27 光の加護
…………なんだか、ふわふわする。
雲の上に寝転んでいるみたいな、柔らかい何かに挟まれているような。それから甘ったる香水か何かの匂いがする。
「やっぱりゅ……、印があり…………ね……」
(私、何をしていたんだっけ。)
「大丈夫。このぐらい…………せるから。」
(聞き覚えのある声がするのに、声の主を思い出せない。きっと思い出さないといけない。今すぐに目を開けないと……)
「セルティア、まだ眠っていて良いよ。」
見知らぬ手が、私の頭をポンっと撫でた。
そう言えばずっと昔、マスカレードに見習いとしていた時期に一度熱に魘されて倒れた事があったな。その時は、一つ上の美しい見習いの子がこうやって頭を撫でながら看病してくれたっけ。
ぼんやりとしか覚えてないけど、その子は本当に綺麗で私の憧れだった。ずっと彼女の真似をして踊り方や作法を覚えていた。
あの頃は苦しかったけど、楽しかったな。
トップ遊女になれば全てが変わると信じていたから。
彼女を二人ならそれが叶うと本気で思っていた、のに……。
その子は遊女になる前にいなくなってしまった。
いつも通りに起きて彼女を迎えに行くと、そこにいるはずの子供はいなかった。店主にどれだけ問いただしても教えてくれず、行方が分からず終い。それから少し経ってから彼女がどこぞの貴族に売られたと知った。
貴族が出征の分からない孤児を引き取るなんて、お世辞でもおめでとうなんて言えない。よくて愛玩用、悪くて奴隷以下。彼女が生きている確率なんて湖に投げた小石を探し出すより低い。
「…………ララ〜。」
誰かが歌っている。
とても懐かしい。
「ふふ〜ふ……、ララ」
私、この歌を知っているわ。
だって、あの子がよく歌っていたもの。
何度も歌って欲しいと強請って覚えてしまうぐらい、好きな歌。でも彼女がいなくなったのが悲しくて、心の奥に封印してしまったんだ。
もし、彼女がマスカレードにいたままだったら、私とトップの座を争うぐらいの遊女になっていただろう。そのぐらい、彼女は素晴らしく綺麗で、歌が上手だった。彼女はどんな容姿をしていたっけ? なんと呼ばれていたっけ?
「…………フラン、シア。」
「残念だけど、僕だよ。セルティア?」
「ッ!?」
微睡みから突如現実へ。
覚醒し目を見開くと、微笑むヒナの顔があった。
「あんたって……、ここどこ? それになにこの服!?」
視界に広がるは緑と白の大理石。
さっきまでのインクの絵の具の匂いが充満する空き教室とは雲泥の差。まるでソルドン王立学院の正門から校舎にかけての道を想起させる豪華な部屋には、室内だと言うのに小川まである。
国王が道楽で作った部屋みたいな空間にポツンと置かれたベッド。その上に居るのは私とヒナのみ。そんな二人の服装が更におかしいのだ。
「可愛いよね。」
「問題はそこじゃない。布が足りな過ぎるわよ!!」
胸と腰に白い布のような物が巻き付けられているだけなのだ。見えている素肌の割合の方が多く、胸元は大きく開いて谷間が露わに。腰回りだってお尻がギリギリ隠れるぐらいでかなり際どい。こんな衣装、遊女でも着ない。
「僕とお揃い。興奮する?」
「しない……。」
グイッと顔を近づけるヒナも私と同様の格好をしている。程よく焼けた肌、ショートヘアを少し巻いて顔に甘い口紅を挿す。さっきまでの中性的な声はそのままなのに、まるで別人のような愛らしさ。
姫と呼ばれるのが納得出来る仕上がり。
「セルティアって本当に綺麗だね。胸もこんなに大きいのに腰は細くって、お尻はりんごみたいに丸い。」
舐めるような視線に思わずたじろぐ。
こんな視線は久方ぶり。
「ぺちゃんこ。」
「あはは、君と比べたら僕なんてそんな物だね。」
「近づいて来ないで……っ、」
立ちあがろうとすると、急劇な立ちくらみが襲われてベッドの上に倒れ込んでしまった。そのまま力は入らず、ヒナによって仰向けに寝かされる。
「ああ、まだ薬が抜けてないからあんまり暴れない方がいいよ。」
「なに、飲ませ、たの……?」
さっきは猛烈な睡魔に襲われたけど、これはまた違う感じ。それから部屋中に香るこの懐かしくも甘ったる匂い。まるでマスカレードを彷彿とさせる香りだ。
「えーと、さっき飲ませたのは弛緩剤と媚薬だったかな。イライゼはああ見えて薬師希望でね、既に腕が良いんだ。」
勉強熱心な良い子だよね、と笑うヒナは動けない私の身体に馬乗りになった。
「じゃあ、始めようか。」
「んなっ!?」
ヒナはそう言うと私の胸元の布を取り払った。
露わになった胸に触れるヒナの手は冷たくて、くすぐったい。
「僕がちゃんとリードしてあげるから、セルティアは気持ちいい事だけに集中して。」
その言い方は、まるで男女のアレを彷彿とさせる。いや、間違っていない。この子、私とヤろうっていうの!?
