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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
最終章 魔王のいない世界で
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売れ残りのランプ

「はい、では確かに。」


引き渡し書類の最終確認を済ませたパズラン・ネイダが、対面に座る

男性にそう告げて頷く。やがて2人は同時に立ち上がった。


「今回は7人でしたか。さすがに、少し落ち着いてきましたね。」

「話題性が先行してましたからね。でもまあ、そういった点も含めて

まずガルデンに行く…ってシステムですから。」

「確かに。」


そう答え、パズランはフッと控え目に笑った。


「…かく言うこの私も、落ち着いて考える時間が必要だっただけかも

知れません。結局、こんな形ででもガルデンに戻ったんですから。」

「そういうものでしょうね。実際、私も二度と戻らないと思っていた

ガルデンに足を踏み入れましたし。迷うのも決めるのも、その時々で

考えが変わるのは当然ですよ。」

「そう言って頂けると、大いに心が軽くなります。」

「では、しっかり頼みますね。」

「承知!」


そして2人は握手を交わした。


パズラン・ネイダ。

ガルデン戦士団に所属していた際、彼は屍の魔将ゴソンビに操られた。

結果的に救われはしたものの、その事がきっかけで戦士団を抜けた。


そんな彼は今、同じように戦士団を抜けていた3人の仲間たちと共に、

キンカジの街に特務員という役職を得て駐在している。その仕事は主に

移住希望者をガルデンに連れていく事である。


「…やっぱり私もガルデン戦士団の一員です。どうにも消え残った灯が

己の中にあったみたいでして。」

「頑張ってください。」


手を離した相手の男―ラジュールがそう言って笑う。



お互い、共有する記憶がそれなりに多い同士だった。


================================


ガルデンの派出所を出たラジュールの目を、午後の日差しが軽く射た。

紹介所を訪ねて来た魔人を、ここに送り届ける。それも大事な仕事だ。


「…やれやれ。」


伸びをする彼に、建物の外で待っていたらしい青年が歩み寄った。


「お疲れさまです。」

「お待たせしました。」

『今日は確かパズランさんが担当の日でしたよね。』

「ええ。お二人によろしくと。」

「頑張ってるみたいですね。」


呟いた青年―ルクトが、その視線を派出所の向こうの空へと向けた。


「…ここからガルデンまで、転移で直行か。やっぱり信じられない。」

『確かに隔世の感がありますね。』


アミリアスがそう答える。


今のルクトは、長剣を背に帯びてはいない。代わりに元の長さのままの

二番刀を、腰に携えていた。


「さて、じゃあ戻りましょうか。」

「ちょっと買い物したいんですが、構いません?」

「どうぞどうぞ。」

『のんびり行きましょう。』


そう言い交わし、3人はゆっくりとその場を後にする。

午後の日差しが、ひときわ濃い影を地面に描き出していた。


================================


「ん?」


露店の並ぶ市場の中を歩きながら、ラジュールが何かに気付いて呟く。


「…ここは来た事ありませんね。」

「ええ。」

『まったくの初めて、という訳ではないんですけどね。』

「と言うと?」


しばしの沈黙ののち。


「…前に、俺たちとガンダルクとで来た事があるんですよ。知り合って

まだ数日って頃でしたけどね。」

「ああ、なるほど。」


そう答えたラジュールが頷く。


あまり詳しく聞いた事はなかった。

この街に居を構える理由のひとつだとは聞いていたが、やはりあれこれ

突っ込むのは気が引けていた。


泰然としてはいたものの、その頃のルクトはやはり憔悴していた。

ガンダルクがいなくなったという、目の前の現実。それを彼なりの形で

受け入れ、そして立ち直ろうとしている最中だったのである。

当然、ここに住む事に対して異論は皆から出されていた。

トッピナーもアルメダも、ルクトの気持ちを思えばこそ異論を述べた。

それでも結局、ルクトとアミリアスの意向を尊重する形で決着した。


思い出の始まりの地。

それもまた、ルクトたちにとっては尊いものなのかも知れない。

世界が変わりつつある今、どの国のどの街に住んでも意義が見つかる。

探せば、必ず見出す事ができる。



この地で、彼らは生きている。


================================


「ん?」


ブラブラと路地を流していたルクトが、一軒の店の前で足を止めた。


「どうかしましたか。」

「いや、あれって…」


ラジュールには曖昧な言葉を返し、ルクトは店の壁を凝視する。

やがて。


『…もしかして、気になるのはあのランプですか?』

「分かるか?」

『もちろん憶えています。間違いはありませんよ。』

「やっぱりかよ。」


答えるルクトが、どこか嬉しそうな笑みを浮かべた。


「あのランプが何か?」

「俺たちが売り払った、メリフィスたちの私物ですよ。」

「え?それって確か…」


以前のモーグへの旅の途中で、その顛末はラジュールも聞いていた。


「メリフィス殿から掠め取った荷物という事ですか?」

『その通りです。』


代わりにアミリアスが答えた。


『龍の谷で、あたしがメリフィスにちょっとお仕置きをしましてね。』

「ああ、なるほど…」

「てか、まだ売れ残ってたのかよ。見てみろアミリアス。」

『…売値が、あの時の三分の一まで下げられてますね。』

「勇者メリフィスの私物だってのに悲しいなー。」


そう言いつつ、ルクトはあらためて愉快そうに笑う。

かすかに埃を被ったそのランプが、過ぎ去りし日を呼び起こしていた。



―あ、あれ昨日売ったランプだ―


そんな事を言いながら、ガンダルクは笑っていた。


あれは、出会って何日目だったか。

メリフィスたちがアミリアスの洞窟に来た事がきっかけで、彼らの荷を

ライドラグンごとそっくり頂いた。そしてそれらをこの市場で売った。

色々な意味で、今では考えられないような騙し合いをしていた。


あの日から、色々な事があった。


障害と挫折と、それらを乗り越えた先の出会いと達成と。思い返せば

本当にキリがない。そして今、自分たちはこの街に戻って来た。

ルクトは、ここに残る思い出を笑う事ができるようになっていた。


「…残ってるぜ、ガンダルク。」


笑顔で呟くルクトの目に、かすかに涙が滲む。



仰ぐ空は、どこまでも蒼かった。

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