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遊女の私に五匹の竜からの溺愛は重すぎますっ!!  作者: 穂村 ミシイ
第二章 

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28 昔の友と今の友

 フランシア……。

 彼女が生きていたならきっと、目の前に立つ絶世の美女だろう。ヘーゼル色の瞳は切れ長の大きな猫目。翡翠の長髪は風に揺蕩うようにしなやかで手入れが行き届いていた。


「シア。セルティアと知り合いなの?」


 隣にいたヒナが不思議そうに私達を交互に見つめた。シアと呼ばれた女性はゆっくりとこちらを見ると少し首を傾げてから大きく横に振った。


「いいえ。初対面にございます。」


 そんなはずない。

 あそこにいるのはフランシアだ。


 私はずっと会いたかったのに。

 マスカレードで唯一の友達と呼べる存在だったし、尊敬もしていた。貴方にとっては忘れたい記憶だった?

 

「そう。じゃあ、僕は用事があるからセルティアのお世話を頼んだよ。」

「かしこまりました。」


 ここには時計も窓もないから時間の感覚が分からない。私はどのぐらいここに居るんだろう。ヒナは「学校が終わったらまた来るね」と告げて部屋から出ていってしまい、残されたのは私とシアと呼ばれる召使いだけ。


「セルティア様、なにかあればお呼び下さい。」


 こちらに一切目を合わせようとせず、仕事と割り切った表情を見せるシアはそれだけ言って立ち去ろうとする。


 そんなの、あんまりじゃない。

 彼女がフランシアかどうか、確かめてやる。


「じゃあ、湯浴みがしたいわ。でも身体がまだ動かないの。手伝ってちょうだい。」

「…………かしこまりました。準備して参ります。」


 マスカレードの見習いだった頃、ヘマをすれば折檻されるのが当たり前だった。ただし、遊女は売り物。傷が残らないように管理はされていたけれど、一度だけフランシアが私を庇って出来た傷があったはず。


「お湯の準備が出来ました。おひとりで歩けますか?」

「無理ね。肩を貸してちょうだい。」

「…………承知致しました。」


 折檻用の木の棒は使い古され、あと数回振えば折れてしまいそうで皆が恐れていた。そんな時、私が高価な壺を割ってしまったんだ。


 震える私にフランシアが「自分が割った」と罪を肩代わりしてくれて。最悪だったのは、運悪く折檻用の木の棒はフランシアの右太腿の裏を叩いた時に折れて傷が残ってしまった事。


「セルティア様、着きました。」

「こんな大きな浴槽なら二人一緒に入れるわ。ほら、貴方も服を脱いで入りましょう。女同士だもの、別にいいわよね?」

「私のような者がお嬢様と一緒に入るだなんて、滅相もありません。」


 フランシアの右太腿の裏には今もあの時の傷があるはず。服を脱がせれば絶対に確かめられる。


「じゃあ、貴方。私が浴槽で溺れてもいいの?」

「…………ですが。」


 どこまでの他人行儀のシア。

 なんだか腹が立つ。

 

「そもそも、弛緩剤と媚薬を飲ませた貴方の主人のせいでこんな事になっているのだけど。」


 実際のところ、自分で歩けるぐらいには薬は私の身体から抜けつつある。イライゼは本当に腕が良いのだろう。


 マスカレードで使っていた媚薬はもっと強力で依存性も高い粗悪品だったから、使用後の姉様方は体内に残り続けて抜くほうが大変といつも言っていた。


「ヒナ様の持つ光の紋様は場所がアレなだけにどうしても際どい素肌を晒す必要があり、いくら女性でも抵抗感を持つ方が多いのです。その為、いざ加護を渡そうとすると泣かれたり暴れる方がいた者で……。」

「それで両人を守るために薬を?」


 だったらやり方を変えれば良いだけでしょうに。それに、私は加護なんて求めてないんですけど。勝手にどこかも分からない場所に連れてこられて変な加護を渡されても困る。

 

「仰る通りです。ヒナ様もあのやり方をどうしても変えようとしなかったので、イライゼ様が張り切って薬を調薬したといった感じです。」


 一度しか会っていないけれど、イライゼがウキウキでハーブティーを調合している姿は目に浮かぶわね。


「ねぇ、この光の加護ってどんな効果があるの? 私、なにも聞かされずにここに連行されて来たのだけど。帰れるのよね?」


 シアはまた私から視線を逸らした。

 なんだかとても嫌な予感がするのだけど……。


「光の加護は怪我や病気からセルティア様を守ってくれると同時に、ヒナ様が悪と定めたものからも守って下さいます。」

「悪ね…………。」

「それからヒナ様からお許しが出れば外出は可能です。セルティア様の場合は竜印が綺麗に消えるまでは無理かと。」


 シアに手首を見るように催促された。


「薄くなってる……。」


 竜印が今朝見た時よりもかなり薄くなっていた。

 ヒナは光の魔法の使い手だ。光神殿にも出入りできる、となれば浄化魔法が使えてもおかしくはない。


 もしかしてと思い足元を確認すると、アンクレットは着いたまま。


「竜印は三日ほどで綺麗に消えると思います。光の加護が馴染むのもそのぐらいでしょう。それまでご辛抱を。」

「どうして私にそこまでするの?」


 実際のところ、ここへ連れてこられた理由も、目的も全然分からない。ヒナは竜が危ないとか言っていたけど、私にしてみれば勝手にこんな所に連れてきて加護まで無理やり渡したヒナの方が信用出来ない。


