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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
最終章 魔王のいない世界で
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メリゼのわがまま

「じゃあ、俺は外すからな。」


一服を終えたロネスとメリゼにそう言い残し、レスプは部屋を辞した。

いくら兄妹と言っても、試着の場に同席するのは気が引けるのだろう。

ましてやメリゼは、もうすぐ隣国の副王夫人になる身である。

気遣いは過剰でも何でもなかった。


扉が閉められると、メリゼとロネスは2人きりになった。


================================


「それじゃ始めましょうか。」


沈黙を置かず、ロネスが持ってきた荷物を解いてメリゼに告げる。


「本調整ですから、下着以外は全部脱いで下さい。靴もね。」

「はあい。」


普通なら、こういう時は侍女が脱衣の手伝いをするものである。

極端な話、手伝いがないとまともに服の着脱ができない王族もいる。

しかしもちろん、メリゼはそういう箱入りタイプなどではなかった。

手早く服を脱ぎ、試着の準備をしてスッと姿勢を正す。


もちろん、このくらいの事なら自分でできる。

しかし。

今この場に侍女が一人もいない理由は、それではなかった。


================================


「…たくましくなられましたね。」


裾の寸法を確認しながら、ロネスがメリゼにポツリと呟いた。


「初めてお目通りした時は、もっと線の細い印象でしたが。」

「ですよね。あたしもそうだったと憶えています。」


気をつけの姿勢を保ちつつ、メリゼは懐かしそうに答える。


「さすがに服の脱ぎ着はできましたけど、王宮の外の事なんか何ひとつ

知らなかった。深く知ろうという、当たり前の考えさえなかったかも。

それで当然だと思っていました。」

「今は違うと?」

「時間が経ちましたからね。」


そう言ってメリゼが小さく笑う。


「あの時頂いたカーペットも、経年美化がずいぶん進みました。」

「今でもお使いですか。」

「もちろんです!」

「あ、あんまり動かないで。」

「あっと…すみません。」


しばし言葉が途切れ、布の擦れ合う音だけが小さく聞こえる。

やがて。


「…はい、スカートはこれで大丈夫です。ちょっと休みましょうか?」

「いえ、一気にお願いします。」

「はい。」


頷いて袖の調整を始めたロネスを、メリゼはしばし見つめていた。

何を言えばいいか、探しているかのような表情だった。


「はい終わり。じゃあ右を。」

「ロネスさん。」

「はい?」

「やっぱり私は、アルメダと一緒がいいです。」


告げる声に、迷いはなかった。

それを聞いたロネスの顔にも、驚きの表情は浮かばなかった。


================================


あの日。

あの子は…アルメダは、自分で進む道を選びました。

侍女として、メリゼ様にお仕えするという道を。

不器用な子でしたが、それでいいと私も思いました。

それから、本当にお世話になったと感謝しております。


―――――


とんでもない。

助けられていたのは私です。

あの日。

首都への引っ越しを宰相のウルムスから提案されて、私は怖かった。

具体的な事は分からなかったけど、危険だという事は分かってました。

共周りの者を、誰も連れていく事が許されない…わけではなかった。

最低限の世話係の同伴は、ウルムスも認めていたんです。


でも

誰も来てくれなかった。

ウルムスに囲い込まれたのか、ただ単純に怖れをなしただけなのか。

親しかったはずの侍従の者たちは、みんな同行を拒みました。


そう。

アルメダ以外の全員が。


「どこまでもご一緒します」


それだけ言い放ち、アルメダは懐にナイフを忍ばせた。

何のためのナイフかと質問したら、その時にならないと分かりませんと

あたしの目を見て答えました。

その言葉だけで分かりました。


ああ。

この子は、私のために人を殺す覚悟を決めたんだと。

自分も死ぬ覚悟を決めたんだと。

そして。

私が辱められるような事態に陥った時、私を殺す覚悟も決めたんだと。


嬉しかった。

こんな私のために、そこまで覚悟を決めてくれる人がいるという事が。

先の見えない闇の中で、アルメダは私を照らす光でした。

多くの者たちが、凄絶な殺し合いを繰り広げたウォレミスの街で。

プローノ様たちとルクトさんたちに救われ、私は未来を見出しました。


だけど。

その道標となってくれていたのは、いつだってアルメダでした。

どんなにつらい時でも、当然の如くこの私のすぐ傍に踏みとどまって。

震えながら泣きながら、私を生かすために己を奮い立たせていた。


アルメダがいなければ。

私はきっと心折れ、今日に至るまでのどこかで命を落としていました。

一緒にいても離れていても、私にはアルメダの存在が心の支えでした。

アルメダとグルーク様に己を認めてもらう事こそが、目標でした。


アルメダは

私の許を離れ、ガンダルク様たちと共に世界を変えていった。

不屈の魂を燃やして、世の理不尽をねじ伏せていったんだと思います。


感謝じゃない。



私は、アルメダを尊敬しています。


================================


「…ありがとうございます。」


ほんの少し声を震わせるロネスは、涙を流していた。

メリゼもまた、試着のドレスの袖に小さな涙の染みを落とした。


「そこまで言って頂けるあの子は、きっと本当に頑張ったんですね。」

「はい。」


頷くメリゼの目から、あらたな涙が零れて床に落ちる。


「…アステアでの顛末は、同行した皆さんから聞きました。…あまり、

詳しくお話しする事はできません。ですが、アルメダもつらい経験を

乗り越えたのは確かです。」

「…そうなんですね。あの子ったらちっともそんな話をしないから。」

「口にしたくなかったんでしょう。気持ちは痛いほど分かります。」


それは祖父母との決着の事なのか。

それとも、魔王ガンダルクとの別れなのか。

本人以外には絶対に分からない。

無理に聞き出そうとも思わない。


願うのはひとつだけ。


「私は、アルメダををもう一度侍女として伴い、モーグへと嫁ぎたい。

あの日途切れた引っ越しを、彼女と一緒に成し遂げたいんです。」


言い放つ声には、何ものも抗い難い気迫と決意とが込められる。



それがメリゼのわがままだった。


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