。それが分かるからこそ

ルクトも黙って彼女を待った。


そして。


「…怒らないで下さいね。」

「ああ。」

「馬鹿な事を言ってると思ったら、笑い飛ばして下さいね。」

「分かった。」


そこでアルメダは、初めてルクトに向き直った。


「ルクトさん。」


ゆっくりと名を呼び、一瞬だけ唇を固く噛みしめる。

そこに、アルメダの覚悟があった。



「あたしがいなくなっても、大丈夫ですか?」


================================


……………………

……………………………………


ほんの数秒の、永い沈黙ののち。


「…どうだろうな。」


アルメダの視線をまっすぐ見返し、ルクトはポツリとそう答える。

こちらを見つめるアルメダの顔は、真っ赤になっていた。


「大丈夫だと口で言うのは簡単だ。だけど正直、即答はできない。」

「……ルクトさん」

「君がいなくなった後の自分を想像できるほど、俺は万能じゃない。

大丈夫だと言い切れるほど、強くもないんだよな。」

「……………………」

「ありがとな、アルメダ。」


ぽろぽろと涙をこぼすアルメダの頭を抱き寄せ、ルクトは嬉しそうに

彼女に告げた。


「俺の事を心配してくれて、本当にありがとう。」

「ルクトさぁん…」


礼を述べるルクトも泣いていた。


アルメダが絞り出した言葉。

それは何の飾りもない、ルクトへの心配の言葉だった。


自分がいなくても大丈夫か。


ルクトにそんな事を問うまでには、最大の勇気と葛藤が必要だったに

違いない。己の分をわきまえているアルメダにとって、それは限りなく

言い難い事だっただろう。


それでもアルメダは、自らその言葉を口に出してくれた。

自分という存在を過小評価せずに、ひとりのルクトの仲間として。

今日に至るまで、共に死線を越えてきた仲間として。


そこには、他の誰の言葉よりも重い意味がある。

通り一遍な気遣いと根本的に違う、本当の意味での心配がある。


ガンダルクさんがいなくなって

自分までもが去ってしまって

あなたは本当に大丈夫ですか?


それは、何よりも尊い質問だ。


だからこそ、ルクトは正直に答える事を迷わなかった。

恥とも思わなかった。


「…きっと、しばらくの間は寂しいだろうと思う。不安にもなるよ。」

「……………………はい。」

「でも心配ない。時間をかけても、俺はきっとまた元気になる。」

「…本当に?」

「当たり前だろ。俺はガンダルクの相棒なんだぞ。」


「あああああああああッ!!」


そこがアルメダの限界だった。

幼子のように声を張り上げ、ルクトの胸に顔をうずめて泣きじゃくる。

そんなアルメダの頭を、ルクトの手が優しく撫でていた。

出会った日の衝突と、仲直りの後のガンダルクのように。


アルメダが泣いているのは、悲しいからじゃない。

必要な事だからだ。


自分がいなくても大丈夫か


ようやくアルメダは、そんな言葉をルクトに言えるようになった。

ルクトを仲間と、そして自分自身をルクトの仲間だと本当に認めた。

今日ここに至り、彼女は自分の言葉を以てメリフィスたちを超えた。

剣士ルクト・ゼリアスと並び立つ、アルメダ・ギルツになれた。


ああ。


寂しいに決まってるさ。

だけど、それが何だってんだ。


こんなに嬉しいんだから。

少しの寂しさくらい、きっとすぐに乗り越える。できないはずがない。


この子は俺のために泣いてくれた。

俺のために勇気を出してくれた。

こんな俺の仲間になってくれた。


寂しさは、幸せの裏返しだ。

だから俺は、笑って送り出せる。


アルメダを、メリゼ王女の許に。


なあ。

そうだろ?


ガンダルク。



仰ぐ空の星に、ルクトはガンダルクの面影を探していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