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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
最終章 魔王のいない世界で
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キンカジの街角に

世界の中心はどこか。


政治的な意味を含めると、その問いへの答えは恐ろしく難しくなる。

ならば純粋に、地理的な意味だけで見た「中心」はどこになるだろう。


大陸の中央に位置するのは、魔人国アステアである。

その中ほどに設けられたヘズレ境界以南は、フリーランドと呼ばれる

人間の国に開放された地域になっている。魔王ガンダルクの死を機に、

このフリーランドはアステアでありながらどこの国でもない、独特の

意味を持つエリアとなった。


百年に渡り、ヘズレ境界よりも北の地域のみが「魔人国」と呼ばれた。

あくまでも人間と相容れない魔人が住まう国として、人間の立ち入りは

ほとんど成されなかったのである。

しかし今日、アステアの現状は世界に広く知られる事となった。

現魔王の正体が明らかにされた事も相まって、魔人国アステアの全土が

ようやく「この世界の一部」として認知されたのである。


その事実を踏まえた上で、世界地図にあらためて目を落としてみる。

位置的に見て、世界の中心と呼べる場所はどこになるのだろうか。


それはヘズレ境界の少し南にある、小規模ながら賑やかな交易都市。

名をキンカジと言う。



つい最近、この街に小さな紹介所が開かれていた。


================================


「何でダメなんですかケチー!」

「ケチ呼ばわりするんじゃない!」


のどかな昼下がりには似つかわしくない、不毛な言い争いの声が響く。

カウンターを挟んで一歩も譲らない応酬を続けているのは、冒険者と

思しき少女と受付の女性だった。


「何度も言ってるでしょうが。この手の案件はあんたには早いって!」

「難しいってくらいの仕事を受けるのは、成長への早道でしょ!?」

「誰だ、そんな余計な話をあんたに吹き込んだのは。」

「もちろんウナクスさんですよ。」


「あ、ちょ…」

「ウナクス!!」


窓際の席に座っていた男性が、受付の女性に怒鳴りつけられた。

小さく肩をすくめた男性―ウナクスが、苦笑を浮かべつつ頭を搔く。


「…申し訳ないトッピナーさん。」

「この馬鹿の教育は、あんたの仕事でしょうが!」

「そう言われても…」


向き直ったウナクスは、受付女性―トッピナーと彼女と言い合う少女―

ミシュレの顔を交互に見比べながら述べる。


「最初から分かってた事ですけど、そいつは俺の手には負えません。」

「言い訳してんじゃないわよ。今のあんたは一応パーティーリーダーの

肩書き背負ってんでしょ!」

「一応って何ですか一応って!!」


そこでミシュレが食って掛かった。


「ウナクスさんは間違いなく立派なリーダーですよ。それを…」

「台無しにしてんのはあんたよ。」

「ええー…」

「中途半端に力がついて来た頃が、一番危ないのよ。自分を見誤って

致命的なポカをやる。あんたなんてまさにその見本みたいな子だし。」

「うわぁん言いたい放題だこの人!…訴えますよ!!」

「誰に?」

「ウナクスさんに…」

「いや俺を巻き込むなよ。」

「あはははは!」


ウナクスの対面に座って聞いていたもう一人の少女―ソロンソがそこで

耐えかねたように笑い出した。


「笑ってんじゃねえよ。」

「いや何だか面白くて。…だけど、そろそろ話を決めません?」

「どうしたら許可をくれるんですかトッピナーさん!」

「分かった。」


諦めを知らないミシュレに対して、トッピナーは小さく頷いた。

そしておもむろに顔を寄せ、真面目な口調で告げる。


「じゃ、ちょっと右手を出して。」

「?…ああ、はい。」


怪訝な表情を浮かべつつ、ミシュレは言われた通り右手をカウンターの

上に差し出した。と、その刹那。


ガシッ!!


「!?」


仕掛けの色も見せず、トッピナーの左手がその手首をガッチリ掴んだ。

さすがにミシュレが動揺の素振りを見せるものの、トッピナーは平然と

彼女に告げる。


「自力で振り解いてみな。そしたら許可を出してあげるから。」

「…ぬおぉぉぉぉ!!」


意図を察したミシュレが、気合いと共に腕を引き戻そうとする。しかし

威勢とは裏腹に、彼女の体はその場から一歩たりとも動けなかった。


「うおぉぉぉぉっ!!」

「えーと、明日の予定は…と。」


死に物狂いで手を振り解こうとするミシュレを尻目に、トッピナーは

開いた右手で帳面を確認し始める。余りにシュール過ぎる光景を前に、

ウナクスとソロンソは何とも微妙な表情を浮かべるばかりだった。


「ふぬあぁぁぁぁぁぁ!!」

「あの、もういいんでそろそろ…」


若干居たたまれなくなったウナクスが、トッピナーに声をかけようと

歩み寄った瞬間。


カラン。


小さなベルの音と共に、入口の扉が開いて2人の女性が入って来た。


「ただいま帰りましたー。」

「あっ。」

「うぉぉぉ…おっ!?」

「うおっ!?」


ドタアァァン!!


いきなり手を離されたミシュレが、勢い余って後ろへと吹っ飛んだ。

ちょうど彼女の背後にいたウナクスを巻き込み、2人で盛大に転ぶ。

しかしトッピナーは、それを完全に無視して入口に目を向けて言う。


「おかえりなさい先輩。」

「やめてくださぁぁぁい!!」


先輩と呼ばれた少女―アルメダが、悲鳴のような甲高い声で訴えた。


「あたしは間違っても、トッピナーさんの先輩じゃないですから!!」

「いやあ、お料理を習っている身としましては先輩とお呼びしないと」

「やめてええ!!」


買物袋を両手に持ったまま悶絶するアルメダに、同じく買い物袋を持つ

傍らの少女が小さく笑う。


「いいじゃないですか。呼ばれても不思議じゃないと思いますよ?」

「乗らないでよレムリちゃん!!」

「やった脱出できた!!これで許可もらえますよね!?」

「痛ててて。とりあえずどけよ!」


汚れた顔を輝かせるミシュレ。

尻の下に敷かれているウナクス。

呆れ顔で笑っているソロンソ。

にこやかに話すトッピナー。

半泣きで訴えるアルメダ。


そして、そんな場の皆と共に笑い声を上げるレムリ。



キンカジの紹介所の午後は、いつもどおりの空気に満ちていた。

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