「それは、ヒナ様にお聞きください。」


 シアはそれ以上はなにも質問に答えようとしなかった。

 

「はぁー、分かったわ。じゃあ、早く一緒に入りましょう。」

「…………なりません。」


 頑なに断るシア。

 それなら私だってやり方を変えてやるわ。

 

「分かったわ。その代わり、私の目を見て?」

「…………なぜです?」

「貴方、私が昔大好きだった人によく似ているの。だから良く顔を見せて。そのぐらいなら、許してくれるでしょ?」


 幸い、シアは私のふらつく身体を支えるために腰を抱いていた。首に手を回すなんて簡単。

 

「そういう事でしたら。」

「フランシア、大きくなったわね。昔は私と同じぐらいの身長で細身だったのに、見上げぐらい大きくなって。」


 でも、腰の細さはそのまま。

 手脚が長くて踊り映えしそう。


「ねぇ、また歌を聞かせてよ。私、貴方の歌が本当に好きだったの。」


 私の事を忘れたなんて言わせない。

 こんな運命的な再会が出来たんだ。

 絶対に思い出させてやる。

 

 ねぇ、思い出してよ……。


「あの、さっきからなんの、話を……、」


 爪先立ちしてグイッと顔を寄せる。息が触れ合う浴室は、熱気で包まれて。薬はもうほとんど抜けているというのに、顔が熱い。心臓もバクバク言ってる。


 これは私の音?

 それともフランシア……?


「フランシア、好きよ。」


 二人の視線が、重なった……。

 シアの瞳の中に映る私の瞳は青く光りを放つ。


「わ、たしも……。」


 ――…………掛かった。


「私も、好きですっ!!」

「キャッ……」


 シアの勢い余って二人して浴槽へ倒れ込んだ。

 身体に巻いていた白い布はお湯を吸い身体に張り付く。シアの身に付けていた服と美しい長髪も濡れ、色気を増した。


「ほら。フランシア、落ち着いて。私の事を思い出して?」

「セル、ティア。」

「そう。マスカレードで一緒に働いていたセルティアよ。貴方に会えて本当に嬉しいわ。」


 抱き合うように腰に手を回し、シアの肩に顔を乗せた。そして、彼女のスカートを捲る。そこに、右太腿の裏に傷がある、はず……。


「………………え、ない?」


 あれ、左太腿の裏だっけ?


 そう思って更にスカートを捲り上げるもあるはずの傷はない。


「…………別、人?」


 こんなに似ているのに!?


「セルティア様。どうしよう、私。胸が苦しいです。触って下さい。」


 簡単に引き剥がされた私が戸惑っていると、シアに右手首を掴まれて胸に手を当てた。


「…………ん?」


 なんだろう。この硬さ。

 それに腕も妙にがっしりしてる。

 さっきまで身体の線を隠すような服装をしていたから分からなかったけど、濡れて張り付いた服の上からなら胸板の大きさがよく分かる。


「あなた、男!?!!!」

「はい。シアは性別的には男にございます。」

「んな!?」


 ヒナ、あんたはなんていう奴に私の世話をさせてるのよ!!


「シア、熱くなって来たわね。浴槽から出ましょうか!」

「嫌です。シアはもっとセルティア様とくっ付いていたいです。」


 ヒョイっとシアは私を自身の脚の上に乗せた。

 腹の少し下、下腹部に当たる違和感。


「ちんっ!?」

「シアもセルティア様が大好きでございますよ。」


 さっきまでの澄ませた顔はなく、シアの頬は赤く色付き、瞳に涙を潤ませて。唇はゆっくりと私に近づく。


 ま、まずいまずい。

 大誤算の大やらかし。


 こうなったら……、最終手段だ。


「シア、ごめんなさいねっ!!」

「んぎゃい……っ!?!」


 私はシアの頭を掴んで思いっきり頭突きをかました。白目を剥くシアはそのまま浴槽の縁に身体を預けて伸びてしまった。


「あ、危なかった…………。」


 シア、私の間違いで本当にごめんなさい。

 だってこんなに似ている別人がいるなんて思わなかったんですもの。


 流石に悪い事をした自覚があるのでなんとか彼を浴槽から引っ張り出して床に寝かせて置いた。


「すっかり薬も抜けたみたいだし、ここから脱出でも試みましょうかね。」


 まずは濡れた身体を拭いて着替えを探したいところ……。


「シア、なんだか凄い音がしたけど大丈夫?」

「………………え。」


 不意に浴室の扉が開き、ひょっこりと顔を出した一人の女性。


「げっ……なんであんたがここにいるのよ。」

「それはこちらのセリフよ…………、ケルロッテ。」

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