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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
最終章 魔王のいない世界で
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それは時間のかかる事

トッピナーは、豪快で大らかな性格の持ち主である。


出自や種族、身分といった要素には一切こだわらず、誰を相手にしても

至って普通に付き合う事ができる。そんな豪放磊落な性分だからこそ、

誰よりもガンダルクと気が合った。たとえ現役の魔王だったとしても、

やはり彼女はガンダルクとは親友になれていただろう。


だが、かと言って性格がいい加減で大雑把というわけでは断じてない。

そもそもそんな雑な性格では、他人の命さえも左右する冒険者ギルトの

受付など絶対に務まらない。性格と能力は別である。

要するに、彼女は割と細かい事でも難なくこなし、根気のいる作業でも

飽きたり投げ出したりしない。また万事において吞み込みも速い。


そしてそれは、料理であっても例外とはならない。これまでにまったく

炊事を担当しなかったのは、単純に料理を知らなかったからである。

ラジュールとの結婚を機に、彼女は今までずっと手付かずだった料理を

アルメダから習い始めた。もちろんそれこそ女性の仕事だという話では

なく、出来るようになりたいというきっかけを得たからである。


その結果、トッピナーはあっという間にアルメダの料理レパートリーを

ほぼ習得した。憶えただけではなく見事に再現し、アレンジする事さえ

可能になっていた。習得の速さに、アルメダ本人もかなり感服した。


現在、紹介所における食事の担当はほぼ全てトッピナーになっている。

最初こそ半信半疑だったルクトたちも、今では全幅の信頼を寄せる。

新婚のラジュールも、トッピナーのその意気に大いに感謝している。

不満点など、ひとつしかなかった。

たったひとつしか。


そう。


今のトッピナーは、とにかく料理の完成までに時間がかかる。

どうやって熱々に仕上げているか、本気で想像できないほどに。


================================


夕食が終わる頃には、すっかり夜になってしまっていた。

もう、今から何かする…という時間ではなくなっている。必然的に、

これでお開きとなるのが定番だ。


「それじゃあ、あたしたちはお先に失礼します。」


そう言いながら立ち上がったのは、レムリだった。


「ああ。」

「気をつけてね。」

「はい。」


ルクトとトッピナーに答え、彼女はナイフ大の二番刀を手に取った。

皆に頭を下げ、そのまま踵を返して入口から出て行く。その背中は、

やはりガンダルクとは別人だった。


「片付けるか。」

「いや、俺たちでやるよ。」

「いいんですかいつも?」

「もちろん。って言うか…」


ルクトにそう答えたトッピナーが、ニッと意味ありげに笑う。


「気を利かすならさっさと帰って。ね?」

「了解。」

「うっ」


小さく苦笑するルクトと、己の鼻を押さえるアルメダ。

これもまた、お開きの定番と化していた。


「じゃあ、また明日。」

「ええ。それとアルメダ。」

「はい?」

「早く寝なさいよ。今になって体調崩したなんて言ったら、怒られるの

あたしたちなんだから。」

「了解です!」


元気な言葉を返し、アルメダもまたニッと笑った。


================================


「星がきれいですね。」

「そうだな。」


人通りもまばらになった夜の目抜き通りを、ルクトとアルメダの2人が

肩を並べてゆっくりと歩いていた。ちなみに住まいとは逆方向である。

きわめて近い所にあるために、歩きながら話せる時間がほとんどない。

ここしばらくは、わざわざ遠回りをして帰るようになっていた。

もちろん、食べてすぐ帰って寝るというのはキツイという事情もある。

腹ごなしのためだと言えば、もはや身も蓋もないだろう。


そして、それ以上に。

今のルクトとアルメダには、こんな時間が必要でもあった。


================================


「…アミリアスさんとレムリちゃんも、こんな風に一緒に星を見たり

するんでしょうかね。」

「意外とあれこれ語らってるのかも知れないな。古馴染み同士で。」


呟きながら、ルクトは流れ星を目で追っていた。


紹介所二階は居住スペースであり、トッピナーとラジュールが暮らす。

他の者は、紹介所の近くにそれぞれ家を買ってそこに住んでいた。

ルクトとアルメダは独りで、そしてレムリはアミリアスと一緒に。

それは誰の目にも、この上なく納得できる選択だった。


レムリとアミリアス。

百年前のガンダルクと、揺るぎない絆を培っていた者同士。

あまりにも長い時を経て、どんな事を語り合っているのだろうか。

2人が語るガンダルクは、自分たちの知るガンダルクとどう違うのか。


興味は尽きない。

しかし、気安く踏み込むような気分には到底なれない。自分たちはまだ

そこまで振っ切れていはいない。


ようやく、スカートを履いている姿に慣れてきた身でしかない。

まだもう少し、時間がかかる。

焦る必要はない。

むしろ今この瞬間、誰よりも時間を必要としているのはレムリである。


彼女は、ガンダルクから聞いていた通りの強い子だった。

知る者さえ絶えた遠い未来の世界に目覚め、それでも前を向いている。

怯えたり卑屈になる事もなく、今の時代に自分の存在意義を見出そうと

既に歩み始めている。

ガンダルクが妹と呼んでいたのが、今さらながら理解できた気がする。


それでも、彼女の道は険しい。


百年の時を隔てた世界で生きていく道は、誰にも想像できない。

今の彼女を本当の意味で支えられる存在は、親代わりと言ってもいい

アミリアスだけだろう。


焦ってもいい結果には繋がらない。ルクトたちがレムリに成すべきは、

庇護ではない。共に生きる道を彼女と共に探す事、ただそれのみだ。


自分たちに必要なのは、時間だ。



星を数えながら、2人はゆっくりと夜の通りを共に歩いていた。

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