「なんで、あんたとセッ……しなきゃいけないのよ!?」
「違うよ。これは二人がひとつになる儀式。」
…………?
それを性行為というんじゃないの!?
というか、なんで初対面のしかも女に初体験奪われそうになってるのよ。マニアックにも程があるわっ!!
真顔のヒナに一瞬、脳がショートしかけた。
なんとか意識を呼び起こすも、飲まされた媚薬のせいなのか、呼吸が速くなる。脳に酸素が足りていない。
魅了の魔法を使う?
いや、そんな事をしたら逆効果で更に火がついてしまいそう。だったらどうする?
考えないと……。考えないと食われるっ!!
「震えてるの? 可愛いな〜。でも大丈夫、痛くないよ。僕、上手だし。」
「ハァー……、はぁ。や、めて。」
止まらないヒナは、自身の身に付けていた胸の布を外した。咲かせれば綺麗なピンクになりそうな小さな蕾が二つ。それから金色が一つ。
「…………なに、それ?」
ヒナの胸元には金色に輝く紋様のようなものがあった。それは何処かで見た事があるような。上手く思い出せないけど、そんな様なやつ。
「大丈夫。ちょっとチクってするからね。」
「んっ……!」
彼女は私の質問なんて無視で胸を押し当てた。いや、正確には胸元にあった紋様を私の胸元に押し当てたんだ。その瞬間、全身にチクリと針が刺すような痛みが駆け巡った。
「い、たっ……い…………やだ。」
一瞬の痛みはまるで電気が身体を通り抜けていくような速さで通過した。次の瞬間、ヒナはひらりと私から降りた。
「はい、終わったよ。」
「ふぇ!?」
今だに動けない私を放置して、ヒナは何処からか取り出した制服を身につけ始めたではないか。
「もしかして、僕にセックスされるとか思ったの?」
「ち、違うの!?」
「するわけないよ。僕は君に光の加護を与えただけ。」
ほら、と胸元を見るように告げられ目をやると、そこにはヒナと同じ金色の紋様が付いていた。
「代々、光の使徒の血筋はその紋様が証であり、受け継ぐものなんだけど、紋様をスタンプを押すみたいに他人と触れ合う事で加護を渡せるんだ。」
え、じゃあ、私の焦りは?
さっきのヒナの言い方はなに!?
「僕の場合、なんでだか胸元にあるせいで渡しにくくてさ。」
テヘッと笑うヒナはもうすっかり着替えが終わっていた。少し違うのはさっきまでのズボンではなく、スカートを履き、女性らしい振る舞いをしているところ。そんな彼女を見ていると、どんどん冷静になってくる自分がいた。
「いや、いやいやいや。おかしいわよね。」
だったら、言ってくれたらよかったじゃない。
なんだったら空き教室で事足りたわよね。
それから弛緩剤と媚薬なんて使う必要なかったわよね!?
「勘違いさせるような言い方もしていたわ!!」
「ああーー、それは僕の趣味、かな?」
悪趣味が過ぎるだろっ!!!
「まぁまぁ、加護が身体に馴染むまでゆっくり寝ておくといい。」
なんだかどっと疲れが押し寄せてきた。
早く帰りたいけど、まだ身体に残る弛緩剤と媚薬のせいで身体が怠い。それに、ヒナには聞きたい事がまだ沢山残ってる。
「ここでの暮らしに不自由がないよう世話役を一人紹介しておくね。入っておいで……。」
「え?」
ベッドサイドに置かれたベルをチリンと鳴らせば重たく閉ざされていた扉が開き、一人の女性が入って来た。
「お呼びでしょうか?」
翡翠の長髪。ヘーゼルの瞳。
「うん。セルティアのお世話を頼むよ。」
「承知しました。」
聞き覚えがある、懐かしい声。
胸がさっき以上に高鳴る。
そんなはずない。彼女がこんな所に居るはずない。もうとっくに、死んでいるはず。それでも、期待が口からこぼれ落ちた。
「………………フランシア?」
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