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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
最終章 魔王のいない世界で
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彼らの望む在り方

「ただいまー。」


そろそろ日が傾くという頃、ルクトたちは紹介所に戻った。

さすがにもう、ウナクスたち3人の姿もない。基本的に人が来るのは

日が高い内なので、来客が途絶えた頃を見計らっての帰宅だった。


「おかえり。」

「おかえりなさい。」


カウンターの向こうに立っていた、トッピナーとレムリが出迎える。

入口からかすかに吹き込んだ風が、レムリのスカートの裾を揺らした。


ガンダルクなら決して履かなかったであろうスカートである。

しかしルクトはもう、そういった事に対しての反応は示さなかった。


「ウナクスたちが来たよ。」

「またかよ。」

「どうなったんです?」

「根負けした。」

『たくましいですねえ、ミシュレもソロンソも。』


益体のない会話を交わすルクトたちの姿を、レムリが笑みを浮かべつつ

静かに見守っている。


それまでと同じ顔ぶれの。

それまでとは違う、穏やかな時間。



ここにいる皆、この街での暮らしにようやく慣れて来た頃だった。


================================


「はぁいお待たせ―。」

「ああ、うん。」

「待ってました。」


テンション高めに料理を運んできたトッピナーに対し、席に着いていた

ラジュールとルクトがちょっと複雑な表情を浮かべて姿勢を正す。

対面に並んで座るアルメダとレムリも、力なく突っ伏していた。


お待たせもお待たせである。外は、既にとっぷりと日が暮れている。

一日外で働いてきたルクトたちは、もはや空腹の限界だった。


「じゃ、召し上がれ!」

「はあい。」



相変わらず、遅い夕食だった。


================================


魔人国アステアから帰還したルクトたちは、そこであった事を伝えた。

魔人化術の魔法陣が残らす消滅した事も確認され、世界中が安堵した。


アステアの内情が明かされると同時に、世界規模の変革が始まった。

今度ばかりは、正真正銘の世界規模である。これまでずっとメグランに

反目していたジリヌス王センドレンも、もはやメリフィスたちには頭が

上がらなくなっていた。


もちろん、それでメリフィスたちが過分な権力を求める事もなかった。

むしろメリフィスには、どこか清々したような雰囲気すらあった。


「これで良かったんだよ、多分。」


別れ際、ソーピオラがルクトに対しそう言った。


「もしも本当に魔王がみんなザンツみたいな奴だったら、倒した時点で

メリフィスは目的を失ってた。」

「…かもな。」

「グレインとガンダルクが、あいつの魔王像を色んな意味で崩した。

そしてあんたが、あいつのこの先の道を示してくれたんだと思う。」

「……………………。」

「ありがとね、ルクト。」


その感謝の言葉に、嘘はなかった。


「あたしたちはあたしたちの道を、これからも進んでいく。」

「ああ。」

「だからあんたも、いつかちゃんと元気になってね。」

「頑張るよ。」



それがルクトが口にできる、精一杯の前向きな言葉だった。


================================


英雄扱いなど、断じて求めない。

むしろこっちから願い下げである。

ルクトたちもメリフィスたちも皆、その点に関しては一致していた。


気取っているわけではない。純粋に嫌なだけである。

グレインたちの二の舞だけは、何があろうと絶対に願い下げだった。


「そりゃそうだよね。」


それまでのいつより深い納得の表情を浮かべ、シャンテムが頷いた。


「百年前と同じ愚を犯す事だけは、絶対にあってはならない。つまり、

そういう事だよね。」

「ええ。」

「そう願います。」


グレインたちが、どのような戦いの末にガンダルクを倒したのか。

もはや知る術はない。知りたいとも思わない。しかし少なくともそれは

世界から隔絶した戦いだった。

今回はそうではなかった。

ザンツもグレインも、ルクトたちの力だけでは決して倒せなかった。

多くの者たちとの繋がりを得たからこそ、その結果を手に出来たのだ。


言うまでもなく、それを成したのはガンダルクである。


ルクトとアミリアスと共に、遠大な目標を掲げて突き進んだ彼女こそ。

世界を変え、世界をひとつに繋ぎ、そして世界を破滅から救った。

己の非力さなど全く意にも介さず、いかなる局面でも諦めを知らずに。

世界は、彼女と共に突っ走った。

そんな彼女を、誰よりも知る仲間として。



ルクトたちは、レムリと共に未来を目指す道を選んでいた。


================================


英雄になんかなりたくない。

ただ目指していた自分になりたい。


というわけで、トッピナーは即行でラジュールと結婚した。

最後まで気を揉んでいた彼女の両親との顔合わせも、思っていた以上に

ラジュールが平然と臨んだ。やはり先にビザレと知り合えていたのが、

何より幸運だったと言えるだろう。

そしてこのキンカジの街に、紹介所を開く事を皆で相談して決めた。


「そろそろ、落ち着いて欲しいですからね。」

「はい…。」


あまりに実感のこもったラジュールの言葉に、さすがのトッピナーも

頷くしかなかった。ルクトたちも、彼の言葉の重さに黙り込んでいた。

トッピナーとガンダルクの意思を、ラジュールは何よりも尊重した。

そして今日に至るまで、ひたすらに待っていたのである。


ただ待つのとはわけが違う。

トッピナーの行く先には、それこそ災厄そのものと言えそうな強敵が

次から次へと現れた。ルクトたちはひたすら、世界規模の凄絶な戦いの

最前線に立ち続けていたのである。

決して諦めず心折れず待ち続けた、ラジュールの言葉は限りなく重い。


「こんなあたしですけど、よろしくお願いします。」

「こちらこそ、どうぞよろしく。」


ぽろぽろと涙を流すトッピナーからの言葉に、ラジュールはいつも通り

礼儀正しく答えた。


「実に、らしいな。」

「ええ。」

「そうですね。」

「やっとですか。」

「何か嬉しいなあ。」


2人を見守るプローノ、シャリア、イバンサ、ルブホ、アルフの顔に、

我が事の如き喜びの笑みが浮かぶ。


ガルデン大要塞を襲った殺戮から、たったひとり生還し。

明日をも知れぬ国に見切りをつけ、自分たちと共に新たな世界を求めて

旅立った。それは本当に、何ひとつ当てのない亡命でしかなかった。


それでもラジュールは、自分なりの幸せを手にしたのである。

苦楽を共にした5人にとって、その姿は希望そのものでもあった。


「…だけど、残念ですね。」


アルフが、そう言って涙を拭う。


「ガンダルクさんがいないのが。」

「そうだな。」


皆が頷く。

それは誰もが等しく胸に抱く悲しみだった。

それでも自分たちは前を向く。


「俺たちも幸せにならないとな。」


イバンサが呟いた。

それは彼らだけでなく、彼女を知る全ての者に当てはまる言葉だった。


―にゃはははは。

ゴメンねずっと引っ張り回してて。

幸せになってね。


きっと彼女ならそう言うだろう。

ラジュールに笑顔を向けるだろう。

だから、自分たちも笑う。

彼女と共に切り開いたこの世界を、笑顔で生きていく。



それを選べる世界なのだから。

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